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いま、最高の一本に出会える

ブラッドリー・クーパー監督

この“想い”を伝えたい。ブラッドリー・クーパー監督が語る『アリー/スター誕生』

ぴあ

18/12/20(木) 7:00

ブラッドリー・クーパーが初めて監督を務めた映画『アリー/スター誕生』が明日から公開になる。本作は、人気ミュージシャンと無名だが才能あふれる女性が出会う物語で、クーパーとレディ・ガガが劇中で圧倒的な歌唱を披露しているが、クーパー監督は「映画では“言葉がない瞬間”が最も記憶に残る」と言い切る。クーパー監督がセリフや歌よりも重視したものとは? 来日時に話を聞いた。

クーパーは『ハングオーバー!』シリーズや『世界にひとつのプレイブック』『アメリカン・スナイパー』などの作品で人気を集める俳優だが、前々から自身で監督することを考え、準備を重ねていた。そこで、1937年製作の伝説的な映画『スタア誕生』を新生させるプロジェクトに“フィルムメイカー”として参加。『フォレスト・ガンプ』や『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の脚色も手がけた脚本家エリック・ロスらと共に脚本づくりを開始した。

「私は本作の脚本を執筆する段階で、ひとつの“大きなリスク”をとることにしました」とクーパー監督は振り返る。「映画の冒頭まるまる20分をかけて、アリーとジャクソンが出会う一夜を描くことにしたのです」。クーパーが演じるジャクソンは、カントリー歌手として人気を集めているが、幼い頃に負った心の傷を抱えたままで、ステージでどれだけ歓声を集めても満たされず、酒とドラッグが手放せない日々を送っている。ある日、彼はライブ後に酒を買うために立ち寄ったバーで、ステージに立つ女性アリーに出会う。

「この場面でジャクソンは他の観客同様、アリーの才能に気づいています。でもそれは好奇心に火がつく程度です。そもそもジャクソンは他人に興味があって、バーにいる他の客にも質問したり、話し込んだりしているんですよ。ところが彼はアリーと話す中で、彼女がまだ“自分の声”を持てていないことや、周囲から美しいと思われていないことを知って……そんなはずはない。彼女が評価されていない状況は理解できない、と思ってアリーに興味をもつわけです」

バーを出たふたりは飲み歩き、明け方、ジャクソンはアリーの作った歌を聴く。「誰もいない駐車場でジャクソンは彼女の歌を聴いて“自分のことを理解してくれている人がここにいた”と思い、アリーは自分のことを今まで誰も見たことがない見方で見てくれる人がここにいたと感じます。つまり、この映画の冒頭20分はふたりが出会い、お互いを見つけていく過程を孤を描くように描きました。もちろん、これは大きなリスクです。もし、この20分で観客がジャクソンとアリーの間に生まれた愛を感じることが出来なければ、ふたりの愛に興味を持ってもらえなければ、この映画は成立しなくなりますから」

それでもクーパー監督はあえて“リスク”をとった。『アリー/スター誕生』は歌の上手さを見せつける映画でも、大スターと新人歌手のドラマでもなく、心に“傷”を抱えた男女の愛のドラマだからだ。「私にはプロジェクトの最初期の段階から、描きたいことがしっかりとありました。人生において“自分の声を見つける”とはどういうことなのか? 人間が成功した時に、その成功が他人に与える影響は? 幼少期に体験した心の傷を抱えて生きるとはどういうことなのか? そして、アリーの人生の道のりと、彼女の夢がかなった時に何が付いてくるのか?……そのようなことを考えて脚本を書いていきました」

