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『マローボーン家の掟』監督が語る、70年代サスペンス/ホラー映画から受けた影響

リアルサウンド

19/4/14(日) 12:00

 『ジュラシック・ワールド/炎の王国』の監督、J・A・バヨナが初の製作総指揮を務めた映画『マローボーン家の掟』が4月12日より公開された。

 本作の監督は、J・A・バヨナの監督作『永遠のこどもたち』『インポッシブル』の脚本を手がけたセルヒオ・G・サンチェス。彼にとっては監督デビュー作となる。海沿いの森の中にひっそりと佇む⼤きな屋敷に住むマローボーン家の4⼈兄妹は、不思議な“5つの掟”に従いながら、世間の⽬を逃れるように⽣きていた。忌まわしい過去を振り切り、この屋敷で再出発を図る彼らだったが、⼼優しい⺟親が病死し、凶悪殺⼈⻤である⽗親を殺害したことをきっかけに、4⼈の⽇々が崩れ出す。主演は『サンシャイン/歌声が響く街』『はじまりへの旅』のジョージ・マッケイで、4人兄弟の長男、ジャックを演じる。

 J・A・バヨナとは古くからの友人であるというセルヒオ・G・サンチェス。制作背景からインスピレーションもととなった絵画作品、そして意外な展開が待ち受けるラストシーンに至るまでの演出について、話を聞いた。

■監督としての自由を守ってくれたJ・A・バヨナ

ーーあなたにとって『マローボーン家の掟』は監督デビュー作となります。脚本家としては以前から活躍していましたが、監督業への興味も、もともと持っていたんですか?

セルヒオ・G・サンチェス(以下、サンチェス):僕は脚本家になりたいと思ったことはなくて、常に監督をやりたいと思っていたんだ。ニューヨークの映画学校を出た時に、すでに『永遠のこどもたち』のもとになる短編の脚本を書いていた。それを読んだJ・A・バヨナとギレルモ・デル・トロがすごく気に入って、バヨナが『永遠のこどもたち』を監督することになったんだ。『永遠のこどもたち』から『インポッシブル』『ヤシの木に降る雪』と3本続けて自分が脚本を書いた作品がヒットしたから、今度こそは自分で監督をしたいと思っていたよ。『マローボーン家の掟』はロケ場所は一つで、主な登場人物が5人。低予算で実現できると思ったので、自分で監督したいとこの企画を始めたんだ。

ーーJ・A・バヨナとは古くからの友人なんですよね。 

サンチェス:そうだね。今回、バヨナは私の自由を守るためにかなり手助けしてくれた。バヨナが映画を撮る時に、ギレルモ・デル・トロが製作総指揮でいたような関係と、ちょうど同じようなものだね。技術的なことや美術的なこと、僕がやりたいことをできるだけ叶えられるように、他からの介入から、僕の監督としての自由を守ってくれたんだ。

ーー『マローボーン家の掟』製作においては、どのようなやりとりがありましたか?

サンチェス: どちらかというと、撮影の時よりは編集の時にいろいろなアドバイスをもらったね。『マローボーン家の掟』は非常にバランスが必要な映画なので、ジャンル映画にならないように気配りしてくれた。バヨナには「観客を二度三度驚かすようなところを作ったら、そのあとはドラマに重きを置くように」と教えてもらったよ。この作品はサスペンスだけど、「サスペンスのフェアリーテイル(おとぎ話)」のようにしたいと思っていたから、そのバランスに関しては、バヨナがアドバイスをしてくれた。

ーーあなたにとって最もチャレンジングだったことは?

