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『荒野にて』アンドリュー・ヘイが語る、孤立というテーマ 「自分にとってリアルな物語を語りたい」

リアルサウンド

19/4/12(金) 13:15

 『ウィークエンド』『さざなみ』のアンドリュー・ヘイ監督最新作『荒野にて』が4月12日より公開された。本作は、突然天涯孤独となった15歳のチャーリーが、殺処分が決まった競走馬ピートを連れ、自分の居場所を探し求める模様を描いた人間ドラマだ。

参考:『荒野にて』本編映像公開 主人公チャーリーと競走馬ピートの“絆”が生まれる瞬間が

 今回リアルサウンド映画部では、ヘイ監督にインタビューを行い、原作ものの映画化に挑む際に大切にしていることや、イギリス出身の彼がアメリカでの撮影を通して感じたことなどについて語ってもらった。

ーー今回の作品はミュージシャンとしても活躍するウィリー・ヴローティンの小説が原作になっています。この小説を映画化することになった背景を教えてください。

アンドリュー・ヘイ(以下、ヘイ):実はウィリーの2007年の作品『The Motel Life』を読んだことがあって、彼の音楽も聞いたことがあったんだけど、この作品の原作となった『Lean On Pete』は僕のパートナーが読んでいたんだ。たしか『ウィークエンド』の取材を終えて家に帰ったら、彼が「この本すごくよかったから読んでみて」と渡してくれた。それで読んでみたら恋に落ちたよ。そこからすぐに作者にコンタクトを取って、映画化権を取得しようとしたんだけど、他のフィルムメイカーも興味を持っていて、何人かが映画化のアプローチをしていたんだ。幸運なことに僕たちが映画化権を取ることができて、前作『さざなみ』に取り掛かる前に脚本を書き始めたから、かなり長い時間をかけて制作したことになるね。

ーー映画化にあたって改変はどの程度?

ヘイ:基本的に原作を忠実に映画化しているよ。ただ、原作ものを脚色する際にいつも考えさせられるのは、どこを削るか。何百ページにもわたる小説を2時間の映画にするには時間が足りないからね。今回の場合、チャーリーの旅路を示すためにはどういうシーンが重要なのかを選んでいかなければならなかった。時には2人のキャラクターを1人にしたり、好きだけど落とさなければいけない場面があったりする。そういう作業にはいつも葛藤しているよ。撮影したけれど結局編集でカットしてしまったシーンもあるからね。原作が好きだから映画化するんだけど、原作とは全く違うものにしなければいけない面もあるんだ。それが映画づくりのすごく面白いプロセスだと思うよ。

ーー原作者のウィリー・ヴローティンから映画化にあたり何か要望などはあったのでしょうか?

ヘイ:ウィリーはとてもいい人で、いつも最終的には「君のプロジェクトだから好きなようにやって」と言ってくれたんだ。でも、僕にとっては、彼がこの作品に関わってくれることが重要だった。ウィリーはこの作品の世界や競馬場のことを一番よく知っている人だったから、脚本のドラフトが出来上がるたびに彼に送っていたんだ。彼は毎回メモをつけてくれて、「ここがいい感じだった」とか「ここはちょっと違う気がする」とアドバイスをくれたよ。それはものすごく助けになった。撮影現場にも来てくれたんだけど、彼は何も言わないんだ。でも彼がいたこと自体が助けになった。原作者にとっては、自分が書いた作品は子どものようなものだから、それを他人が映画化をするというのは難しい経験だと思うけど、ウィリーはすごく協力的でありがたかったね。

