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『のび太の月面探査記』は「映画ドラえもん」の集大成 “SFのロマン”を探求する物語に

リアルサウンド

19/3/18(月) 12:00

 「学校の裏山で見つけた古井戸が地底人の出入り口だと主張し、スネ夫から馬鹿にされたのび太。そこでドラえもんが出したひみつ道具は“異説クラブメンバーズバッジ”。現代科学では否定されている“異説”を、バッジを付けた人だけが体験できるという道具だ。それを使ってのび太とドラえもんは地底に王国を作り出し、ジャイアンとスネ夫をそこへ連れて行くのだが、2人は地底王国の存在をマスコミや不動産業者に伝えて大騒動に発展。のび太とドラえもんは地底の暮らしを守るために、バッジを埋めることを決める」。

参考:ドラえもんにあるロマン

 これは現在公開中の「映画ドラえもん」第39作目『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の原案となった、単行本23巻収録のエピソードのあらすじである。この筋書きの舞台を地底から月へと置き換え、そして常に“友情”がテーマに据えられる大長編の性質通りジャイアンとスネ夫は秘密を守る仲間として描き直され、他にも様々な要素を加えて作り出したのが今回の映画というわけだ。これまでも幾度となく藤子・F・不二雄が存命した時代に描かれた短編エピソードをふくらませて映画にするという選択肢がなされてきたが、今回の題材はその中でも極めて重要なものである。

 というのも、この物語の主たるテーマである“異説”というもの自体が「ドラえもん」という作品、それどころか藤子・F・不二雄作品において欠かすことのできないものであるからだ。地底に大きな空洞があって恐竜が生きていたり、別の文明が存在している、宇宙人がいる、未知の動物や人類未踏の秘境が存在している。さらにはドラえもんという存在そのものであったり、彼がやってくるタイムマシンに至るまで、藤子・F・不二雄における「SF」=「すこしふしぎ」とは、現実の世界では“異説”と言われるものの奥に秘められたロマンを見
つけ出し、それを探求していく。

 80年代後半に科学雑誌に連載され、その後単行本化された『藤子・F・不二雄の異説クラブ』という書籍がある。タイトルの通り、この「異説クラブメンバーズバッジ」がその核として紹介され掘り下げられているのだが、そこにはこのように書かれている。「たとえその99パーセントまでが科学的に否定された異説であっても、まだ1パーセントの可能性が残されているのであれば、その1パーセントのロマンに夢を遊ばせてみよう」。この言葉、この発想はすべての「ファンタジー」というジャンルに応用することができるのではないだろうか。

 科学や現実の中に埋没させられてしまった想像力こそがファンタジーやSF、“すこしふしぎ”の源となり、いずれもその前提に極めて現実的なものが横たわることで、魅力が増していく。現実と並行に魔法世界が存在する『ハリー・ポッター』、おもちゃたちが生きて動いているがそれを人間に気付かれてはいけない『トイ・ストーリー』、また『ドラえもん』でもひとつひとつのエピソードに現実世界に向けた教訓が存在している。つまり“異説”が“定説”として自然とそこにあるのではなく、“異説”が“定説”のように見えていきながら、結果的に“定説”になり得ないまま“異説”として現実世界へと波及していく。このふたつの関係が重要なのであろう。

 閑話休題、今回の映画の中では月面探査機が謎の映像をとらえて消息を絶ち、のび太のクラスではその話題で一色となるシーンから始まる。そして原案エピソードのように月の裏側に王国を作るのび太とドラえもん。瞬く間にその王国が発展して行く様や、最初に作ったいびつな怪獣が暴れ出すというくだりは原案に忠実に描写されていく。そういった中に、大長編としてのエッセンスとしてルカという謎の少年が登場。彼が“エスパル”という故郷を追われた、超能力を持つ子どもたちばかりの種族で、ディアボロ率いるカグヤ星の一味から狙わ
れているという展開の拡がり方も、いかにも大長編らしい要素と言える。

 のび太たちが何もないはずの場所に新たな世界を作り上げるが、そこにはすでに先住者と呼べる存在がいた、という流れは『竜の騎士』や『雲の王国』に通じる。また、敵キャラクターとなるディアボロの正体についても(詳しくは言えないが)初期大長編の中でも指折りの名作といわれる作品と共通しているのだ。そんな一見するとこれまでの“焼き直し”のようにも思えてしまう中で、ドラえもんのひみつ道具の効果を180度覆す道具が作り出されるという極めて珍しいくだりがあった点は見逃せない。

 また、前述したような“異説”と“定説”の従来の関係性を打破するようなクライマックス。もちろん物語上必要な手段であり、それがのび太たちの暮らす現実的世界へも波及していく点では変わらないのだが、どことなく「ファンタジー」というジャンルのあり方が“すこしふしぎ”から変化しているようにも思える。いずれにしても今回の『月面探査記』という物語は、純粋に「映画ドラえもん」の集大成という位置付けと考えて間違いはないだろう。来年は節目となる40作目。そこからまた、新たな一歩を始めようという気概なのかもしれない。 (文=久保田和馬)

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