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『きのう何食べた?』脇役にも個性的なキャストが揃う 主人公たちの“背景”として埋没しない存在感

リアルサウンド

19/6/7(金) 8:00

 ドラマ24『きのう何食べた?』(テレビ東京系)の第一の成功要因は、SNSなどで「神がかっている」とも讃えられているキャスティングだ。主人公のシロさんとケンジを演じる西島秀俊、内野聖陽のハマり具合はもちろんのこと、周囲を固める脇役に至るまで隙がない。

 たとえば、視聴者に人気のカップル、小日向さん役の山本耕史と航(ジルベール)役の磯村勇斗は、西島と内野に面と向かってもまったく見劣りしない実力を持つ。4人揃えば大河ドラマぐらい十分成立しそうなのに、7話ではダブルデートで食事とおしゃべりに興じているだけというのがなんともぜいたくだった。

【写真】第9話で指輪を購入しに行くシロさんとケンジ

 3話、4話、5話などに登場したシロさんの母親役の梶芽衣子、父親役の志賀廣太郎もキャリア、実力ともに十分。同性愛者である史朗への誤解、無理解から、パートナーへの深い愛情などもじっくり表現してみせた。志賀は体調不良による降板のため田山涼成に交代するが、シロさんの両親は終盤にかけてもストーリーに重要な役割を果たしていくと思う。

 シロさんの良き理解者である富永佳代子役の田中美佐子もイメージ通りだし、その夫役の矢柴俊博に至っては原作と顔が完全に一致していて視聴者を驚かせた。原作者のよしながふみはキャスティングに強いこだわりがあるそうだが、今回のドラマ化については大喜びしているというのも非常によくわかる(ねとらぼエンタ 2月22日)。

■川瀬陽太、真魚、唯野未歩子……存在感のある脇役たち

 『きのう何食べた?』で特筆すべきは、ほんの少ししか登場しない脇役にも個性的なキャスティングがなされていることだ。そこにはある意図が感じられる。

 その一例が、6話に登場した生稲という人物を演じた川瀬陽太だ。6話は、小日向さんから食事に誘われたり、女性の司法修習生から熱い眼差しを向けられたりしたシロさんが自意識過剰になるコミカルなエピソードだったが、その中で生稲は母親を医療事故で亡くした依頼人として登場する。短いシーンながら、生稲が登場すると画面に一気に緊迫感が増す。シロさんの説得によって生稲が涙する場面では、思わず胸が熱くなった視聴者も少なくないだろう。

 川瀬はピンク映画を中心に、映画、テレビドラマ、オリジナルビデオを合わせると出演作が170本を超えるというベテラン俳優。2018年は一般映画だけで主演作含めて18本も出演しており、もはや日本映画にはなくてはならない存在と言えるだろう。ピンク時代からの付き合いである瀬々敬久監督作品の常連でもある。テレビドラマでは、広瀬すず主演の『anone』(日本テレビ系)で阿部サダヲと小林聡美を拳銃で監禁する男役が印象的だった。

 同じく6話では司法修習生の長森夕未を演じた真魚にも注目が集まった。昨年、日本中で旋風を巻き起こした映画『カメラを止めるな!』で主人公の熱血な娘役を演じた女優で、そのまっすぐな部分が長森のイメージにぴったり。実際、真魚自身も熱い性格の持ち主なのだという。

 1話から顔を出しているスーパー・中村屋のレジ打ちのオバちゃんを演じる唯野未歩子は、1990年代から矢口史靖監督らの自主映画で活躍してきた女優。2005年には処女小説『三年身籠る』を自ら監督して映画化しているが、このときの主演が西島秀俊だった(妻役は元オセロの中島知子)。女優、作家としての活動のほか、脚本家として中島哲也監督『渇き』の共同脚本を務めるなど、多才な人物として知られている。

 2話に登場したシロさんの元彼女で、パン屋で働く仁美を演じた大島葉子は、モデルとして活躍しながら、河瀬直美監督の『影-Shadow』の主演として女優デビュー。カンヌ映画祭に出品された河瀬監督の『朱花の月』でも主演を務めている。瀬々監督の大作『ヘヴンズストーリー』でも重要な役を演じていた。身長170センチで、なんだか普通じゃない存在感を持つ彼女なら、シロさんが付き合えると勘違いしてもおかしくないのかもしれない。

 彼らはほんの脇役ながら、主人公たちの背景として埋没しない存在感がある。シロさん、ケンジ、小日向さん、ジルベールの微笑ましいやりとりと美味しそうな食事がこのドラマのすべてというわけではないんだよ、その周囲にはちゃんと人がいて、彼らにもリアルな生活があるんだよ、とアピールしているように感じる。

 可愛らしい“癒やし”の世界にとじこもることなく、ドラマ全体を絵空事にしない。ドラマのリアリティを上げることで、主人公たちにも人間として血が通うようになる。そんな意図が『きのう何食べた?』の脇役のキャスティングに意図されているような気がしてならない。今後もどのようなキャスティングが見られるか楽しみだ。

※河瀬直美の「瀬」は旧字体が正式表記

(大山くまお)

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