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いま、最高の一本に出会える

新垣結衣の退職がゴールじゃない 様々な人生を肯定する『獣になれない私たち』の温かさ

リアルサウンド

18/12/13(木) 17:00

 喪失感の意を含む“けもなれロス”なんていうよりも、温かい想いではちきれそうな結末だったので、“けもなれフル”の方がふさわしいような気がした。主演・新垣結衣×脚本家・野木亜紀子のラブかもしれないストーリー『獣になれない私たち』(日本テレビ系)が12月12日に最終回を迎え、生きづらさを抱えてきた多くの人から「ありがとう」の声が上がっている。

 前回の放送で、九十九社長(山内圭哉)に抗議したものの「お前がいなくても会社はどうにでもなる」と大きな爆弾を落とされた晶(新垣)。一方、恒星(松田龍平)も、軽蔑していた土下座までして粉飾決算への加担をやめさせてほしいと頼んだのに、聞く耳を持ってもらえなかった。ボロボロになった2人は、互いに温度を求め、一夜を共にすることに。しかしそれが「間違った」行動だったのではないかと、心にモヤモヤを抱えることになった。

 「深海さんがいないと……」とか「根本さんくらいしか……」のような言葉に弱い2人は、振り返ってみても誰かのために動いてばかりいた。晶も恒星も、呉羽(菊地凛子)やカイジ(飯尾和樹)のように、潔く獣のように生きる人間ではない。2人ともそんな自分のことを一番わかっていて、感情的に動いても後悔することを知っていた。それでも、晶は九十九社長に退職願という爆弾を投下し、恒星は税務署に粉飾決算を暴露しに行けたのは、「人に支配される人生はごめん」だったからだ。

 『獣になれない私たち』は、晶が仕事を辞めたり、恒星と恋人になったりすることがゴールではない。この作品の中で大切なのは、それぞれがそれぞれの人生を取り戻すことだ。たくさんのドラマや映画の中では、主人公が何かを達成するまでを描くが、実際に生きてみてわかるように、ほとんどの人の人生は作品化できるような機会には恵まれない。突然大金持ちのイケメンに街角で告白などされないし、ある日スーパーパワーを授かって世界を救うようなことは起きないことは周知の事実だ。

 それでも人々は、スポットライトの当たらない中でも根を張り生きている。「みんな、そうだから(あなたも我慢してください)」と流される苦痛や叫びを、あえて浮き彫りにすることで、『獣になれない私たち』は影に隠れてしまいそうだった人たちを肯定してくれた。さらに、パワハラ社長の九十九や、迷惑かけっぱなしの朱里(黒木華)を、手放しで嫌いになれないのが、本作の素晴らしいところ。それは、どんなキャラクターにも愛せる部分を欠かさなかった野木の脚本の力であると同時に、様々な人生の選択を尊重する野木からの愛が含まれていたからではないだろうか。

 正直なところ、自分の境遇とあまりに似すぎていて、目も当てられないくらい苦しいエピソードもあったと思う。でも逆を言えば、自分の苦しみにしっかり向き合っていない自分に気付かせてくれたのが『獣になれない私たち』でもある。幸せへの選択は難しい。お風呂に浸かったり美味しいものを食べたりしたときの瞬間的な幸せは得られるものの、その寿命は短い。ただ、不幸せの排除はできる。「自分を殺して本当に死んでしまう前に」、自分のために住み心地の良い肉体と環境を用意するくらい何の罪でもない。

 「今、幸せ?」と聞く京谷(田中圭)に「これはこれでありかな」と晶は答えた。晶の選択は正しかったかはわからない。無職になったら生活は苦しいし、その先の保証もない。でも、第1話のときから感じていた胸の詰まりは、教会の鐘を眺める晶と恒星には感じられなかった。誰がなんと言おうと「これはこれであり」。完璧を追い求めすぎず、他者の目を気にしすぎず、人生なんてそれくらいの加減でいいのかもしれない。(文=阿部桜子)

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