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スダンナユズユリー『SYY』にはBUDDHA BRANDへのオマージュも ダースレイダーが考察

リアルサウンド

19/4/1(月) 17:00

 E-girls/Happinessのパフォーマーである須田アンナとYURINO、E-girlsでボーカルを務める武部柚那の3名によるガールズヒップホップユニット・スダンナユズユリーの1stアルバム『SYY』が、各所で評判を呼んでいる。3人のヒップホップ好きが高じてスタートした同ユニットの作品には、どんな魅力があるのか。ヒップホップ界隈のご意見番としても名高いラッパーのダースレイダー氏に語ってもらった。(リアルサウンド編集部)

参考:スダンナユズユリーが語る、目指すユニット像「かわいさとヒップホップをブレンドしたい」

■グローバルな音楽シーンと呼応するポップス

 スダンナユズユリーの1stアルバム『SYY』は、グローバルな音楽シーンの潮流をしっかりと意識した高水準のポップスに仕上がっていると思います。こうした作品が、日本のメインストリームを席巻しているLDHから生まれたことは、今後の日本のポップミュージックの発展を考える上でも重要なことでしょう。世界中の若者たちの間で共有されているヒップホップの感覚を、幅広い層にアプローチできる彼女たちのような若手アーティストが表現しているのは頼もしい限りです。このような作品は、もっと日本の音楽シーンに必要だと思います。

 1曲目の「LOOK AT ME NOW」のMVは、ヒップホップアーティストの映像作品を多数手がけてきた<HAVIT ART STUDIO + BABEL LABEL>が手がけていて、「海外から見た日本」といったイメージのエキゾチックな仕上がり。この尖った楽曲を一番最初に持ってくるところにこそ、僕はポップスのアルバムとしての完成度の高さを感じました。というのも、ポップスというのは単に誰にでもわかりやすくイージーにするのではなく、多くの人が「なんだろう?」と気になるようなものだと考えているからです。その意味で、現行のヒップホップのテイストをキュートかつクールに表現したこの曲は、スダンナユズユリーのポップセンスが存分に発揮された一曲と言えるでしょう。

 Jun Inagawaさんの漫画タッチのジャケットもすごく日本らしくて可愛い。このジャケットで、聴いてみたら一曲目が「LOOK AT ME NOW」というのもインパクトがあり、ワクワクしますよね。よく見ると、武部柚那さんの蝶ネクタイがドクロマークになっていたりして、遊びも効いています。アナログレコードでも欲しくなりました。

 楽曲面でいうと、デビュー曲でもある「OH BOY」をはじめ、収録曲全般に言えることですが、Aメロ、Bメロ、サビという日本のポップスの定番の作りとは異なる構成になっているのも、彼女たちの面白さだと思います。武部柚那さんのサビメロはあるのですが、それよりもむしろ3人の掛け合いを重視した構成になっていて、それが聴きどころにもなっている。彼女たちのような発信力のあるグループがこういう楽曲に挑戦することで、J-POPの表現はさらに多様になっていくのではないでしょうか。

 僕が一番好きだったのは、3曲目の「Party on the pizza」。「LOOK AT ME NOW」や「OH BOY」などと、使っているボーカルのテクニックは同じなのですが、テーマを思いっきり変えることで、彼女たちの違った魅力を引き出している。くだけた調子でピザの話をしている楽曲で、10代の子たちのパーティー感覚を代弁しているような楽しさを感じました。今の若い子たちは大人しいイメージがあるけれど、案外楽しそうで良かった、みたいな(笑)。

■EXPG出身者のポテンシャルの高さ

 メンバーの3人が、LDHが運営する総合エンタテインメントスクール「EXPG」の卒業生だというのもポイントです。スダンナユズユリーは彼女たちの趣味から始まったグループだと言いますが、もともと音楽に対する姿勢がストイックで、ベーシックなトレーニングをしっかり積んでいるからこそ、好きなことをポンとやってもちゃんと形になる。海外のラッパーなどは、親がずっとブラックミュージックを聴いていて、その影響で子どもの頃からラップを始めたというケースが非常に多く、日本にはそういう環境がないからラップスターは生まれにくいと言う人もいますが、「EXPG」の生徒たちはそれこそ子どもの頃から浴びるようにブラックミュージックを聴いて育っているわけで、僕はそこに大きな可能性を感じています。

 須田アンナさんとYURINOさんは、スダンナユズユリーとして初めてラップに挑戦したと言いますが、パフォーマーとして培ったリズム感やグルーヴ感が、そのままラップのフロウになっている。日本のポップスはダンスミュージックにならないケースがほとんどですが、スダンナユズユリーの楽曲は自然と体が動くものが多い。そこも評価できるポイントでしょう。

 それから、3人の仲の良さが自然とにじみ出ているのもすごく良いと思います。レコード会社の人選じゃなくて、もともと気の合う3人なんだというのが、見ていてよくわかります(笑)。それぞれちゃんとカラーがありながら、バッチリ仲間感があって、それがナチュラルにできているのがすごい。こういう関係性を長い期間をかけて育めるところも「EXPG」の良さかもしれせん。

■BUDDHA BRANDへのオマージュも

 スダンナユズユリーのA&Rを務めている櫻井克彦さんは、90年代のど真ん中にヒップホップシーンでDJをしていた方で、僕とはもう20年ぐらいの付き合いになるのですが、彼が制作陣にいるのも頼もしいですね。というのも、最近は90年代のR&Bやヒップホップを再評価しようという機運が高まっていて、当時のテイストを感じさせる作品が続々と登場しているんです。櫻井さんが現役の頃に培った感覚を、スダンナユズユリーがアップデートして表現していると考えると、歴史性も感じられます。

 また、90年代といえば、彼女たちのビジュアルは初期のTLCを彷彿とさせますが、TLCは2nd、3rdとアルバムを出すたびに大きな進化を遂げたグループなので、スダンナユズユリーにも伸び代を感じずにはいられません。9曲目の「ハピゴラ!」などは、まさに90年代のブレイクビーツを再解釈した楽曲で、真夜中に大音量でクラブで聴きたい感じ。こういう楽曲にさらりとチャレンジできるのも、今のLDHならではの強みでしょう。

 また、エンジニアがD.O.I.さんで、かなりぶっとい音に仕上がっているので、爆音で聴いたら面白そうです。それでいてトラックはSKY BEATZさんなど、ヒップホップ界隈でもお馴染みの面々が手がけている。DOBERMAN INFINITYとフィーチャリングした「こんにち What’ s Up! Remix feat. DOBERMAN INFINITY」はサイファー感のあるポッセカットで、ヒップホップの楽しさがたっぷり詰まった仕上がりです。

 最後から2曲目の「TEN MADE TOBASO」。これはD.O.I.さんがアルバムバージョンのミックスを手がけたBUDDHA BRANDの「人間発電所」のフック部分をオマージュしているのかなと。歌の中で、スダンナユズユリーは独自にこのフレーズを解釈しているのですが、世代を越えてフックが継承されているのを実感して、熱いものが込み上げてきました。

 90年代~2000年代にかけて築き上げられた日本のヒップホップシーンのエッセンスが、こうして今、メインストリームで活躍するLDHの若手アーティストの中に息づいているのは、とても喜ばしいことです。彼女たちを見て、さらに若い10代の子たちが触発されるという流れができていくと、日本の音楽シーンはもっと豊かになっていくのではないかと、希望を感じました。(DARTHREIDER a.k.a. Rei Wordup)

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