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ハリウッド版『君の名は。』はどんな作品に? M・ウェブ×E・ハイセラーの作風から考察

リアルサウンド

19/5/7(火) 10:00

 2016年の夏に公開され、これまで新海誠という作家を知らなかった層をも取り込み瞬く間に社会現象級の大ヒットを記録した映画『君の名は。』。岐阜の田舎町に暮らす女子高生・三葉と、東京の男子高校生・瀧がある日突然入れ替わって……と、改めてその筋書きについて事細かに説明する必要もないだろう。こういう作品というのも、しばらく無かったような気がする。あえて補足するのであれば、日本国内歴代興収ランキングでは『千と千尋の神隠し』『タイタニック』『アナと雪の女王』に次ぐ第4位に君臨していることと、日本のみならず世界各国で公開され、アニメ界のアカデミー賞といわれるアニー賞にもノミネートされたことぐらいであろう。

参考:マーク・ウェブの魅力とは?

 昨年の12月には同作以来3年ぶりとなる新海誠監督の最新作『天気の子』の制作が発表され、川村元気プロデューサーとの再タッグや、劇中の音楽をRADWIMPSが再び担当することが続々明らかに。そして予告映像が解禁されればたちまち話題をさらうなど、新海誠が宮崎駿や高畑勲の後を継ぐ国民的アニメ作家の筆頭候補にあることを改めて予感させるほどだ。おそらく今年7月の公開時に、その予感はより確かなものとなることだろう。

 そんな中、『君の名は。』がハリウッドで実写リメイクされるということが決定したのは昨年の春のことだ。公開時期やキャスティングなどの詳細についてはまだ未定ではあるが、「田舎に住むネイティブアメリカンの少女と、大都会シカゴに住む少年が入れ替わる」というオリジナルの最重要設定を巧みにアメリカナイズさせたような大まかなプロットは明らかになっている。そして川村プロデューサーと東宝も製作に携わり、『スター・ウォーズ』シリーズなど数多くのドル箱作品を掌握しているJ.J.エイブラムス率いるバッドロボットが製作。間違いなく途方もない規模感の作品に仕上がるのではないだろうかと予感しないほうが無理がある。

 これまでも日本のアニメーション、漫画作品がハリウッドで実写化されるということは何度かあった。しかしながら、あえてタイトルは挙げないでおくが、そのどれもが興行的にも批評的にも成功作とは呼びがたいものばかり。それだけに『君の名は。』においてもスケール的な部分での期待は多少あれど、圧倒的に不安要素の方が大きくなってしまうのは仕方あるまい。とりわけ飛来する彗星というSF要素に関しては、ハリウッドの技術力をもってすれば何も問題はなく、また日本の伝統文化に触れていた部分においても前述したようにアメリカナイズされた脚色によってうまくはめ込むことができよう。しかしながら、“入れ替わり”というファンタジー要素から生まれる、ポップな青春ラブストーリーとしての部分はどう変化するのだろうか。

 やはりそこは、メガホンをとるマーク・ウェブ監督のセンスを信頼するほかない。10年前に恋愛映画という凡庸かつ進歩が難しいジャンルに革新をもたらした『(500)日のサマー』で長編デビューを飾り、その後はアメコミ超大作シリーズを任されたり、中規模の家族ドラマと青春ドラマをそれぞれ手がけるなどコンスタントに新作を発表してきたウェブ監督。もともとミュージックビデオ監督としてキャリアを築き上げてきた彼の作風の最大の特徴は、やはりそのテンポ感の良い画面展開と、音楽と映像のシンクロの小気味良さにあろう。だとするなら、RADWIMPSの音楽によって物語に抑揚がつけられたオリジナルの雰囲気をそのまま継承することも、ハリウッド版でどのアーティストがその役目を担うかを問わず充分可能であり、むしろそれによってポップさも研ぎ澄まされるに違いない。

 そして脚本を務めるエリック・ハイセラーといえばドゥニ・ヴィルヌーヴの『メッセージ』でアカデミー賞候補にあがった優秀な脚本家だ。キャリア初期こそ『エルム街の悪夢』をはじめホラー作品のシリーズ作やリメイク作を手がけてきた彼だが、昨年末に全世界配信されたNetflix作品『バード・ボックス』しかり『メッセージ』しかり、SF的プロットの中に極めてオーソドックスな形のヒューマンドラマを織り交ぜることに長けたシナリオライターとの印象が強い。それを踏まえると、ハイセラーらしさが生じるのはネイティブアメリカンの少女とシカゴの少年という主人公二人のバックグラウンドとしての部分になるだろう(オリジナルでは触れられていない、少年側の家族の物語も深く描写されるような気がしているのだが)。登場人物の物語をつづりながら、アメリカという国の数百年ほどの歴史と向き合う。リメイクの上で最大のポイントは、間違いなくここであろう。

 総じて見渡してみれば、日本のプロデューサー陣が関わることでオリジナルのマインドが大きく覆る心配もなく、それでいてエイブラムスによってハリウッド大作的なエッセンスが器用に与えられる。そして内容面においては青春ラブストーリーというドラマ性と音楽との融合を得意とするウェブの演出に、人物描写に深く切り込むハイセラーの脚本。これはなかなか期待できる座組みがそろったものだと改めて思えてくるのだが、さてどうなるのか。このプロジェクトが成功すれば、それをきっかけにアニメーションに関わらず日本作品がハリウッドでリメイクされるという本格的なブームが訪れることになるはずだ。 (文=久保田和馬)

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