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現地LAからアカデミー賞直前予想! 老舗映画賞が直面する、視聴行動の変化とインクルージョン

リアルサウンド

19/2/22(金) 13:00

 2月19日、第91回アカデミー賞の投票が締め切られた。長年アカデミー賞を追っているベテラン記者でさえ、今年のオスカーは混戦模様で予想が難しいという。それは、映画界の過渡期とテクノロジーの発展による視聴行動の変化、そして政権の裏を返すように人々の間に広がっている社会的包摂性(ソーシャル・インクルージョン)が一気に訪れているからだと思う。昨年主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドが述べた「みなさん、インクルージョン・ライダー(包摂条項)をお忘れなく」というスピーチから、ダイバーシティ(多様性)はすっかりインクルージョン(包摂性)に取って代わられてしまった。俳優が出演契約を結ぶ際に、付帯条項として包摂性を盛り込んでおくと、撮影現場の出演者・スタッフともに性別・人種などの多様性を確保できる。ハリウッドは#MeToo運動の発動も相成り、まさにインクルージョン元年を迎えているといったところだ。

参考:アカデミー賞作品賞は『ROMA/ローマ』が最有力? 例年以上に“大混戦”な情勢を読む

 そんな2019年、栄えあるオスカー像を手にするのは一体どの作品で、誰なのか。現地ロサンゼルスの空気とともに主要6部門と日本作品がノミネートされた外国語映画部門と長編アニメーション部門について予想をしてみたい。

*◎は当確予想、◯は次点

■主演男優賞
クリスチャン・ベール『バイス』◯
ブラッドリー・クーパー『アリー/ スター誕生』
ウィレム・デフォー『永遠の門 ゴッホの見た未来』
ラミ・マレック『ボヘミアン・ラプソディ』◎
ヴィゴ・モーテンセン『グリーンブック』

 今年のトピックとして、批評家と観客との間のズレが大きな話題となった。その標的になったのが『ボヘミアン・ラプソディ』で、公開前の批評は散々なものだったが、蓋を開けてみると興行成績は2億1231ドル(約233億円)と好調、ゴールデングローブ賞においてドラマ部門作品賞と主演男優賞を受賞している。『ボヘミアン~』は作品賞にはノミネートされているが、性的虐待疑惑でブライアン・シンガー監督が途中降板していることから監督賞からは必然的に除外、歌曲賞も映画オリジナルに限るため選外となった。5枠中4名がオスカーの掟とも言える実在する人物を演じているが、『ボヘミアン~』擁護派票がラミ・マレックに集中すると見て、ここは彼が本命。肉体改造が十八番になりつつあるクリスチャン・ベールは、アカデミー会員の多くを占める俳優たちの同情票を集めるかもしれないが、俳優の多くが所属する全米映画俳優組合賞もラミ・マレックが受賞している。

■主演女優賞
ヤリッツア・アパリシオ『ROMA/ローマ』
グレン・クローズ『天才作家の妻 -40年目の真実-』◎
オリヴィア・コールマン『女王陛下のお気に入り』◯
レディー・ガガ『アリー/ スター誕生』
メリッサ・マッカーシー『ある女流作家の罪と罰』

 ほぼグレン・クローズ圧勝の波が来ている。クローズの7度目のオスカーノミネーションにして、理知的で深みのある『天才作家の妻』での演技は、オスカーにふさわしい。そして何より、メリル・ストリープが欠席の今年こそ、クローズがオスカー像を手にすることができる最大のチャンスだ。オリヴィア・コールマンに勝機があるとすると、批評家に人気の『女王陛下のお気に入り』が受賞できる部門が脚本賞だけなのを気にする層の動き次第。ただし、昨年秋のオスカー戦線開始直後は飛ばしていた『アリー/スター誕生』の息切れ失速の割を食ったレディー・ガガの受賞はもはや難しいと言われている。おそらく歌曲賞は取れるだろうが、監督賞候補を逃したブラッドリー・クーパー(主演男優賞も望み薄)と傷を舐め合うしかないのか…。

