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『このマンガがすごい!』松江哲明監督が語る、蒼井優と挑んだ“ひと夏の記録”「役者さんたちの凄さと面白さを知った」

リアルサウンド

18/12/14(金) 16:00

 宝島社が発表する、各界の漫画好きが本音で選んだその年の“すごいマンガ”ランキング書籍『このマンガがすごい!』。そのタイトルを冠したテレビ東京ドラマ25『このマンガがすごい!』が現在放送中だ。

 本作は、女優・蒼井優をナビゲーターに、毎回ゲスト出演する役者たちが自ら実写化したいマンガを選び、今まで培った独自の役作りで、キャラクターと一体化するまでを追った挑戦の記録だ。森山未來、東出昌大、森川葵、でんでん、中川大志、平岩紙、山本美月、塚本晋也、新井浩文と山本浩司、神野三鈴という多種多彩なゲスト陣。彼らが挑んだ“実写パート”の面白さ、そしてそれ以上に普段見ることはない役者たちの素の顔を引き出したドラマとして、視聴者を惹きつけてきた。

 リアルサウンド映画部では、本作を手がけた松江哲明監督にインタビュー。企画の誕生から、ナビゲーターに蒼井優を抜擢した理由、そして最終回の見どころまでたっぷりと話を訊いた。

●マンガを語る中で見えた役者たちの“素”

ーー『このマンガがすごい!』を実写化すると聞いたとき、「一体何を実写化?」という疑問がまず浮かびました(笑)。最初の企画の経緯から教えていただけますか。

松江哲明(以下、松江):『映画 山田孝之3D』で“マンガのコマに入る”という手法を取り入れ、マンガの擬音やセリフをすべて山田くん1人で担当したのですが、その時の衝撃が大きかったです。それと『山田孝之の東京都北区赤羽』『山田孝之のカンヌ映画祭』(ともにテレビ東京系)を作る中で、役者の話を聞くのがとても新鮮だったというのがあります。昔から映画や小説でも“バックステージもの”というジャンルはありますが、きらびやかな世界にいるように見える役者たちが、どんなアプローチで役に挑んでいるのか、演じているのか、それを垣間見ることは誰にとっても興味深いものになるのではないかと。まず、マンガのコマの中に入ること、そして役者さんの役作りの過程を見せること、このふたつがスタッフの共通認識としてありました。そこで企画書を書いてもらったのですが、最初は「ザ・マンガ」とか「実写化」とか、もっと曖昧なタイトルでした。どうもピンとこないな、とスタッフと相談していたのですが、プロデューサーからヤケクソのような形で「『このマンガがすごい!』はどうですか」と意見がありまして、「それだ!」と(笑)。そこから宝島社の編集部の方たちに許可をいただいたんですけど、意味がまったく分からないという感じでした(笑)。

ーー「マンガは特に読まない」と語っていた蒼井優さんがナビゲーターを務めたことも意外でした。

松江:本作の主役はマンガと役者。ゲストにマンガを語ってもらう一方、役者としての側面を引き出してくれる人を探していました。そこでプロデューサーから以前、作品作りを一緒にしたことがある蒼井さんはどうか、という案がでて、ちょうど『彼女がその名を知らない鳥たち』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞された直後だったこともあり、ぜひお願いしたいと思いました。受賞された時の「学校がつらい方、新しい生活どうしようと思っている方がいたら、ぜひ映画界へ来てもらいたい」という言葉が素敵だったので、そんな想いを持つ蒼井さんが役者さんと向き合い、マンガや芝居の話をする時間を撮りたいと思いました。実際、撮影をしながら芝居、そして役者が本当に好きなんだな、と実感させられました。この企画は蒼井さんがいてくれたからこそ成立しましたし、ゲストの方々が出演を決めてくれた理由のひとつに蒼井さんの存在も間違いなくあったと思います。

ーー中川大志さん、森川葵さんら勢いに乗る若手俳優から、森山未來さん、東出昌大さんらといった映画・ドラマに引っ張りだこの俳優、そしてでんでんさんや神野三鈴さんまで、本当に多種多彩なゲストたちです。どういったイメージでキャスティングしたのでしょうか。

松江:一言で表現するなら、「大作映画のようなキャストの並び」でしょうか。蒼井さんが主役だとしたら、その相手役として森山さんと東出さんがいる。もうひとりのヒロインとして山本さん、森川さん、物語をかき乱す謎の男を塚本さん、さらに一癖ありそうな新井さんと山本さんがいて……といったようなイメージです。メインビジュアルのイメージも、アメコミ映画の雰囲気といいますか(笑)、ワクワクしそうなものを目指しました。

ーー「マンガを実写化する」という情報のインパクトが強かっただけに、「実写パートを楽しむもの」として最初は構えていました。でも、蓋を開けてみたら、そこに至るまでの過程を追ったこれまでにない“ドキュメンタリー”でした。

松江:いま、日本の映画界もTVもマンガ原作の作品が非常に多いですし、企画を立てる上で無視できない状況です。オリジナル企画が珍しくなり、そのこと自体が宣伝になるような時代になっていますが、原作者やファンなど、いろんな期待と責任を背負う中、どう役作りをしていくのかを捉えたいと思いました。しかも、自分が本当に好きなマンガを実写化すると決め、どうやってそこにアプローチしていくのか、その過程は絶対に面白くなるんじゃないか、と。

