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伝統の復権と世界市場への挑戦 『紅き大魚の伝説』『ネクスト ロボ』に見る、中国アニメの隆盛

リアルサウンド

18/10/10(水) 13:00

 世界の映画市場はもはや中国の存在を無視できない。世界の映画産業の中で中国の存在感は年々高まっており、今年の第1四半期の映画興行収入が北米市場を超えたという報道(参照:AFPBB NEWS|中国の映画興行収入、米国抜き世界首位 北米以外で初)もあった。

 アニメーション産業も同様に、中国抜きにはもはや語れない。中国での日本アニメの人気はよく知られているが、中国は熱心なアニメの買い手というだけでなく、いまや制作者でもある。すでに日本のTVアニメで中国企業の名前は日常的に目にするようになっており、中国の大手アニメーションスタジオ、Haolinersは日本支社のスタジオも所有しており、bilibiliもこの流れに追随している。

 Haolinersの代表、リ・ハオリン氏は新海誠監督からの影響を公言しており、今年には、日本のコミックス・ウェーブ・フィルムとの共同製作で映画『詩季織々』を作っている。彼のように、日本のアニメに影響を受けたクリエイターは国内からも続々と登場しており、スタジオ単位で見ても日本アニメのエッセンスやビジネスのノウハウを吸収し、成長している。いまや中国アニメーション産業は、日本にとって大きな競合相手なのだ。量や規模の面だけでなく、質の面においても中国アニメーションの存在感は高まってきている。

 そんな中国アニメーションの急激な成長を象徴するかのような、2本の作品がNetflixで相次いで配信された。ひとつは『紅き大魚の伝説』、そしてもうひとつは『ネクスト ロボ』だ。どちらも異なるスタイルのアニメーション作品で、今後の中国アニメーションの多方面での躍進を予感させるクオリティだ。2作が提示するキーワードは「伝統の復権」と「グローバル市場への参入」である。

 リャン・シュエンとチャン・チュンが監督を務めた『紅き大魚の伝説』は、2016年に中国で公開された手描き主体の長編アニメーション映画だ。2016年の中国映画市場はアニメーション映画の当たり年だったが、本作はアメリカ製の『ズートピア』や『カンフー・パンダ3』、日本の『君の名は。』などに次ぐ大ヒットを本国で記録。中国産アニメーション映画としては、2015年のフル3DCG作品『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』に次ぐ歴代興行成績を残し、手描き主体の2Dアニメーション映画としては異例の大ヒットとなった。

 共同監督の1人であるリャン・シュエンが見た夢をモチーフにしたこの作品は、自主制作としてウェブ上に公開されたパイロット版から始まり、構想から完成までに12年の歳月を費やしている。途中、資金難などで頓挫しかけたこともあるが、クラウドファンディングなども駆使し、粘り強く制作を続けた。共同監督の両氏にとってのデビュー作であり、22人の長年の情熱が結実した作品と言える。

 物語は独創的でありつつも、中国古来の感性を感じさせる。海底に広がる「神の円楼」に住むチュンという少女が、16歳の成年式の日にイルカに変身し人間界に渡るが、そこで運悪く網に引っかかってしまう。そこを若い兄妹の兄に助けられるが、大渦に巻き込みその兄を死なせてしまう。幼い妹から兄を奪ってしまったチュンはその青年に命を分け与え、小さなイルカになった青年を成人させて、人間に戻すために育てる。チュンの暮らす世界のしきたりや天災など様々な困難を乗り越えながら、恩に報いようとする少女の愛が壮大なスケールで描かれる。

 ビジュアル面でも見どころ満載で、美しい手描きの背景に、荒削りながら滑らかな作画や、吉田潔による音楽も美しく、壮大なスケールの物語を盛り上げている。

 本作は日本アニメの影響を強く受けている作品だ。監督たちも宮崎駿からの影響をインタビューで公言しており、作品全体の世界観や美術コンセプトには、『千と千尋の神隠し』などの宮崎駿作品、あるいはその源流であるかつての東映アニメーションの世界に近いものを感じさせる。

 しかしながら、本作は日本アニメの焼き直しでは決してない。中国アニメーションにはかつて黄金時代と呼ばれた時代があり、日本アニメや漫画にも多大な影響を与えていた。アジアで初めて長編アニメーションを制作したのは中国であり、1950年代から60年代にかけて多くの傑作を生み出している。それらの多くは、中国の故事や神話などから着想を得ており、表現スタイルは水墨画や京劇などの要素を取り入れた独自のものであった。

 代表的な作品に、水墨画アニメーションとして名高い『オタマジャクシ、お母さんを探しにいく』や、京劇的な演出が今見ても斬新な『大暴れ孫悟空』などがある。その後、文革から始まる長い低迷期を経て、80年代、90年代にはテレビで日本アニメの放送が開始されると、中国国産アニメは忘れられたかのようだった。

 21世紀に入り、中国産アニメを作る機運も高まり、日本アニメに影響を受けたクリエイターも多数登場し、2011年の『魁抜(クイバー)』など日本アニメの影響を強く受けた質の高い作品も生まれるようになった。しかし、それらは中国独自の感性を活かした黄金時代の作品と比べると、オリジナリティや芸術性の点では物足りないものだった。

