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宇多田ヒカル、cero、tofubeats……2018年のJ-POPにおける“ポリリズム”の浸透

リアルサウンド

18/11/1(木) 8:00

 宇多田ヒカル、cero、tofubeatsをはじめとして、2018年の注目作を見渡してみると、日本のポップミュージックの中にある興味深い現象が見て取れる。ポリリズムの浸透だ。

(関連:三浦大知、w-inds.、宇多田ヒカル、小袋成彬、cero……変化する日本語ポップスの譜割り

 2007年にリリースされたPerfumeによる同名のヒット曲を通じてこの言葉を記憶している人も多いだろう。ひとつの曲のなかに複数の拍子(たとえば3拍子と4拍子など)を重ねる技法を指す言葉で、Perfumeの曲にもポリリズムが登場するパートがある。とはいえ、それもアレンジの中心であるというよりは、ギミックに近かった。近年、とりわけ2018年に入ってからは、ポリリズムを中心においた楽曲が目立つようになっている。

 その背景には、このところジャズやラテン音楽の分野において、リズムをめぐる実験が先鋭化していたことがある。先日RealSoundに掲載されたインタビューで冨田ラボが指摘しているように、2000年代を通じてレフトフィールドな分野で練り上げられたポリリズムの技法が飽和し、ポップスへ染み出してきているのだ。実際、ものんくるやCRCK/LCKSといった、ポリリズムをポップスへと昇華する若手ユニットやバンドは、共通してジャズをバックグラウンドに持っている。

 それでは、具体的な例をあげながら、2018年のJ-POPにおけるポリリズム事情を辿ってみよう。

 今年一番の話題作、宇多田ヒカル『初恋』収録の「誓い」が最初の例だ。ある人にとってこの曲は、シャッフルした4拍子に聞こえるだろう。ピアノの右手(高音)のストロークひとつを1拍とカウントすれば、キックドラムが1・3拍目を、スネアドラムが2拍目を刻んでいるように感じられる。一方で、ピアノの左手(低音)のストロークを1拍とカウントすると、3拍子のワルツにも聞こえるだろう。この場合、キックは1拍目にあたり、スネアは2拍目の裏にあたる。これらのどちらが正しいというわけではなく、聴く焦点を変えると違うリズムが感じられるのだ。これがポリリズムの面白さだ。「誓い」のようなポリリズムを特にクロスリズムと呼ぶことがあるが、昨今のJ-POPでよく聴かれるのはこのクロスリズムが多い。ちなみに、今回取り上げる例はみんなクロスリズムだ。

 ヒップホップやネオソウル、ジャズを自在に横断する音楽性で作品ごとに変化してきたceroは、『POLY LIFE MULTI SOUL』でリズムのボキャブラリーを一気に多様化させた。MVが先行公開された「魚の骨 鳥の羽根」や、12インチシングルもカットされた「Waters」では、3拍子と4拍子が交差するポリリズムを全面的に展開。どちらも、1小節の中で打たれる12の拍を3で割るか(タタタタ/タタタタ/タタタタ)、4で割るか(タタタ/タタタ/タタタ/タタタ)で異なるリズムが聴こえてくる。このアルバムに一貫する肉感的なグルーヴは、ダンスミュージックとしてのポリリズムの可能性を存分に提示している。

 tofubeats『RUN』に収録された「SOMETIMES」は、技術上の問題から打ち込みよりもバンド編成の生演奏で盛んだったポリリズムを、エレクトロニックミュージックで実践した1曲。7拍子と8拍子が交差するポリリズムがビートの中に仕込まれており、ヴァースとフックで拍子がシームレスに入れ替わるトリッキーな構成になっている。2010年代終盤に至って、方法の成熟と技術の進展によって、こうしたリズムの探求がビートメーカーのなかでも一般的になってきた。

 他にも2例ほど紹介しよう。あらゆるジャンルを折衷したサイケデリックなサウンドを持ち味にする京都のバンド・本日休演が今年発表した『アイラブユー』の表題曲は、ceroの例と同様に、3拍子と4拍子どちらにも解釈できる。

 似た構造の楽曲は前作にも見られ、今作では「ラブエスケープ(feat. OMSB)」でヒップホップ的なヨレも披露していることから、こうしたリズムへの挑戦はある程度意識的なものだと考えられる。

 また、注目の若手SSW・折坂悠太も、『平成』収録の「みーちゃん」でポリリズムを効果的に取り入れている。ベースと手拍子の上で折坂の独唱が繰り広げられるパートでは少し訛った4拍子が感じられ、バンドのアンサンブルが一気になだれ込むと注意が3拍子へと差し向けられる。このメリハリが、「みーちゃん」が描く情景に独特の濃淡を与えている。

 これらの例は、J-POPの新しい展開を予感させる。難解、敷居が高いと思われていたポリリズムがポップスに浸透することで、コード進行やメロディだけではなくリズムやグルーヴもまた、楽曲が伝える物語や感情を演出する重要な役割を担いうる――tofubeatsや折坂悠太はその顕著な例だろう。ポップスにおけるリズムの拡張はいっときの流行にとどまらず、新たな語法として定着するはずだ。(imdkm)

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