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ぴあ

なぜ私たちは“木村拓哉”を求め続けてしまうのか 『検察側の罪人』最上役の生々しさを紐解く

リアルサウンド

18/8/30(木) 12:00

 『検察側の罪人』は、木村拓哉に一線を超えさせた映画だ。それは、木村扮する最上毅が犯す罪の意味だけではない。彼の中から、どくどくと溢れ出る人間の弱さと脆さ。これまで木村拓哉という人間が背負ってきたものの大きさに比例した、とてつもなく重い憂い。

参考:木村拓哉は木村拓哉をやめるわけにはいかないーー役者として無限の可能性を示した『無限の住人』

 “こんな木村拓哉は見たことない”か、“こんな木村拓哉が見たかった”か……。鑑賞後、どちらの感想を抱くかは、スーパースター“キムタク”と、人間“木村拓哉”と、どの顔を強く意識して見ていたかによって異なるかもしれない。きっと木村自身は変わっていない。おそらく、どの顔も、ずっとそこにあったのだ。この映画のオープニングで流れたシンメトリー映像のように。間違いなく、彼にとって転機になる作品であることは、誰もが感じたはずだ。

 長い間、私たちは木村拓哉にヒーローを求めてきた。SMAPが結成されたのは、平成の世が明けるのとほぼ同時期。不況のあおりを受け、華やかな音楽番組が次々と消えていく中で、歌って踊るだけではないアイドル像を確立していった彼ら。なかでも木村は、演じるアイドルの先駆者だった。

 「アイドルなんて」と言っていた普通の男の子だった木村が、気づけば世の中を導くヒーロー像を演じ続けていたのだ。ヒーローは挫折を経験して、さらに強くなっていく。どんなに苦しくても、決して道を踏み外さない。そんな姿を見続けてきた結果、いつしか木村自身が、決して負けることのない“キムタク”というヒーローであるような気さえしていた。実際、これまで世間からどんな厳しい声にさらされても、木村が取り乱すような姿を見たことがない。

 その強さに、私たちはいつも救われてきたのだ。それは本作で、沖野(二宮和也)が最上に憧れを抱いたのと近い感覚かもしれない。彼は決して負けることはない、という彼に見る正義のストーリー。そんな平成の光を象徴するような木村が、平成最後と言われる夏に人間の影を演じて見せた。仮に、木村が最上のように、窮地に立たされたとき、大きな声を上げて威嚇したとしたら……そう考えると、沖野がどれほどのショックを受けたかを、よりリアルに想像できる。何度打たれても立ち上がってくれると信じていた木村拓哉が、社会の不条理に傷つき、感情に流されて人の道を踏み外すという、負け姿を晒した意味。それは、ある種の絶望だ。

 もう、この世の中にヒーローなんていないのだ。度重なる災害に、怒りや悲しみをぶつける相手もいない。正義と正義がぶつかり合う争いは決してなくならず、白黒付けられない問題も山積みだ。人間は大義名分を振りかざして他者の尊厳を奪い合い、過去の大戦の記憶も薄れ始めている……という虚しさが、木村拓哉が演じる最上の影に共鳴してしまう。

 そんな最上と対峙する沖野は、“真実こそ正義”と信じてやまない無垢な若者だ。真実は悲しい、正しいは苦しい。その絶望をまだ知らない真っ直ぐさはときに残酷だが、純粋な希望でもある。きっと「正義を貫くには犠牲が必要だ」というロジックは、思考停止した大人の甘い罠なのだろう。矛盾点をマウンティングして隠すようになったら、いよいよ罪への扉が開かれる。思い込んだ正義が強ければ強いほど、ストンと堕ちる。だから、悶え苦しみながらも考え続けるべきなのだ。痛みを伴わない方法を探し続けることを、あきらめてはいけないのだ。それが、次の時代を生きるということ。ああ、生きるって、なんて死ぬほどしんどいのだろう。

 その沖野が感じたしんどさを、これほどナチュラルに演じられる俳優は、二宮和也しかいなかったように思う。木村と同様、演技派アイドルとして活躍する二宮。ジャニーズ事務所の先輩と後輩でありながら、本作で初共演というふたりは「意外と会わないもんだな」と言葉を交わした最上と沖野の距離感と重なる。8月22日放送の『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)にゲスト出演した木村は、現場の二宮を「風呂上がりみたいなカッコで来る」と明かした。入念に準備をして作品に挑む木村に対して、いつもフラットな状態で取り組む二宮。異なるスタンスを持つふたりは役柄同様、お互いに新たな刺激を受けたはずだ。結果、アドリブや演者のアイデアが多く取り入れられたという本作では、二宮の大胆さが、木村の繊細さを際立たせたように思う。

 何が正解か、ではなく、何ができるか。ひとつのストーリーに固執せず、違いを受け入れる化学反応こそ、この絶望の時代を照らす新たな光かもしれない。完全無欠のヒーロー像から、生々しい人間像へ。絶望を演じ、影を持って光を示す、俳優・木村拓哉への期待。そう、私たちはこれからも木村拓哉を求めて続けてしまうのだ。(佐藤結衣)

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