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いま、最高の一本に出会える

愛は人を変える原動力となるーー『パーフェクトワールド』『パリ、嘘つきな恋』を通して気付くこと

リアルサウンド

19/6/4(火) 8:00

 大学時代に事故に遭い、下半身不随になった建築士の鮎川樹(松坂桃李)と、高校時代の同級生で彼に片思いしていた川奈つぐみ(山本美月)の純愛を描くドラマ『パーフェクトワールド』(カンテレ・フジテレビ系)。車いす生活を送る樹と、彼を支える存在になりたいと健気に行動していくつぐみのラブストーリーは、障がい者と健常者の恋愛という枠を越えて、誰かを愛することで生じる矛盾や障壁を浮き彫りにする。

 6月4日に放送される第7話では、互いを思い合うゆえに別れた2人が再会し、ある夫婦の夢を知ることによって違う視点で相手を見つめ直すという展開が待ち受けている。

 つぐみの恋のライバルであり、樹をサポートするヘルパーの長沢葵(中村ゆり)は、専門的な介護知識や経験がないつぐみに対して「愛だけでは乗り越えられない」「あなたより支えられるし、役に立つ自信がある」と、きつい言葉を投げかける。

 また、つぐみの父親、元久(松重豊)も樹の人生を背負えるような強さが娘のつぐみにあるとは思えず、交際を猛反対。娘の結婚相手には、病気である自分の代わりに守ってくれる男性を強く求めていた。

 「愛だけでは乗り越えられない壁がある」という現実を突きつけられたつぐみは、仕事を続けながら介護資格を取得しようと無理を重ねたことが原因で貧血を起こして線路に転落。自分の目の前で彼女が危険な目に遭っても助けることができなかったこと、彼女が自分に内緒で介護の勉強をして体調を崩していたことで苦しんだ樹は自ら別れを切り出すしかなかった。

 障害のある樹が日常で直面する困難や仕事をしていくうえで問題を克服していく姿がリアルに描いているだけに、彼女を守れない樹のつらさ、悔しさは観る者の心を動かした。一緒にいると幸せを感じられるが、幸せだと思えば思うほど、自分が相手にしてあげられないことの重さを感じてしまう。

 樹はつぐみと再会する前に、もう恋愛はしないと決めていた。樹に「相手に迷惑をかけたくない」「好きな人のことは自分が守りたいし、犠牲になるようなことはしてほしくない」という気持ちがある限り、彼は恋愛で幸せになることができないのだ。

 確かに、きれいごとを並べても愛だけは生きていけない。しかし、愛がなければ壁を乗り越えようという気力さえおきないことも人生にはあるのではないだろうか。

 娘の幸せを願う父は、自分が娘にしてきたように保護して守ってくれる男性を娘の結婚相手に望む。また、樹をサポートするヘルパーの葵は自分の知識と経験があれば彼を支えられるし、誰よりも役に立つと自負している。そして、つぐみの幼なじみで彼女に片思いしてきた是枝洋貴(瀬戸康史)は、長い間彼女を見てきた自分こそが彼女の理解者であると感じている。つまり、幸せを願う対象の気持ちよりも、自分の理想を相手に投影しているのだ。

 幸せを願ってのこととはいえ、理想の押しつけでは相手の心は動かない。つらくても、苦しみを伴っても、自分がその状況を受け入れ、自分と向き合い、許容したときに初めて幸せに向かって自分を変えることができるものではないだろうか。

 障がい者である樹と健常者であるつぐみを隔てるもの、必要とされるバリアフリーについて考えさせられるだけでなく、真っ正面から愛を描く本作だが、現在公開中の映画でも車いす生活と愛をテーマにした作品が2本ある。

 フランス映画『パリ、嘘つきな恋』は、嘘がきっかけで始まる大人のラブストーリー。大手シューズ代理店で働くお金持ちで軽薄な主人公・ジョスラン(フランク・デュボスク)が、たまたま車いすに座っているときに美人と遭遇して、気を引くために「車いす生活だ」と嘘をついたことがきっかけで、車いす生活を送る魅力的な女性、フロランス(アレクサンドラ・ラミー)を紹介され、恋に落ちる。

