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『ダンボ』ティム・バートンが描く、“普通”の枠組みから外れた愛しき主人公たち

リアルサウンド

19/4/4(木) 10:00

 “大きすぎる耳”をもって生まれた子象が、コンプレックスを希望に変え、大空を羽ばたく姿を描いた『ダンボ』。1941年に制作されたアニメーション映画が、ティム・バートン監督によって実写化された。

【写真】実写版ダンボのビジュアル

 バートンは、カリフォルニア芸術大学でアニメーションを学んだ後、ウォルト・ディズニー・スタジオに入社。ディズニーのアニメーターとして『トロン』(1982年)などの作品に携わった。その後、短編映画『フランケンウィニー』(1984年)などを手がけ、『ピーウィーの大冒険』(1985年)で長編映画デビューを果たす。彼の映画は奇怪なキャラクター造形や独特の色使い、不気味な世界観が印象的だ。近年では『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)や『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)といった児童文学原作の作品も手がけ、子どもから大人まで家族で楽しめるようなファミリー映画も制作している。

 そんな彼が監督した『ダンボ』は、ファミリー映画として完成されているだけではない。ディズニーで異質な存在だった彼の姿を思い出させる作品でもある。

 ダンボは“大きな耳”をもって生まれたがために、サーカスの仲間たちや観客に笑い者にされる。しかしその“大きな耳”で空を舞ったダンボは、自分にしかできないことで逆境をはねのける。一方、ディズニーのアニメーターとして働いていたバートンは異端児扱いされていた。ディズニー風スタイルの絵を描くことができず、クローゼットに長時間居座り出てこなかったり、机の下にもぐりこんだりと奇行を繰り返していたからだ。だが彼は自分にしか描けない世界観を貫き、唯一無二の存在となった。

 彼の作品では、“普通”という枠組みから外れた主人公が自分にしかできないことを見つける姿が数多く描かれてきた。『シザーハンズ』(1990年)では、両手が大きなハサミになっている青年エドワードが主人公だ。恐ろしい風貌だが、彼は植木を美しく装飾する才能やヘアドレッシングの才能を自ら示し、隣人たちに受け入れられるようになる。『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)の主人公・アリスも現実世界では変人扱いされ、窮屈な日々を過ごしている。しかしワンダーランドでの冒険がきっかけで自信を持ち、貿易商として単身、世界へと飛び出していく。

 『ダンボ』もまた、バートンが描き続けるアウトサイダーな部分が活かされた作品だ。ダンボの“大きな耳”に注目が集まるシーンでは、人々の奇怪なものを見る視線が刺々しく、思わず心苦しくなる。本作ではダンボの視点から見た映像が何度か挿入されるが、ダンボの潤んだ目が映し出す映像からは不安や緊張が感じられ、観客にダンボの苦難を追体験させる。だが、その“大きな耳”がダンボの自信に変わった瞬間、人々の目は高揚に変わった。空を舞うダンボも、悲しみや戸惑いを見せていた表情から一転、イキイキとした顔つきになる。自分の力で困難を切り開いてきた主人公を描いてきたバートンだからこそ、苦難を乗り越える描写には説得力があった。

 バートン版『ダンボ』の、原作に敬意を示す演出にも注目だ。アニメ版で語り手として登場するネズミのティモシーや喋る機関車は“別の形”に姿を変えて登場。ダンボが空を飛ぶときに握りしめている“魔法の羽”は、導入こそ違えど、ダンボが空を飛ぶきっかけとして重要な役割を果たす。また、当時アニメーションとして斬新だと評判を呼び、SNS上で「トラウマになる」との声も挙がっていた“ピンクの象”のシーン。原作のようなサイケデリックさは抑えられ、ピンク色のシャボン玉に姿を変えた“ピンクの象”は次々にダンボの目の前に現れる。どこか奇妙なのに美しい、バートンならではの幻想的な映像に仕上がった。

 ダンボの物語に対する説得力のある演出と比類のない映像美。バートンが経験してきたすべてが『ダンボ』に活かされていると言っても過言ではない。

<参考文献>
『バートン・オン・バートン』(編者:マーク・ソールズベリー/訳者:遠山純生/1996年11月1日/フィルムアート社)

(片山香帆)

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