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戸田恵梨香とムロツヨシに訪れる理不尽な運命 『大恋愛』視聴者を揺さぶる衝撃のキス

リアルサウンド

18/11/17(土) 13:00

 尚(戸田恵梨香)と真司(ムロツヨシ)は、尚の病と向き合う覚悟の末に結婚。幸せな新婚生活を迎えた。「~じゃないの?」という真司に「そうだけど~」と振り向きキスをする尚。その愛らしい行動に、真司は「何このゲーム!」と何度も同じフレーズを繰り返し、尚も何度も同じようにキスをする。このやりとりが微笑ましいのは、この先、尚が若年性アルツハイマー病によって何度同じことをしても、それを楽しむ真司の心境が現れているように見えたからかもしれない。だが、その幸せなキスを見たからこそ、ラストに尚が唇を奪われるシーンに衝撃を覚えるのだった。

参考:ムロツヨシが求められる理由は“調和力”にあり 『大恋愛』『今日俺!!』に共通する演技アプローチ

 いよいよ第2章へと突入した『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)では、新たなキャラクターが登場した。キラースマイルを振りまき、人懐っこい保育士の公平(小池徹平)は、尚と同じ若年性アルツハイマーの前段階であるMCI患者。病が判明するやいなやパートナーに去られた悲しみを抱く人物だ。職場でも、保護者に知られるのを恐れる園長によって、やりがいを感じている仕事を奪われそうだと、主治医の侑市(松岡昌宏)に訴える。「生きるには希望が必要」そう語る公平は、一見すると爽やかな好青年だ。

 だが、視聴者は公平の言動に対して徐々に違和感を覚える。尚や真司のことを執拗に知りたがり、尚と侑市のランチに飛び入り参加する。“きっと同じ病と闘う同志が欲しいのかもしれない”。多くの視聴者が、そう見ていたに違いない。だが、尚が医学生の前でスピーチを行う会場で、マイクをハウリングさせたのは、どうやら公平らしい。失神し、運ばれていく尚を見て、ニヤリと笑みを浮かべる公平。さらに、ベッドで「真司?」とうなされる尚に、「そうだよ」とキスをするのだ。

 この公平の態度が、もともとの彼の性格なのか、それとも病によるものなのか。その判断ができないところに、見ている私たちも不安を覚える。だが、それこそが若年性アルツハイマーと向き合う覚悟を決めた真司の心境と近いのではないだろうか。何がどうなるのかわからない怖さ。MCIから認知症を発症する可能性は、5年で約40%だそうだ。認知症のなかには、反社会的行動が症状に現れる前頭側頭型というものがある。物忘れや同じものを何度も注文してしまうような行動だけではなく、病によって人格が変わってしまう可能性があるのだ。他にも幻視が見えたり、動きが遅くなるレビー小体型など、その症状や進行は多種多様。尚が引っ越し蕎麦の「味がわからない」と首をかしげた味覚の変化も、ひとつの症状と言われている。

 「じわじわと壊れていくなら、いっそ今……」

 尚がそれほど思いつめたのは、この病がもたらす不安を、医師として真司よりもリアルに想像できたからだろう。だが、真司もまた尚と違う不安を抱えているのだ。それは、初めて手にした家族の温もりをじわじわと失っていく恐怖だ。子供を作ろうと言ったのも、真司という好きな人の存在が、尚を生かしたように、尚と同じくらい愛しい存在が生きる力になると思ったからではないか。まるで浜辺につくった砂の城のようなこの幸せを、波にのまれて壊れていくのをただ待つなんてつらすぎるのだろう。もちろん、それを真司のエゴだと言われてしまったら、返す言葉もない。だが、エゴと生きる希望は、限りなく近いものなのだ。

 とはいえ公平の言動が、尚もたどる可能性のあるものだとしたら? 真司が考えているよりも、尚が抱えているリスクは大きいのかもしれない。子供が母を失う絶望と、真司が子供を通じて得る希望。人生はいつだってリスクとリターンのせめぎ合いだ。公平のように生きたいと願ったもがきが、誰かの何かを奪う可能性だってある。病が誰のせいでもないならば、私たちは何に憤ればいいのだろうか。その答えを模索し、真司は再び尚を小説に描こうとする。この理不尽な運命を冷静に見つめるもうひとりの自分として。同時に、尚への愛を形に残すという意味で、ふたりの子供の化身となるのかもしれない。(佐藤結衣)