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『踊る大捜査線』青島から『SUITS/スーツ』甲斐へ 織田裕二の俳優人生を辿る

リアルサウンド

18/11/5(月) 6:00

 織田裕二を最初に意識したのは1990年に放送された連続ドラマ『予備校ブギ』(TBS系)だ。本作は3人の予備校生を主人公にした青春群像劇。主演は緒形直人、的場浩司、織田裕二。このシリーズは「ブギシリーズ」と呼ばれており、脚本はのちに『女王の教室』や『家政婦のミタ』(共に日本テレビ系)を手がける遊川和彦。当時の遊川はTBSドラマを主戦場としており、プロデューサーの八木康夫と共にコメディテイストのドラマを多数作っていた。

 織田は、的場と共に『ママハハ・ブギ』(TBS系)にも出演しており、TBSの青春ドラマから出てきた若手俳優という印象が強かった。そこで織田が演じていたのは、“軽薄で喧嘩っ早いところもある不良っぽいお兄ちゃん”というイメージで、トレンディドラマ全盛の時代においては随分、男っぽい俳優だと思った記憶があるが、後に彼のデビュー作は1987年の映画『湘南爆走族』だと知って納得した。ちなみに本作は江口洋介の初主演作でもある。

 そんな織田の名が全国的に知れ渡ったのが月9(フジテレビ系月曜9時枠)のドラマ『東京ラブストーリー』で演じたカンチこと永尾完治だろう。

【写真】『東京ラブストーリー』の織田裕二

 とは言え、本作の華は赤名リカを演じた鈴木保奈美にあり、優柔不断な男・カンチは織田のキャリアの中では異色作だった。むしろ、彼の魅力が開花していくのは、それ以降のフジテレビ系のドラマだった。

 それは、三谷幸喜脚本の医療ドラマ『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系)で演じたヒールの天才医師・司馬江太郎であり、貧乏な青年が大企業で働くことで出世していく姿を描いたコメディテイストのドラマ『お金がない!』(フジテレビ系)の萩原健太郎であり、『正義は勝つ』(フジテレビ系)で演じた、勝つためなら手段を選ばない弁護士・高岡純平である。

 ピカレスクからコメディまで幅広く演じ分ける織田の振り幅の広さは毎回見応えがあり、バブル崩壊以降の日本における、新しいヒーロー像を体現していた。やがて、その流れは刑事ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)の主人公・青島俊作を演じることで開花する。

 脱サラして所轄の刑事となった青島は、刑事ドラマとは違う警察組織の現実に直面する中、自分にできることを模索していく。当時、勃興しつつあったインターネットやアニメといったオタクカルチャーに対する理解もある青島は、一昔前の刑事ドラマに登場する暑苦しいだけの熱血刑事とは違う、クールなユーモアを内包したオタク世代の刑事であった。

 『踊る大捜査線』は、平均視聴率こそ当時としては高いものではなかったが、マニアックなテイストが熱狂的なファンを生み出し、やがて映画シリーズが4作も作られる大ヒット作となった。その意味でも青島は、織田にとって重要なのはもちろんのこと、テレビドラマ史、邦画史にも残るキャラクターだったと言えよう。これだけの当たり役を演じたことは、俳優としては生涯に一度あるかないかの名誉だが、同時にイメージが固定されてしまう重圧もあったのではないかと思う。

 渥美清が映画『男はつらいよ』シリーズの寅さんこと車寅次郎のイメージを生涯引きずってしまうようなことが、織田に起きてもおかしくなかった。おそらく『踊る大捜査線』以降の織田の俳優人生は、青島のイメージを引き受けると同時に、いかに距離をとるのかという戦いだったのだろう。

 織田は、『踊る大捜査線』が切り開いた大作エンターテインメント路線を引き継ぐ形で、映画『ホワイトアウト』や『アマルフィ 女神の報酬』のようなエンターテインメント作品で主演を演じていく。それは言うなれば、ハリウッド映画におけるトム・クルーズのような立ち位置だった。これらの作品で織田が演じている役柄は、外交官やキャリア官僚といった、『踊る大捜査線』における警察官僚の室井慎次のような存在で、エリート役を演じることで青島のイメージを薄めていった。

 今回の月9ドラマ『SUITS/スーツ』は、海外ドラマを原作とする弁護士モノだが、本作で織田が演じる甲斐正午も、勝つためなら違法スレスレのことも平気でおこなうエリート弁護士である。その意味で『正義は勝つ』の高岡弁護士のその後にも思えるが、甲斐の立ち振舞いは高岡に比べて柔らかく、『踊る大捜査線』の青島にあった、ユーモラスで人を食ったトリックスター性が戻ってきている。同時に、年齢を重ねたことで、円熟した大人の立ち振舞いを見せている。

 物語の中心にいるのは中島裕翔が演じるニセ弁護士・鈴木大輔で、甲斐との関係は、利害で結ばれた共犯関係という危ういものである。だが同時に甲斐は鈴木を導く師匠でもあり、その姿は『踊る大捜査線』でいかりや長介が演じた青島を導く老刑事・和久平八郎のようでもある。織田の俳優人生を見ていると、『踊る大捜査線』で青島が和久に言われた「正しいことをしたければ偉くなれ」を日々、実践しているかのように思えてくる。織田裕二は現在50歳。当時のいかりやの年齢になるのは、まだ10年以上先だが、着々と和久の境地に近づきつつあるのかもしれない。

(成馬零一)

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