Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

星野源「アイデア」とBTS「IDOL」MV分析 両者が映像で表現した“ルーツ”と“アイデンティティー”

リアルサウンド

18/9/9(日) 10:00

 公開直後から話題となっている星野源の「アイデア」。“恋ダンス”で日本中を席巻したことも記憶に新しく、星野源旋風は今もなお衰えていないことを示している。一方、公開されるやいなやYouTube史上最速で再生回数1億回を突破したBTS(防弾少年団)の「IDOL」。この曲が収録されたアルバム『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』は米国ビルボードチャートで自身通算2度目となる1位を獲得し驚異的な人気を見せている。

 「アイデア」と「IDOL」。まったく異なる文脈から生まれたこの2つのMVだが、あえてそこに共通点を見出すとすれば、どちらも先鋭的なビートを取り入れているという点、そして自身のルーツやアイデンティティーといったテーマを取り入れているという点だ。現在YouTubeチャートの急上昇ランキングでも上位をマークしている2つのMVから、この「自身のルーツやアイデンティティー」というテーマに着目して、いま話題となるミュージックビデオがどういった性質を持っているのかに迫ってみたい。

(関連:星野源「アイデア」はなぜ大きな現象を生んでいる? 音楽的な面白さから楽曲の魅力に迫る

■星野源「アイデア」

 まずこのMVは星野源がマリンバを叩く俯瞰映像から始まる。中央に「HOSHINO GEN」「IDEA」と文字が出る。一見何の変哲もない始まりだが、長年のファンであればまず彼が所属していたインストバンドSAKEROCKの「Emerald Music」のMVを思い起こしたはずだ。まさに彼の原点というべきこのスタートがあることで、続いて繰り出されるAメロの歌詞〈湯気には生活のメロディ〉の”湯気”から、単に朝ご飯(朝ドラ主題歌なので)から立ちのぼる湯気という意味だけでなく、SAKEROCK時代にソロで出演していたイベント「風呂ロック」を思い起こさずにはいられない。NHKの特番『おげんさんといっしょ』でも大きな富士山の絵をバックに銭湯を模したスタジオで演奏していたことから、この曲にはどうやら彼のルーツとも言うべきSAKEROCK時代の活動を思い出させる意図が込められているようだ。

 さらにMVでは、すかさず場所を移動して2015年のアルバム『YELLOW DANCER』を彷彿とさせる赤→2016年のシングル『恋』の黄色→2017年のシングル『Family Song』のピンク→今年のシングル『ドラえもん』の青……とイントロから最初のサビに至るまでに背景の色がここ数年の彼の活動を振り返るような流れを見せる。速めのテンポなことも相まって、過去の活動に囚われている雰囲気はなく、むしろこのワンコーラスで今までの活動にサクッとひと区切りをつけているような前向きな「集大成」感がある。いわば「星野源とは何者なのか」がここに端的に表現されているのだ。

 そして2番以降ではリズムが急変し先鋭的なダンスビートを見せ、三浦大知が初めて他人に振り付けしたというダンスで16人のダンサーが踊るシーンがあり、Dメロで生演奏の弾き語りを披露。最後は大きな銅鑼を叩いて終わる。素早く変化していく映像の中で星野源は黒スーツできわめて冷静に、そしてどこかその変化を楽しむように歌っている。各シーンのひとつひとつから意味を考察できるという点でも様々に楽しめる仕掛けがあり、そして自身の活動を振り返るというテーマがしっかりと作品に込められていることで、ファンにとって思い入れの強い作品になっているだろう。

■BTS「IDOL」

 BTSの「IDOL」は、グループに対する他者からのレッテル貼りやそれに伴う偏見の眼差しに対する回答のような楽曲となっている。ただ歌って踊るだけでなく作詞に参加したり自ら振り付けを考えたりもする彼らは、「アイドル」という既存の型に当て嵌めた言葉を使って語られることで正当な評価を得られないというもどかしさを抱えてきた。この曲はそうした彼らにつきまとう批判を豪快に吹き飛ばすような楽曲だ。

〈You can call me artist/You can call me idol/아님 어떤 다른 뭐라 해도〉

〈I don’t care/I’m proud of it/난 자유롭네〉

(訳:アーティストでもいい アイドルでもいい 何だっていい 気にしない それを誇りに思ってる 俺は自由なんだ)

 絵に描かれた怪獣や大きなサメが襲ってくるなかでメンバーが意に介さず踊っている姿が印象的で、外からの圧力を自らの手で跳ね除けるようなパワーを感じ取れる。腰を落としながら挑発的にラップする表情や、何度も繰り返される〈You can’t stop me lovin’ myself〉(=お前は俺が俺自身を愛することを止められやしない)といった相手を突き放すような強いリリック、そして何とも形容し難いこの極彩色のサイケデリックな映像は、我々が潜在的に抱いているK-POPグループに対するイメージを鮮やかに打ち砕いてくれる。

 そしてその中でも、南アフリカ発のハウスミュージック”GQOM”と韓国の伝統音楽のリズムを融合させたようなサウンド面は「GQOM meets K-POP」とも称され、グローバルな感触を持ちながら自身のルーツである韓国の文化にも意識を注いでいることが分かる。単に奇抜なだけに見えるカラフルなコスチュームも韓国の伝統的な衣装をモチーフにしていたり、歌詞にも韓国の伝統音楽由来の言葉遣いが含まれているなど、一見してインパクト重視の滅茶苦茶な作品のようで、実は知れば知るほど作品に込められたテーマ性が明らかになっていくMVなのだ。

 白いトラや黄金色の舞台、中盤で登場しラストのダンスシーンで舞っている獅子などどれも韓国にまつわるものばかり。MVに散りばめられたこうした表現は、グループの活動がグローバル化していくなかで決して自国のファンを置き去りにしないという思いや、昔ながらのファンへの彼らなりの配慮のようにも受け取れる。ラストで夕日をバックに7人が椅子に座って画面越しにこちらを眺めるシーンがある。ファンであればその時、2014年の「Just One Day」のMVがフラッシュバックしこの数年間の彼らの成長を思うだろう。

 星野源とBTS。フィールドは違えど、どちらも自身のルーツやアイデンティティーを各々の仕方で提示している。ある程度活動を積み、その実績が認められた彼らがこうしたテーマに挑むことで、次のステップへ向かうための確かな足場作りとなっている。そして、自身のこれまでの作品を忍ばせることで長年のファンは今現在の彼らの中にも自分自身が存在していることを確認できるだろう。アーティストの自己参照がファンとの意思疎通となっている。

 今回、話題となっているミュージックビデオを見てみると、そこにはアーティストが活動を進めていくなかでファンのことを思い、ファンとともに活動を歩んでいこうというコミュニケーションの場が繰り広げられていた。音楽の楽しみ方やアーティストのあり方が多様化する中で、ミュージックビデオの表現内容も変わってきているのかもしれない。(荻原 梓)

Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play