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阿部寛が明かす、“加賀恭一郎”の8年間 「『新参者』シリーズは役者としての基盤を支えてくれた」

リアルサウンド

18/8/27(月) 13:00

 2010年4月に連続ドラマとしてスタートした東野圭吾原作の『新参者』シリーズの完結編となる『祈りの幕が下りる時』のBlu-ray&DVDが現在発売中だ。数多ある「刑事モノ」で描かれる刑事とは一味違う、加賀恭一郎という主役を生み出した本シリーズは、8年にわたり多くのファンを獲得し続けてきた。

 リアルサウンド映画部では、8年にわたり加賀恭一郎を演じた阿部寛にインタビューを行った。本シリーズが自身に与えた影響から、完結編となる『祈りの幕が下りる時』の見どころ、共演した松嶋菜々子の魅力までじっくりと語ってもらった。

参考:阿部寛主演『祈りの幕が下りる時』はシリーズの総決算に 『新参者』からの魅力を紐解く

●全く演じたことがないタイプの役だった

ーー阿部さんにとって、『新参者』シリーズで演じた加賀恭一郎はどういう存在ですか?

阿部寛(以下、阿部):8年前、『新参者』(TBS系)で初めて日曜劇場で主役をやらせてもらいました。『新参者』の刑事・加賀恭一郎役は、犯人や容疑者の外見だけではなく、心の動きを敏感に感じ取る刑事の役なので、彼らの持つ感情の動きに対しての目に見えない心の反応を、目に見える芝居にどう反映させていくかは意識していました。それまではどちらかというと自分が一人で突っ走っていくようなエキセントリックな役が多かったので、むしろ“動かない刑事”加賀へのアプローチはそれまでとはちょっと違いました。

ーー加賀恭一郎はこれまでの刑事ドラマには出てこなかった独特なキャラクターだと感じます。

阿部:『新参者』シリーズを通して、僕としては、加賀を演じることは、手足をもがれたみたいな感覚がありました。8年前は色々な役を演じるにあたって、その時々の方法でその役を“捕食”しようと思ってましたけど、加賀の場合はほとんど動かない、何を考えているのかもわからない不思議な男。なので、相手と向きあって、自分の心の中に沈めていくという芝居だったと思うんです。自分がそういう役を演じることになり、しかも主演という物語においてもっとも重要な人物だった。全く演じたことがないタイプの役でしたし、なおかつ加賀は悪役だったり尖がったところのある人間じゃなくて、人の心をちゃんとくみ取って沈めていって、自分の血と肉にしていく人です。そういう深みのある人物だったので、最初は手探り状態で役を模索していましたが、普通に喋るような素振りで何かを聞き出したり、核心をついても決して表情に出さない、そんな加賀を徐々に自分の中で確立できるようになったと思います。

ーーそもそも、なぜ加賀の役を引き受けようと思ったのでしょうか?

阿部:ドラマ『新参者』の話をもらった時、僕ももう45歳くらいになっていたので、そろそろ本格的な刑事役にも挑んでみたいと思っていました。昔でいうと『特捜最前線』(テレビ朝日系列で1977年~1987年3月26日まで放送された刑事ドラマ)などの作品を観ていて、やっぱり刑事は背中で何かを示せるような、深い人間じゃないと難しいなと思っていたのですが、この年齢で逃げても仕方がないなと。さらに東野圭吾さんが描く加賀恭一郎はすごく魅力的な役柄だったので、いい機会だなと思ってやることしました。

ーー当時、役作りの上で意識していたことは?

阿部:最初にドラマ『新参者』がスタートする時は、“刑事の怖さ”を出すのが一番のテーマでした。小さい頃、別に捕まるような悪いことをしたわけじゃなかったと思うんですが、近所で何かあったみたいで、警察の方に聞き取りをされたことがあったんです。「あそこの家の人見たか」とか「いつ見たか」とか。その時は親がいなくて、玄関の前で僕が4~5人の刑事と相対しました。優しくて物腰は柔らかで静かなんですが、雰囲気はものすごく怖い。そんな印象があったから、同じような印象を視聴者が持ってくれたらいいだろうなと考え、加賀のキャラクター作りにも反映させました。

●加賀の感じ方、考え方が僕自身の精神になった

ーーシリーズの完結編となる映画『祈りの幕が下りる時』は、加賀の心情や過去も物語の展開に絡んでいきます。演じるうえでどんな工夫がありましたか?

阿部:あえて何も考えませんでした。『祈りの幕が下りる時』は親父(加賀隆正)との確執というのが一番大事なテーマで、それは加賀自身のテーマでもある。『赤い指』(2011年放送のTBSスペシャルドラマ第1弾)の時から、隆正(山崎努)という父親との関係を、加賀はずっと引きずっています。ですから、たとえ親子であっても刑事のように淡々と隆正との関係を保っていく中で果たして加賀はどのような決着をつけるのか、ある種、客観視しながら見ていました。それが、加賀ならではの感覚なんでしょうね。8年間そういう思いを持ち続けてきたから、その加賀の感じ方、考え方が僕自身の精神になったみたいな感じでした。

ーー刑事ものですが、シリーズを通して親子のつながりの話でもありましたね。

阿部:そうですね。もし家族関係の中で犯罪が起こっても家族の誰かが犯罪に巻き込まれたとしても家族の繋がりや血は簡単には断ち切れないじゃないですか。だからこそ、作品の中でその関係を連続的に描いていくことによって、色々な家族のあり方を知ることができる。結局、加賀も家族の問題は完全には解決しきれない。でも、そこになにか足跡を残していくんですよね。それでも加賀は生きていくというか、彼の感じた生きることの切なさが『新参者』シリーズには流れていると思います。

ーー今作はドラマ版とは違う映画ならではの骨太なドラマに仕上がっています。福澤克雄監督は『下町ロケット』(TBS系)でも一緒にドラマを作っていますが、ドラマと映画で演出の違いは感じましたか?