 慣れない車いすでロマンチックなデートを重ね、それまで恋愛は遊びと割り切り、一時的な楽しさだけを求めていたジョスランが初めて本気で恋をした。互いに惹かれ合うものの、ジョスランはなかなか本当のことを言い出せない。

 社会的には成功を収めてはいるが、嘘つきで、お調子者で、本当の自分をさらけ出せないジョスランと、車いす生活ながらヴァイオリニストとして世界中を飛び回り、おしゃれで、テニスも得意な生命力あふれるフロランス。

 主演だけでなく、監督・脚本も手がけたフランク・デュボスクはコメディアンで、全く説教臭いところなく、本物の恋で初めて自分らしさを発揮できた男を描いている。ドラマ『パーフェクトワールド』が女性向けコミックを原作にした王道のラブストーリーであるように、嘘から始まった恋がやがて本物の愛になるというロマンティックコメディとしては正統派。差別や偏見といったデリケートなテーマを内包しながらも幸せな気持ちになれるのは、洗練されたユーモアと美しい景色、愛の言葉が印象に残るからだろう。

 そして、映画『ドント・ウォーリー』は実在の風刺漫画家ジョン・キャラハンの物語だ。アルコールに頼りながら生活していたジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)は事故で胸から下が麻痺し、車いす生活を余儀なくされる。人生が一変した絶望の中で出会ったのが、セラピストの女性アヌー(ルーニー・マーラ)。

 酒に溺れ、自暴自棄な日々は続いたが、禁酒を決意したことで禁酒会の主催者ドニー(ジョナ・ヒル)に導かれ、初めて本気で自分の過去と向き合うことができた。自分を捨てた実母を探すことをやめ、自分自身を許し、彼は辛辣で過激な風刺漫画家としての才能を開花させていく。

 愛する対象を見つけ、自分と向き合い、自分と他者の弱さを許容する。心を開くきっかけがあれば人はいつでも、どんな最悪の状態にあっても変わることができる。繊細で難しいテーマだからこそ、丁寧に作られたことがわかるし、作品を通して気づかされることも多い。

 『パリ、嘘つきな恋』の監督の言葉で「愛をもって相手を見れば、差異に対する偏見は消えることを伝えたい」とある。これらの作品群を通して、愛が人を変える原動力となることを私たちはもっと自分のこととして考えるべきなのかもしれない。

■池沢奈々見
恋愛ライター、コラムニスト。

■放送情報
『パーフェクトワールド』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松坂桃李、山本美月、瀬戸康史、中村ゆり、松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.)、岡崎紗絵、池岡亮介、木村祐一、水沢エレナ、堀内敬子、とよた真帆、麻生祐未、松重豊
原作:有賀リエ『パーフェクトワールド』(講談社『Kiss』連載)
脚本:中谷まゆみ
音楽:菅野祐悟
主題歌:菅田将暉「まちがいさがし」<作詞・作曲・プロデュース:米津玄師(EPICレコードジャパン)>
プロデューサー:河西秀幸
演出:三宅喜重 白木啓一郎
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/perfectworld/
公式Twitter:https://twitter.com/perfectworldktv

■公開情報
『パリ、嘘つきな恋』
公開中
監督・脚本:フランク・デュボスク
出演:フランク・デュボスク、アレクサンドラ・ラミー
配給:松竹
フランス/108分/2018年/英題:Rolling to You/原題:Tout le Monde Debout
(c)2018 Gaumont / La Boetie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public
公式サイト:http://paris-uso.jp/

『ドント・ウォーリー』
公開中
監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
出演:ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック
音楽:ダニー・エルフマン
原作:ジョン・キャラハン
配給:東京テアトル
提供:東宝東和、東京テアトル
原題:Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot/2018年/アメリカ/英語/113分/カラー
(c)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
公式サイト:www.dontworry-movie.com

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