 『紅き大魚の伝説』がそれらの作品と一線を画した点は、黄金時代の作品を彷彿とさせる、伝統的な感性を下敷きにした物語を、日本アニメから吸収した現在の高い技術力で作った点にある。

 本作は、「北の海にクンと呼ばれる魚がいた。長さは何千理にも及び、測れないほど大きい」という、宋の時代の思想家・荘子の古典である逍遥遊(しょうゆうゆう)の引用から始まる。荘子は道教の始祖の1人として知られるが、その思想は無為自然(むいしぜん)と呼ばれ、人為的な振る舞いを嫌うものだった。蝶になった夢を見たが、それは果たして自分が蝶になったのか、それとも蝶だった自分が人間になった夢を見ているのか、と問う説話「胡蝶の夢」は有名だ。本作の物語はこうした思想がベースとなっている。

 近年、中国の映像産業では「中国らしさ」を追求した作品製作を模索する動きが活発なようだが(参照:北京週報|中国アニメ業界に「中国らしさ」の風)、本作はその最も大きな成功例のひとつだろう。

 『紅き大魚の伝説』は、中国アニメが長い低迷のトンネルを脱したことを告げていると言ってもいいのではないだろうか。日本アニメの優れた表現力を吸収し、なおかつ独創性ある物語と哲学を内包した、中国だからこそ作ることができた作品だ。

 『紅き大魚の伝説』が伝統的な中国アニメーションの復権を象徴するなら、『ネクスト ロボ』はグローバル市場で中国アニメーションが戦えることを示した作品と言える。

 『ネクスト ロボ』は、中国の『暴走漫画』シリーズというギャグ漫画を基にしている。製作会社はウェブで漫画と動画配信を展開している暴走(Baozou)スタジオで、アニメーション制作をカナダのタンジェント・アニメーションが担当している。プロデュース・脚本は中国主導で、監督、ストーリーボードやアートディレクター、CG、VFXなどのアニメーションスタッフ全般はカナダの人材である。この座組みは、日本スタジオと組んで日本の制作ノウハウを学ぶのと同じ発想と言えるかもしれない。

 Netflixが、本作の世界配信権を33億円の大金で取得したことで話題となり、9月から日本でも配信されている。諸事情により、中国での劇場公開は遅れているようだが、まもなく公開される予定だ。

 本作はフル3DCG作品だが、世界のアニメーション映画の市場は日本的な手描き2Dアニメよりもこちらの方がシェアは大きい。ディズニーやイルミネーションなどのアメリカ勢の作品が市場を席巻しているが、本作のクオリティはそれらの作品に勝るとも劣らない完成度だ。主人公が悪ガキで、ディズニーでは躊躇するような描写にも踏み込んでいる点も新鮮だ。VFXや背景に日本アニメの影響を感じさせる面もあるが(参照:アニメ!アニメ!|“爆発やミサイルはマクロスをイメージ”「ネクスト ロボ」日本人クリエイターが語る日本アニメの影響)、全体の作風としてはフォトリアル志向で、ディズニーやイルミネーション作品と比べても見劣りしないレベルのビジュアルだ。

 カナダとの共同製作なので、純粋な中国製のアニメーションではないが、『紅き大魚の伝説』よりもさらにグローバル市場を意識して作られた作品なのだろう。主人公こそ、中国系の少女だが、多様な人種が登場し、舞台も『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』を彷彿とさせる無国籍感覚にあふれている。

 Netflixが本作に33億円も投じて独占配信権を手にしたのは、近い将来ディズニーが独自の配信プラットフォームを作る可能性が高いことが背景にあるだろう。Netflixは、ディズニーに対抗できるフルCGアニメーションを手にする必要があり、『ネクスト ロボ』がそのひとつになりうると判断したのではないだろうか。

 中国アニメーション産業がその資金力と巨大な国内市場をバネに、この分野にますます投資するようになれば、今後も続々とハイレベルなフル3DCG作品が誕生するだろう。中国のスタジオにしてみれば、自国内では劇場公開を展開し、海外向けにはNetflixに高額で配信権を販売するという戦略を取れるので、両者にとって都合が良い関係とも言える。

 中国アニメの伝統の復権と、世界市場への挑戦、2つの潮流が同時期に中国アニメーション界から起こっている。『紅き大魚の伝説』のリャン・シュエン監督は海外メディアのインタビューで中国アニメーション産業は巨大な成長期の始まりにいると語っている。今回紹介した2本の作品は大変に優れた作品であるが、これは到達点ではないのだ。中国アニメーションが世界を席巻する日は来るだろうか。今後も動向から目が離せない。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■配信情報
Netflixオリジナル映画『ネクスト ロボ』
Netflixにて世界190ヵ国で独占配信中
共同監督:ケヴィン・アダムス、ジョー・ケイサンダー
プロデューサー:パッティ・ヒックス、チャーレーン・ケリー
キャスト:シャーリン・イー、ジョン・クラシンスキー、ジェイソン・サダイキス、デヴィッド・クロス、コンスタンス・ウー、マイケル・ペーニャ    
日本語吹替キャスト:山根舞、鈴木達央、藤原啓治、森久保祥太郎、劇団ひとり
Netflix:https://www.netflix.com/

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