■助演男優賞
マハーシャラ・アリ『グリーンブック』◎
アダム・ドライバー『ブラック・クランズマン』
サム・エリオット『アリー/ スター誕生』
リチャード・E・グラント『ある女流作家の罪と罰』◯
サム・ロックウェル『バイス』

 これもまたアカデミー会員の“忖度”が動きそうなところで、作品的にも申し分ないのだがどうも決め手に欠ける『グリーンブック』を代表して何の賞を授けるか、というと助演男優賞のマハーシャラ・アリに落ち着きそう。アリは一昨年の『ムーンライト』でも受賞したばかりだが、良いタイミングで良い作品に巡り会えるのも才能のうち。『ある女流作家の罪と罰』も批評家筋に評判が良いが、人種バランスを考えるとマハーシャラ・アリで落ち着くだろう。

■助演女優賞
エイミー・アダムス『バイス』◯
マリーナ・デ・タビラ『ROMA/ローマ』
レジーナ・キング『ビール・ストリートの恋人たち』◎
エマ・ストーン『女王陛下のお気に入り』
レイチェル・ワイズ『女王陛下のお気に入り』◯

 『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督最新作『ビール・ストリートの恋人たち』はオスカー戦線からすっかり抜け落ちてしまい、作品賞も監督賞もノミネートを逃した。そんな中で孤軍奮闘しているのが、主人公の母親を演じたレジーナ・キング。素晴らしい出来なのに恵まれなかった作品を代表し、ここはキングが持って行くとの見方が強い。一方、次点のエイミー・アダムスは主演・助演合わせて6度目のノミネートだが、グレン・クローズ様の7度目ノミネートと比べられると、今回も逃してしまうだろう。多くの投票者は、エイミー・アダムスだったらまたいい作品に巡り会えるだろうと考え、BAFTA(英国アカデミー賞)で助演女優賞を受賞したレイチェル・ワイズの方に票が流れそうだ。

■監督賞
パヴェウ・パヴリコフスキ『COLD WAR あの歌、2つの心』
スパイク・リー『ブラック・クランズマン』◯
ヨルゴス・ランティモス『女王陛下のお気に入り』
アルフォンソ・キュアロン『ROMA/ローマ』◎
アダム・マッケイ『バイス』

 今年の混戦模様の原因は、8月のヴェネチア映画祭から順当に勝ち進んで来た『ROMA/ローマ』とともに、カンヌ映画祭監督賞受賞の『COLD WAR あの歌、2つの心』がぐいぐい食い込んできたことにある。結果的に『COLD WAR~』は外国語映画賞、監督賞(パヴェウ・パヴリコフスキ)、撮影賞の3部門にノミネートされ、今年のダークホースとなった。アカデミー賞ではおそらくアルフォンソ・キュアロンが監督賞を受賞するだろうが、パヴリコフスキ監督にはハリウッドから企画が殺到し、数年後にもまたこの部門に舞い戻ってくるだろう。つまり、『女王陛下のお気に入り』のギリシャ出身監督ヨルゴス・ランティモスのパターンだ。昨年の外国語映画賞受賞作品『ナチュラルウーマン』(チリ代表)のセバスティアン・レリオ監督は既にジュリアン・ムーアを主演に迎えた最新作『Gloria Bell()原題』をチリ・米国合作で撮っている。カンヌで発掘・育成されてアカデミー賞を経てハリウッド、という外国人監督の流れができ始めている。そして、スパイク・リーは第88回アカデミー賞で名誉賞を受賞しているが、その年の俳優部門候補者が全員白人だったことに怒りを表明し、「#oscarsowhite」のハッシュタグとともに授賞式欠席を表明。アカデミー賞がインクルージョン政策に舵を切るきっかけとなった。その経緯を考えると、アカデミー会員が反省の意を込めてスパイク・リーを選ぶ機運もある。

■外国語映画賞
『Capernaum(原題)』
『COLD WAR あの歌、2つの心』◯
『Never Loos Away(原題)』
『ROMA/ローマ』◎
『万引き家族』