ーー主演のチャーリー・プラマーはオーディションによってチャーリー役に選ばれたそうですね。

ヘイ:彼を最初に見たのはオーディションで送られてきたテープだったんだけど、それを見た瞬間に彼はこの役にパーフェクトだと思ったんだ。なぜかを説明するのは難しくて、直感的にそう思ったんだよね。ニュアンスや繊細さが際立っていて、他の若い役者とは違う生き生きしたものを感じたんだ。その後、僕たちがまだキャスティングしている段階で、チャーリーが手紙をくれたこともあった。そこには、どうして彼がこの役をやりたいのかが書かれていたんだ。そこで面白いと思ったのが、彼がチャーリーのことを完全に理解していたということ。どうしてチャーリーが守られることを求めているのか、そしてこの作品が馬と少年の話ではなく、絶望的になるほど安定を求める少年の話だということをね。それでより彼に惹かれたわけだけれど、それと同時に神経質になっていたのも事実なんだ。当時、彼はまだそんなに有名な役者ではなかったからね。映画のほぼ全てのシーンに出ていて、撮影も長期間になるということで、大役を務めることができるのか心配でもあったんだ。ただ、撮影初日から彼はクロエ・セヴィニーやスティーヴ・ブシェミと同じぐらいプロフェッショナルで、撮影が始まってますますその凄さに感心したよ。

ーーオープニングとエンディング含め、歩いたり走ったり車に乗ったりと、移動シーンがチャーリーの心情を表しているようで非常に印象的でした。

ヘイ:最初からこの作品はロードムービーのつもりで撮っていたんだ。チャーリーはいつも人生のなかを動いていたり、新しい場所に移っていろんな人に会ったりする。だから、動きのリズム感をキープすることを意識していたんだ。どのシーンでも必ず何か動きがある。カメラが動いているか、チャーリー自身が動いているか、あるいはフレームの中でどちらの方向に動いているか、旅をする中でどちらの方向に向かうのかなど、いろいろ考えたよ。この映画は、かなりゆっくりなペースではあるし、それほど大きな波があるわけではないけれど、何かに突き動かされていつも前に進んでいるんだ。

ーー今回、撮影はアメリカのポートランドで行われていますね。

ヘイ:そうなんだ。僕自身、長い時間をアメリカで過ごしたことがあるし、よくわかっていると思っていたんだけど、今回の撮影にあたって、いろんなロケーションを見て回って、とてもいい経験になったよ。アメリカはとても複雑な場所だと思う。この映画を撮ったのはトランプが大統領になる前だったから、今振り返ってみると感慨深くもあるね。アメリカは非常に矛盾に満ちている。すごくイライラするところもあるけれど、とても魅力的な場所。特に僕みたいな小さな島国であるイギリス出身の人間からしてみたら、とても惹かれるものがあるよ。

ーーアメリカの広大な風景を撮るにあたって何か参考にしたことは?

ヘイ:撮影前にはヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』などを観たけれど、実際に撮影に入ってその場所に行ってしまうと、その土地の感覚を感じることができたから、それを大切にすることにしたんだ。ロケーションは大事だけれど、キャラクターの内面を反映した環境の方がより重要だから、砂漠だったり街中だったり、その場所一つひとつがチャーリーの何を表しているのかを表現することが重要だった。だから例えば、チャーリーが砂漠にいるときは、砂漠の美しさではなく、チャーリーが自分の小ささや孤立感を感じている一方で、ちょっとした自由を感じていることを表現することを意識したよ。

ーーあなたは毎回、映画の中で孤独な人間を描いていますよね。見え方こそ違いますが、監督作に一貫したテーマがある。

ヘイ:その通りだよ。僕が興味を持っているテーマは、1人の人間が世界の中で孤立していることを理解しようとする、あるいはその孤立感を乗り越えるというもの。『荒野にて』の場合、チャーリーは世界から捨てられている。彼の家族も、周りにいる人も、そして社会さえも、彼を捨てているんだ。前作の『さざなみ』の場合、主人公のケイトは自分が持っていた夫婦関係という考え方が突然崩れてしまって、孤立感を感じる。その前の『ウィークエンド』の場合は、とても孤独を感じている人間がある人と繋がろうとするんだけど、その関係がなかなかうまく続かない。状況が違うと孤独感や孤立感の感じ方も変わってくると思うけど、重要なのは、僕自身にとってリアルな物語を語ること。そういう意味では、僕が映画で描いてきたことは今までの作品全てに共通しているし、今後撮っていくものもそうなっていくと思うよ。(取材・文=宮川翔)

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