阿部:今回福澤さんと初めて一緒に映画をやらせていただきましたが、福澤さんの撮影体制は、ドラマとはそんなに変わってなかったような気がします。『新参者』シリーズの一番最後を福澤さんに撮ってもらったらどうなるだろう?と個人的な興味もありました。素晴らしい作品に仕上げてくださり嬉しかったです。これだけ長く続いて、知名度もある作品を一番最後にまとめるのは、すごく難しかったと思います。福澤さんは「刑事ものは苦手なんだよ」と言ってましたけど(笑)、そこに焦点を当てて作り上げてくださったことに感謝してます。

ーー加賀の人物像について、福澤監督は何と話していましたか?

阿部:福澤さんが原作を読んで「これはマザコンってことにしましょう」とおっしゃっていて、「そこか!」と思いました。それで、福澤さんだから福澤さん独自の世界観があるだろうなとお任せしたんですよね。話のテンポも上がっていて、捜査会議のシーンからドキドキするような展開で始まっていく。あのスピード感は、すべて飽きさせることなく作っていくという福澤さんならではのやり方だったと思います。その上で泣ける要素や感動があるという作りは、これまでのシリーズとは違う魅力が出ていると感じました。

ーー従弟役の松宮脩平を演じる溝端淳平さんは、シリーズ1作目から出演していますが、阿部さんから見てどんな人ですか?

阿部:彼は屈託のない明るい人間です。1作目の『新参者』の時、溝端くんは20歳で、その時から一緒にやってるので非常に長い付き合いになりました。『眠りの森』は『新参者』の前日譚であり、溝端くんは出演していませんでしたが、『新参者』シリーズに対する思いは、彼自身強く抱いていたみたいで、今回久しぶりに一緒に演じて、彼の心が強く育ったんだなと感じました。『祈りの幕が下りる時』の前半戦は、溝端くんが引っ張っていく役だったので、彼の力強さが目立ったと思います。裏エピソードとしては、最後の舞台挨拶が終わって、そのあと彼は仕事があって仮打ち上げみたいなのを途中で抜けたんですが、それでは収まりきらずに、次の大入りの舞台挨拶の時に打ち上げをもう一度やってくださいと(笑)。その後、打ち上げを改めて開いたのですが、本当に熱い思いを伝えてくれて。やっぱり嬉しかったですよ。一緒に作品を作り上げた仲間がそのような思いを持ってくれたことがね。

ーー本作のキーマンである浅居博美を演じる松嶋菜々子さんとは初共演です。

阿部:松嶋さんは素晴らしい女優さんでした。現場で色々話をさせてもらったんですが、すごく深みがある方でした。一緒にお芝居をしてても目線だけで伝わってくるものがあり、心でお芝居される方なんだなと。気負うようなシーンでも、力が抜けていてとても自然でした。印象深いシーンが2つあります。1つ目は、映画のクライマックスとなる明治座の演出家室の狭い空間でのシーン。このシーンでは、松嶋さんはリハーサルから涙を流されていました。僕はそれがすごく嬉しかったし、あの芝居の強さが見事に映画の最後、本シリーズの最後を締めることに繋がったように思います。もう1つは、浅居博美に加賀恭一郎が出会った剣道教室のシーン。加賀としても、僕自身としても、これから松嶋さんと芝居をしていくんだ、という覚悟のようなものを覚えた場面だったのですが、歩いてくる松嶋さんの姿にもこの作品に対する覚悟のようなものが感じられ、今でもはっきりと記憶に残っています。共演シーンではありませんが、浅居博美の親を演じた小日向文世さんとのシーンは本当にすごかった。あの鬼気迫る様子は役者というもの、演じるということを超えたものだったように思います。

ーー阿部さんが座長として意識されたことは?

阿部:座長として特に意識したことはあまりないんです(笑)。それぞれのキャストが自身の限界に挑んで芝居をしている。その姿を一番間近で見ることができることが非常に嬉しかったし、福澤さんの現場は、みんなが自分の能力を少しずつ超えていくような感覚があります。新しいキャストも加わって一緒に戦っていく環境が心地よかったです。

●役者としての基盤を支えた『新参者』の8年間

ーー8年続けてきた加賀恭一郎は、阿部さんのキャリアにとってはどういう位置づけですか?

阿部:1つの役を長くやり続け、しかも、途中何度も違う役を演じて戻ってくると、その時の自分の現状やバロメーターを図れるんです。もちろん長いことやれば、良いときも悪いときもある。今当時を思い起こすと、『新参者』は8年間の自分の役者としての基盤を支えてくれた気がするんですよね、戻ってきたときにホッとするというか。

ーー阿部さんはシリーズものに出演しつつも、固定したイメージに引きずられない役者としての強さがあると思うのですが、役の切り替えに秘訣はあるんですか?

阿部:20代の頃は同じような役ばかり演じていたこともあって、30代に入り色々な役をやりたいと思えるようになったことで、演じることが楽しくなりました。と同時に一つひとつの役に対するこだわりも出てきたので、特に役の切り替えについては意識していません。でもその分役作りについては欲張りだと思います。自分ができないような役が来れば来るほど、これを演じたいという思いは強くなる。やっぱり人物を作り上げる作業は大変だけど面白いものです。視聴者の方もそうだと思うのですが、こういう人になったら面白いだろうなとか想像力を掻き立てながらこれからも色々な役を演じて行きたいですね。

※山崎努の「崎」は「たつさき」が正式表記

(取材・文=編集部/撮影=池村隆司)

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