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ぴあ

全編わずか10カット 『ブッシュウィック-武装都市-』の“長回し”は、3本の映画を想起させる

リアルサウンド

18/8/8(水) 10:00

 映画は映画であるから、役者の近くにはカメラとスタッフがいるものだ。この当たり前のことを私たちはけっこう忘れがちである。今、画面に映っていない部分には、スタッフがいてカメラを回している。このことを念頭置いて見てみると、映画は全く違った面白さを帯びてくる。端的に言うなら、「これ、どうやって撮ったんだ?」という疑問と好奇心だ。そして「長回し」は、こうした好奇心をガツガツ刺激してくる技法である。この長回しが大いに楽しめるのが新作『ブッシュウィック-武装都市-』(17年)だ。

参考:地下鉄を降りたら街が戦場に? 『ブッシュウィック-武装都市-』緊迫の冒頭映像公開

●3本の映画を想起させる“長回し”

 ごくごく平凡な女性ルーシー(ブリタニー・スノウ)は、恋人とともに実家へ向かっていた。しかし、地下鉄の駅に降り立ってみると、何かがおかしい。人影もまばらで、しまいには燃えた人が転がってきた。いったい何が起きているのか? 地上へと続く階段を登ると、そこは武装した謎の兵士たちが闊歩する戦場になっていた。何一つ分からないまま、ルーシーは戦場と化した街を逃げ惑うのだが……。

 このあらすじでピンと来た方も多いだろう。本作は『若き勇者たち』(84年)に代表される、おらが村が戦場に……モノ。ある意味で定番のお話である(『パージ』シリーズっぽさもある)。しかし、それをわずか10カットで構成しているのが本作最大の特徴だ。この思い切った長回し中心の構成によって、本作の臨場感は確実に高まっている。それは過去にあった2本の大作映画を想起させ、「ある疑問」を挟んだあとに、もう1本、計3本の映画を想起させるほどだ。

●下敷きには『クローバーフィールド』

 1本目は、大都市が怪獣に襲われるという古典的な物語を“足元”の視点から描くことで好評を博した『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08年)。若者たちがパーティーをしていたら、急に自由の女神の首が吹っ飛んできて、謎の大怪獣と軍隊がドンパチを始める。謎の軍隊と大怪獣の違いはあれど、唐突に非日常に放り込まれる感は共通しており、『ブッシュウィック』の下敷きには、間違いなく本作があると言えるだろう。しかし、『クローバー~』は「怪獣の目撃者が手持ちカメラで撮影した」という体の1人称視点だが、『ブッシュウィック』は完全な3人称視点だ。このことが、もう1本の映画へと繋がる。

●『トゥモロー・ワールド』に近い追跡劇

 2本目はアルフォンソ・キュアロン監督の『トゥモロー・ワールド』(06年)だ。子どもが全く生まれなくなった未来の世界。このまま人類は滅びていくのかと絶望的な雰囲気になっているところで、奇跡的に妊娠した女性が見つかる。すったもんだの挙句、クライヴ・オーウェン扮する主人公は彼女を守るために奮闘するのだが……というお話。本作の長回しも非常に有名だ。戦場を走る主人公らを追うように、背中にピッタリと張り付き、その逃走劇を長回しで見せてくれる(実際はあの手この手でカットを割っていないように見せている疑似ワンカットだが)。『ブッシュウィック』の雰囲気は、この映画の追跡劇に近い。

 ところで、既に勘のイイ方はお気づきだろう。先に書いた「ある疑問」だ。つまり……『クローバー~』も『トゥモロー~』も、けっこうな予算がかかった大作である。『ブッシュウィック』に、これらの映画のようなマネー・パワーがあるのか? それは……まぁ、正直そうである。予算規模で言えば、先に上げた2本の方は遥かに大きい。しかし、本作はある映画を手掛けたXYZ Filmsの作品だ。その「ある映画」こそが3本目。『ザ・レイド GOKUDO』(14年)である。

●『ザ・レイド』に通じる予算以上のビジュアル

 『ザ・レイド』(11年)と言えばシラットを使ったド迫力の格闘映画だが、その続編『ザ・レイド GOKUDO』はカーチェイスシーンがあり、ここで驚異のカメラワークが確認できる。シラットで殴り合っている車の中から、それを追う別の車の運転席へカメラがワンカットで移動するのだが、これを人力でやっているのだ(詳細はthe raid 2 cameraでググると出てくる)。本作もそうしたド根性と工夫によって予算以上のビジュアルを成立させているのだろう。特にクライマックスの戦場と化した町は迫真の出来だ。力(と金)の入れどころの適切さには目を見張る。ちなみにXYZ Filmsは、武器と合体した武器人間が襲って来る『武器人間』(13年)、『ザ・レイド』のイコ・ウワイスがひたすら戦う『ヘッド・ショット』(16年)、謎の宗教にモンスターにと大盤振る舞いのオカルト・ホラー『ザ・ヴォイド 変異世界』(17年)や、ニコラス・ケイジの新たな代表作と評判の高い『Mandy(原題)』(18年)など、特殊な映画にばかり関わっており、注目の映画会社である。

 『クローバーフィールド』的な発想に、『トゥモロー・ワールド』的なルックス。その豪華はコンセプトを低予算ながら『ザ・レイド』的ド根性と工夫で映像化した。『ブッシュウィック-武装都市-』はそういう映画である。全編10カットという実験的な構成と、社会的なメッセージ性、役者の力への信頼(バティスタは例によって激渋だ)、そして最後の最後の唖然とする展開も含めて、高い志を感じる1本だ。(加藤よしき)

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