サンチェス: 一番難しかったのは、物語を進めるうえで基本となる部分を崩さないようにすること。観客はジャックの目線で物語を観るわけだけど、ジャックの感情には“本当のこと”じゃないことがたくさん隠されているよね。だからこそ、家族を描いているシーンでも、恋愛を描いているシーンでも、サスペンスタッチのシーンでも、大前提として兄妹とジャックの間に「僕たちはひとつだ」という気持ちがあることを崩さないようにしたかった。また、観客に対しては常にジャックを通して間違った情報が与えられるので、最後までその緊張感を引っ張っていけるか、そして最後に納得のいく物語にできるか、という点も気を遣ったね。

■重要になっているのは「境界線」

ーー『永遠のこどもたち』などもそうですが、あなたが映画の題材として「子ども」にひかれるのはなぜでしょうか?

サンチェス: 僕は「人格が形成される時はいつなのか」ということに興味があるんだ。それから、「子どもから大人になる時の境目はどこにあるのだろう」ということにも。いったん大人になってしまうと子どもには戻れないけど、自分の中にいる子どもの気持ちは死なない。大人になると一旦それに蓋をして、子どもの時のことは忘れて過ごす人もいるけれど、僕は自分の中にいる子どもをもう一度取り出して、その子どもがどういう風に変遷していくのかを表していったんだ。

 『マローボーン家の掟』のなかで重要になっているのは「境界線」。「子どもから大人になる時」や「生と死」、「ファンタジーとサスペンス」の境界など、いろんなところでの“境目”を描きたかったんだ。

ーー4人の兄妹たちは、とても親密な空気を醸し出していますよね。

サンチェス:撮影を始める前に、みんな家族と離れて実際にアストゥリアス(スペイン北西部にある本作のロケ地)の撮影現場で2週間ほど一緒に過ごしたんだ。一人一人どのように役作りをしていくか、別々の演出の仕方をしなければいけなかったところは、少し難しかったかもしれないね。撮影前のこの2週間は一度もリハーサルはせずに、兄妹たちはどう過ごしてきたのか、母親とはどんな人物だったのか、いつニューイングランドに移り住もうとしたのか、それを決心した時はどういう気持ちだったのかというテーマを、即興で演じてもらった。それによって、家族としての関係が形成されたと思うよ。主演のジョージ・マッケイは、規律正しくいつも周りに目を配る人で、周りと一緒にどうアンサンブルを取っていくか常に試してくれるから、他のキャストから非常に頼りにされていたね。

■参考にしたのは、アンドリュー・ワイエスの絵画

ーー本作には、あなたとバヨナの映画愛が込められているとのことですが、それは具体的にどのようなものでしょうか?

サンチェス:僕は60年代後半~70年代のサスペンスやホラー映画が好きで、たくさん観ていた時期に気づいたのは「一番恐ろしいものは出てこない」ということだった。見えないものが一番恐ろしいということだね。そういった映画的言語は、現在あまり使われていないと思ったので、それに対する愛をこの映画で表すことができたと思っているよ。その年代の映画は非常に美しくて、撮影も細かくて念入りだから、当時への愛を込めてこの映画を作ったんだ。バヨナも同じように当時の映画が好きで、ふたりで映画祭に行った時に一緒に見た作品もいくつかあるよ。

ーー何か参考にした作品はありますか?

サンチェス:映画ではないんだけど、今回は美術と撮影にすごくこだわっていて、アンドリュー・ワイエスの絵画を一つのイメージにしました。彼はニューイングランドの農場をたくさん描いている人で、そこで描かれている木造の家とその周りに茂った夏草は、幸せな時には楽しそうに見えるけど、少しでも自分の中に不安があるとその草がなびくことで不安になる。『マローボーン家の掟』では、「鏡の中をみるのが怖い」という点や、「家の外は明るいのに、家の中に入ると暗い」、「それぞれの部屋に3つドアがある」という家の描写も細部までこだわっていて、常に落ち着かないような演出をしたんだ。幸せな時はみんなで家の中で集まって幸せを感じるけれど、なにかをふっと凝視すると怖い。あの家自体が迷路みたいな構造になっていて、そこも生かすことができたよ。(取材・文=若田悠希)

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