ーー第1回の森山さん『うしおととら』の実写化へのアプローチは、アマチュアの方々もオーディションに参加して、配役を決めていくというものでした。そのときは、「毎回これが続くの?」と思ったのですが、見事に10人とも似ている要素も全くない、別々のアプローチだったので驚きました。

松江:最後はマンガのコマに入る、このゴールが明確だったからこそ、その過程は10人いたら10通りのものが撮れるはず、という意識でいました。“ドキュメンタリー”というと、普段見ることのない素の顔を引き出すために、例えば楽屋にも侵入していくとか、本人は撮られていることを知らないところでこっそり撮るとか、“裏側”を映すものと思われがちです。もちろん、それも手法のひとつですが、それだけではない。「撮らないでください」と言われるのを狙うのではなくて、むしろ「撮ってください」と言ってくれる役者さんの“素”があってもいいんじゃないかと。

ーー確かに「役者を捉えたドキュメンタリー」は、辛いシーンや悲しいシーンを捉えたものが多い印象です。

松江:もちろん、そういったものが視聴者の知らない顔であり、見たいものになることはあると思います。でも、自分の好きなマンガを選び、真剣に取り組む中で見えてくる視聴者の知らない顔も絶対にあるはず。特に面白かったのは、マンガの話をすると自然と幼少期の話になり、その中で特に好きなものの話になると今へと繋がる核のようなものも見えてくるんです。さらに蒼井さんが側にいることで、役者同士だからこそ分かりえある苦労や楽しみが言葉を多く語らずとも、伝わってきました。

●全12回は蒼井優のひと夏を捉えたドキュメンタリーに

ーーそれにしても、10人いて10通りの方法があり、かけているであろう予算などもまったく違います。いわば、1番組でありながら人数分の企画を考えなくてはいけないものであり非常に大変だったのでは。

松江:「ひと夏の記録」と謳っていますが、短期間でこれだけの企画・撮影・編集を行ったのは初めての経験でした。ゲストの方と打ち合わせをして、何を実写化したいか決める。そこから原作者の方に許可をいただいたり、役作りの上での取材をさせていただいていたり。撮影も超短期間で行わないといけないので、常にスケジュールとの戦いでした……。ただ、ドキュメンタリーの撮影は必ずしも余裕のある現場がいいというわけではなく、熱気の中で生まれるものもあるんですよね。

ーーでんでんさんに至っては、役作りのために超短編作品まで撮影されています。監督にも平松恵美子さん(山田洋次の助監督、脚本家として長きにわたり支える)まで登場して、この回だけ豪華過ぎると思いました(笑)。

松江:回によってバラバラなのは、役者のアプローチがバラバラである以上、いいじゃないか、と。例えば新井さんと山本さんの回は撮影時間も最も短かったし、予算も卓球場を借りただけ(笑)。あまりにノープランすぎて「大丈夫か?」とほんの少しは思ったりもしましたが、現場にある『行け! 稲中卓球部』のコミックを見ると「これでいいのだ」と覚悟を決めました。ゲストが望んだアプローチを最優先するのがこの番組の基本ですから。これだけゲストによっていろんなアプローチができたのも、やっぱり蒼井さんがいたからだったと思います。スタッフはもちろん、ゲストの方々も「蒼井さんを楽しませたい」という気持ちがあるんです。そして、蒼井さんも本当に役者への関心が強い方なので、どの回もゲストのアプローチにとことん向き合ってくれていました。

ーー第10回の神野さんで終わり……かと思いきや、11回12回と蒼井さんが主役となります。

松江:1回から10回まではゲストの方のドキュメンタリー作となっているわけですが、1回~12回のトータルとしては平成最後の夏の蒼井優を捉えたドキュメンタリーなんです。それぞれがつながっているわけではないので、どの回を見ても楽しんでもらえるような構成にしたのですが、1回からずっと追いかけてくれた方には最後の2回の放送に大きな意味を感じてもらえるのではないかと。蒼井さんは映画やドラマでさまざまな顔を見せてきましたが、この2回はカメラの前で初めて見せた表情が切り取られていると思います。最終回のラストカットにはこの夏に過ごした時間を感じてもらえるようなものを目指しました。

ーー撮影を進める中で蒼井さんとはどんなやり取りをされていたんですか。

松江:蒼井さんは自分が納得したことに関しては、こちらが求めている以上のものを全力でやってくれました。だから、現場のスタッフも蒼井さんがそんな気持ちになれるように全力を出してくれたと思います。一方で、納得しないものに関してはとことん話し合う方なんです。最後の2回、蒼井さんが実写化したいマンガを決めたのですが、悩んで悩んで撮影もどんどんギリギリになっていって。でも、現場の都合だけで決められないので、あらゆる方向を想定しつつ、とにかく待ちました。蒼井さんが嘘がない人だから、こちらもそれに応えないと絶対にダメだなと。最終的に蒼井さんが選んだマンガが、この番組にどういうふうに関わってくれていたのかが込められているもので本当によかったと思います。

ーーこれまでにない役者の素と本気が見られる不思議な作品だったと改めて感じます。

松江:役者に限らず、誰しも何かしら好きなマンガはありますから。できればシーズン2もやりたいですね。蒼井さんをはじめ、改めて役者さんたちの凄さと面白さを本作を通して知ることができました。最終回、本当にいいものが撮れているので出来ればリアルタイムで、その後も配信やソフト化もされるので、ぜひ多くの方に観て欲しいです。

(取材・文=石井達也)

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