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いきものがかりが国民的グループになり得た理由 ソロ活動から活動再開までを追う

リアルサウンド

18/12/2(日) 10:00

 今年の大晦日に放送される『第69回NHK紅白歌合戦』(以下、紅白歌合戦)への出場と2年ぶりとなる活動再開を発表した、いきものがかり。現状では、この紅白歌合戦が本格復帰のステージと言われている。

(関連:いきものがかりが「集牧宣言」 結成記念日より活動再開へ

 紅白歌合戦といえば、過去に産休明けにステージ復帰した安室奈美恵や、病気による休養明けの桑田佳祐、グループからの卒業発表をしたAKB48の大島優子など、この場で活動を再開したり、または引退前の大事なステージになったり、そうした節目を刻んできたアーティストたちがたくさんいる。「放牧」という名の活動休止をしていた、いきものがかりが「集牧」の場として紅白歌合戦に出場するのも、彼らが国民的注目度の高いアーティストだからだ。

 何故、いきものがかりは多くの人に支持される国民的グループになり得たのか。そのポイントはいくつかあって、まずはデビュー当時から「時代に残る名曲を生み出したい」という確かな目標があったこと。特に水野良樹は歌謡曲への敬愛が深く、「1枚目からずっと、バンドとしてのコンセプトは変わってない。聴いてくれる人が感情や思い出を重ねられるもの、その人のものになっていく曲を作ることが僕らにとって重要なこと」(フリーペーパー『ぴあclip!』より)と取材で語っていたのは、もう10年も前のこと。日本の古き良き歌謡曲やポップソングを後世に語り継ぐ役割も担いたいということから、いきものがかりのシングルのカップリングに様々なアーティストの名曲カバーを収録するということもしてきた。

 幅広い年齢層に支持されるメロディや曲調、そして吉岡聖恵のボーカルスタイルは彼らがデビュー前に路上ライブで経験を積んできたことも大きい。通り過ぎる目の前の人たちの足を止めるには、どうしたらいいかを考えてきた下積み時代に、心を打つコード進行やメロディの展開、そして爽やかで耳馴染みが良くて聴き取りやすい歌という、いきものがかりの王道ポップ路線を確立させたのだ。

 どこにでもいそうで、どこにもいないタイプの女の子。それがフロントに立つ吉岡聖恵のキャラクターだと思うのだが、それは歌にも言えること。クセの少ない清涼感のある歌い方だけれど、誰にも真似のできないスタイルがある。それは路上ライブで鍛えられた声量の大きさを活かした、空気をたっぷりと含む声の作り方によるもの。彼女の歌声は音源で聴いているぶんには非常にサラリとしていて聴きやすいが、生で聴くと凄まじい迫力に驚かされる。いきものがかりはスタジアム級のワンマンライブも非常にエネルギッシュなパフォーマンスだが、それ以上に、様々なアーティストが同じステージで歌う夏フェスのステージで感じた、吉岡の歌唱力は鳥肌モノだった。

 自己実現や自己表現は様々なミュージシャンが楽器を手にする時の動機になるが、いきものがかりの3人は、それ以上に「歌」を大切に「歌」を聴く人の想いを大事に活動をしてきた。いわば「楽曲至上主義」的なプロフェッショナルな姿勢が感じられる。「どんなアレンジでも大丈夫、と思える曲作りが出来るのが僕たちの強み」(フリーペーパー『ぴあclip!』より)と水野が語っていたことがあったが、だからこそ曲ごとに色んなアレンジャーに編曲してもらうことで時代のトレンドを掴むフレッシュなサウンドを身に纏うこともできる。

 そうした水野の職人気質だけではなく、吉岡のキャラクター然り、山下穂尊が書く楽曲の人に寄り添う温もりやどこか哲学的な深み、その全てが揃ってこそ、いきものがかりが多くの人に長く愛される魅力になる。

 何より、いきものがかりの名曲たちにおける最強ポイントはテーマ設定だ。「SAKURA」や「HANABI」といった日本の四季ならではのシチュエーションを描き、「帰りたくなったよ」では誰の心にも響く郷愁を煽り、「気まぐれロマンティック」では恋する気持ちをキュートに溢れさせ、「ありがとう」では別れと感謝という普遍的テーマを真正面から歌い上げ、ちょっとお祭り騒ぎしたい時には「じょいふる」がある。誰がいつどんな時に聴いても酔いしれることができる「風が吹いている」なんて万能すぎる曲も。そんな風に、いきものがかりは日本人の心に寄り添う名曲を生み出し続け、ヒットする度に彼らに対する信頼は高まるばかりだった。その反面、本人たちは期待に応えなくてはいけない。自分たちが時代に残る名曲を生み出すことそのものが彼らにとっての高いハードルとなり続けていたのかもしれない。だからデビュー10周年という節目に「放牧」という彼ららしい名目で活動休止したことは、いきものがかりを続けていく上で必要な選択だったのだろう。

 放牧中も3人の個々の活動は実に、いきものがかりらしいものだった。水野良樹はこの2年で、関ジャニ∞や横山だいすけ、山本彩、和田アキ子、水谷千重子、大原櫻子、坂本真綾といった、様々なジャンルのアーティストへの楽曲提供をしており、その全方位的な仕事ぶりは目を見張るものがあった。

 一方、山下穂尊はエッセイ集を出版したり、音楽フェスのナビゲーターを務めたりと活動の幅を広げながら、今年の秋に10代の女性アーティストであるJUNNAに楽曲提供したのも記憶に新しい。制作は山下がJUNNA本人と話をして彼女が考えていることを感じ取った上で「情熱モラトリアム」という曲が書き下ろされた。世にリリースされたものとしては数少ないものの、人に寄り添って作品を生み出す姿勢が彼らしい。

 そして吉岡聖恵も象徴的だった。いきものがかりとしてではなく彼女のソロなのだから、とことんパーソナルな想いを歌に乗せた作品を作っても良かったはずなのだが、リリースされたのは彼女が好きな大滝詠一や中島みゆきらのヒットソングを歌ったカバー集。『うたいろ』と名付けられたそのアルバムは、吉岡が自分の色そのままを歌に表現するのではなく、歌を大切に表現することでその中に自分の色を見つけ出すような、そんな少し奥ゆかしいとも言える彼女のシンガーとしてのスタンスが垣間見えるものだった。

 そんな風に放牧中にも3人は、だからこそいきものがかりは愛されてきたんだなと思わせる活動を見せてくれた。復帰に際し、ファンクラブ会員に「太陽」という新曲をCDにして郵送したそうだが、この曲には再び前を向いて歩いていこうという彼らの前向きなメッセージが込められているようだ。

 2年間という決して短くはない時間の中で彼らはどんなことを想い、どんな経験をし、それをどのように今後の活動にフィードバックしていくのだろうか。国民的ポップグループ・いきものがかりの充電満タンな活動再開はとても喜ばしいことだし、彼らが歌うべきテーマはきっとまだまだある。これからも時代に寄り添って、移ろう日本人の心と風景を、胸が震えるようなメロディで歌に刻み続けてもらいたい。(上野三樹)

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