 監督賞と同様、『ROMA/ローマ』と『COLD WAR あの歌、2つの心』の一騎打ちになる模様。米国の映画専門誌の見方では、『ROMA/ローマ』が作品賞にアップグレードされる場合、『COLD WAR あの歌、2つの心』に勝機が訪れる可能性があるとしている。『ROMA/ローマ』を推すNetflixは約22億円をオスカーキャンペーンに費やしたとの噂もあり、ロサンゼルスの街中が『ROMA/ローマ』のビルボードで埋め尽くされ、TVCMやウェブ広告も大量露出している。一方の『COLD WAR あの歌、2つの心』の米国配給はAmazon Studioで、ロビー活動にかなり力を入れていた。実はAmazonはNetflixよりも早くアカデミー賞受賞に向けて活動しており、第89回(2017年)には『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が脚本賞と主演男優賞(ケイシー・アフレック)、外国語映画賞の『セールスマン』(アスガー・ファルハディ監督)の3部門を配信事業者として初めて受賞している。日本から『おくりびと』以来10年ぶりのノミネートとなった『万引き家族』はカンヌ映画祭でパルムドールを受賞し、興行成績も評価も高いものの、オスカーキャンペーンを走り切る資金力で2作品から引き離されてしまった。また、『万引き家族』を米国で配給するマグノリア・ピクチャーズは長編ドキュメンタリー部門有力候補の『RBG 最強の85歳』も手がけており、そちらに忙しいのかもしれない。

■長編アニメーション賞
『インクレディブル・ファミリー』
『犬ヶ島』
『未来のミライ』
『シュガー・ラッシュ:オンライン』
『スパイダーマン:スパイダーバース』◎

 長編アニメーション部門は、長期にわたりディズニー/ピクサーに独占されていた。昨年はピクサーのジョン・ラセターがセクハラ疑惑で退社し、アニメ帝国に亀裂が生じてしまった。その隙間に入り圧倒的な支持を得ているのが、『スパイダーマン:スパイダーバース』。配給のソニー・ピクチャーズは悲願の長編アニメーション部門受賞まで秒読みといったところ。『未来のミライ』は米国におけるジブリ作品の配給で名を挙げたGKIDSが力を入れていたが、立ちはだかる『スパイダーマン』の壁は高い。よって、予想は『スパイダーマン』以外考えられない。邦画2作品とも、今年ばかりは相手が悪かったと言わざるを得ない。

■作品賞
『ブラックパンサー』
『ブラック・クランズマン』
『ボヘミアン・ラプソディ』
『女王陛下のお気に入り』
『グリーンブック』◯
『ROMA/ローマ』◎
『アリー/ スター誕生』
『バイス』

 米国内でも最も予想が分かれるのが作品賞で、劇場公開を前提に考える保守層は『グリーンブック』を、作品のクリエイティビティに上映フォーマットは関係ないとする革新派は『ROMA/ローマ』を作品賞に予想している。Netflixはこの1月にMPAA (アメリカ映画協会)に新規加入し、劇場公開時にMPAAのレーティングを受けることになる。これは、Netflix作品を今後も劇場公開することを示唆する動きで、頭の固い老齢アカデミー会員対策とも言えるだろう。ちなみに、『ブラックパンサー』は興行収入では8作品の中で最高の13億ドル超えで、スーパーヒーローものとして初めて作品賞にノミネートされた作品となった。衣装デザイン賞には黒人女性として初めてノミネートされていることもあり、受賞の可能性もある。

 映画配給フォーマットの変化、そしてインクルージョンは、90回以上も続いている古いしきたりにがんじがらめになったアカデミー賞にどんな変化を与えるのか。そして、91回の歴史上30年ぶり2度目となる司会者のいない授賞式は無事執り行われるのか……。2月24日(日本時間25日朝)の授賞式は、映画の潮目が変わる瞬間となるかもしれない。(平井伊都子)

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