監督が語る通り、ジャクソンとアリーは出会い、アリーは自身の夢を叶え、自分の声を見つけていく。一方のジャクソンは自身の過去や家族の問題によって追いつめられていく。単にスターが新人を“引っ張りあげる”物語や、一方が上昇し一方が転落する物語を描くのはたやすい。しかし、クーパー監督はアリーとジャクソンがそれぞれに決断し、迷い、進むべき道を見出そうとするドラマと、その際の心の微妙な動きを描くことに力を注いでいる。「撮影中はずっと“どうすればリアルにものごとを捕らえることができるのか?”だけを考えていました。人生もそうですが映画では、人が人にちょっと触れる瞬間やフッと息をこぼす瞬間……“言葉がない瞬間”が最も記憶に残ると私は思っています。正しい環境さえ整えることができれば、俳優たちがリアルな演技をしてくれることはわかっていました。後はどれをどうやってカメラで捕らえるか、です」

そこでクーパー監督は、ダーレン・アロノフスキー監督とのコンビで知られるマシュー・リバティークを撮影監督に選んだ。「マシューさんには撮影の数ヶ月前から私の家に来てもらって、長い時間をかけて様々な話をしました。ですから、撮影前には色彩設計やビジュアルに関するアイデアは揃っていましたし、アナモルフィックレンズで撮影することも事前に決めていました。今回の映画の語り口は、ハル・アシュビー(『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』や『さらば冬のかもめ』などを手がけたアメリカの映画監督)の作品や、マーティン・スコセッシの『ライフ・レッスン』(1989年公開のオムニバス映画『ニューヨーク・ストーリー』の一編)をイメージしていましたし、あんな風に物語を綴れたら面白いと思っていたのです」

彼の演出は劇中の色彩や構図にまで及んでいる。「色彩設計では原色を使ったことが大きかったと思っています。ジャクソンにはブルー、アリーにはレッドを割り当て、“黒”も特徴的に使ってます。光の明度も物語全体でアーチを描くように設計しました。例えば、物語の後半になればなるほど画面が発光するほど明るくなっていくのですが、それは追いつめられたジャクソンにはもう隠れる場所がどこにもないことを意味しています。構図にもこだわりました。この映画でジャクソンはいつもカメラを避けているような位置にいます。そして物語が進むにしたがって彼はフレームの中央へと寄っていく。つまり、ここでも彼は隠れる場所を失っていくわけです。一方のアリーは最初のカットからスクリーンの中央に配置しました。この物語の最初のアリーはスターではなく、その自覚もありません。しかし、自覚がないだけで彼女は映画が始まった段階からスターだったということを表現したいと思いました」

クーパー監督は自身も俳優である強みを生かして、俳優が演技に集中できる環境を用意し、彼らの生み出す“瞬間”をあらゆる方法を駆使して記録していく。「アリーとジャクソンが初めて歌うシーンなど、いくつかの大事な場面では通常の倍のコマ数(本作はすべてARRI Alexa Miniを用いたデジタル撮影で、1秒間に24フレームで撮影されているが、いくつかのシーンでは48フレーム撮影が導入されている)で撮影しました。私が好きな映画の語りは、いつも機能のためにスタイルやフォルムが決定されています。映画を観ながら“ああ!長回しをしているんだな”ではなくて(笑)、俳優の気持ちがしっかりと伝わってきて、後で振り返ってみたら“あれはカットを割らずに撮影していたのか!”と気づく手法が好きなんです」

話せば話すほど、クーパーは長い時間をかけて監督になる準備と勉強を積み重ねてきたことが伝わってくる。「私は視覚的なストーリーテリングについて考え続けてきましたし、そういった視点で映画を観続けてきました。今回、自分で監督を務めることができて、自分の考えや好きな方法で映画を作ることができました。本当に楽しかったですね」

なぜ、彼は自分で監督を務め、長い時間をかけて準備するのか? その答えはひとつだ。「私はいつも考え続けているのです。どうすれば、この感情を観客に届けることができるだろうか?」

映画『アリー/ スター誕生』は、歌の映画でもスターの映画でもなく、偶然に出会った男女の“感情”の動きを丁寧に描き出した作品だ。その感情が歌になり、笑顔になり、涙になる。日本でも多くの観客がアリーとジャクソンのドラマに心を揺さぶられるはずだ。

『アリー/ スター誕生』
12月21日(金)公開

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