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乃木坂46 高山一実、作家としての武器は“意地悪な視点”と“笑い”にあり 長編小説『トラペジウム』評

リアルサウンド

19/2/1(金) 8:00

 かずみんこと、乃木坂46の高山一実が発表した初の長編小説『トラペジウム』の売れ行きが好調だという。人気グループに所属する現役アイドルが、アイドルになろうとする少女の物語を書いた。高1の東ゆうは、自分の住む城州の東西南北からメンバーを集め、グループを結成しようと計画する。各章は、「南の星」、「西の星」などと題され、1人ずつ増える仲間が星にたとえられている。

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 書名の『トラペジウム』は、オリオン大星雲の若い星の星団を指す。乃木坂46のなかでも美脚で知られる高山は、『美少女戦士セーラームーン』のミュージカル版に火野レイ役で出演したことがある。だから、セーラー戦士が集まるようなものかと思うが、彼女は千葉県南房総市の出身でもある。

 横向きの姿が千葉県の形をしているゆるキャラ、チーバくんでいうと、足首の後ろ側にあたる場所だ。房総半島の南部は、江戸時代に書かれた『南総里見八犬伝』の主要舞台でもあった。映画、マンガ、アニメなどに何度もアレンジされてきた『八犬伝』では、別々に生まれた八人の犬士(犬塚、犬山など「犬」の姓を持つ剣士だからそう呼ばれる)が不思議な絆で結ばれ、仲間となって活躍する。

 南房総市の隣の館山市では『八犬伝』の武者姿でパレードする「南総里見まつり」が催されており、2013年には高山も着物でヒロインの伏姫に扮していた。『トラペジウム』は、アイドル版『八犬伝』のようでもあるのだ。東ゆうたちに転機が訪れる舞台となる城のモデルも、『八犬伝』の題材となった里見家の資料を集めた館山城(博物館のある模擬天守)だろうと想像される。

 ただ、『八犬伝』では、故・伏姫の霊的な子どもである八犬士を、彼女と結婚するはずだった僧侶が探し求める。それに対し『トラペジウム』の東ゆうは、誰かに見つけてもらうのをおとなしく待つのではない。自分で考え、次々に仕掛ける。たとえ本人がアイドルになりたいと望んでいなくとも、彼女が魅力的だと感じる少女がいれば近づき、友だちになってしまう。そうして東西南北の4人組を揃え、業界の人に見つけてもらえるはずの状況を自ら作る。秘めた計画を説明しないまま、周囲をどんどん巻きこむのである。

 主人公は、自身がアイドルになろうとするだけでなく、グループのプロデューサー的な役割まで担おうとする。秋元康という有名プロデューサーが立ちあげた乃木坂46に在籍する高山が、そんな物語を書いたことが興味深い。作中には「アイドルの使命は自分のパーソナルプロデューサーを担い続けることだった」という結論めいた文章まで登場する。

 主人公は帰国子女であり、カナダにいた頃、録画テープで初めてアイドルが歌うのを見て「人間って光るんだ」と思った。星に関連した書名や章題がつけられたのはその光に由来するし、彼女は感動が忘れられず、アイドルになりたいと一途に願う。その強い思い自体は純粋だ。

 ところが、希望を実現しようとする行動のほうは、えげつないくらい戦略的である。SNSをやらず彼氏を作らない彼女は「アイドルになったら、過去はすぐに暴かれる」と先々のことまで見すえる。男といる写真が暴露されるよりこちらの写真のほうがうけはいいと、ボランティア活動に乗り出す。そのくせ、この人間関係はもう将来の役には立たないと判断すると、あっさり遠ざかる。「なんの見返りも求めずに人に尽せるほど、お人好しではないのだ」などと思う。

 同じ秋元康プロデュースでも、48グループよりもお嬢様風で正統派清純アイドルっぽいイメージを打ち出している乃木坂46のメンバーが、このように少女の打算、身勝手さ、意地悪さを描く。高山本人が、人気グループの1人として言葉を選んで話す時と、小説家として裏側の心情をやや露悪的に書く時のギャップを楽しんでいる気配がある。彼女の存在を小説発表以前から知っていたものとして、読みながらその楽しさを共有する感覚があった。

 小説に関してはまだ初心者だから、力んだ表現がみられたり、後半がかけ足気味だったりというところはある。とはいえ、アイドルという作者のよく知る世界を題材にしたために伝わってくる実感ばかりが、この小説の魅力ではない。主人公が他人を見る目、作者が主人公を見る目といった人間観察の表現が面白い。

 『トラペジウム』に関して、すでに有名になっているのが「決してぶっきらぼうではないが、なんだろう、この漂う童貞感は」というフレーズ。アイドルらしくないワードを使ったという注目点はあるが、それだけで終っていない。東ゆうは、そんな風に評した男子を遠ざけるのではなく、アイドルグループ計画の協力者にする。彼女は図々しく、ちゃっかりしている。

 一方、ボランティア活動で知りあった障碍のある女の子に1人がなにげなく放った言葉が無神経だと指摘され、仲間同士で微妙な空気になる場面もある。自分本位の暴走、周囲に気を配りきれない視野の狭さといったきれいごとに収まらない言動や感情を拾いあげているのだ。

 乃木坂46の読書好きメンバーたちのなかで高山は、乃木坂活字部部長の役割である。彼女は好きな小説家として湊かなえをあげている。『告白』、『少女』、『白ゆき姫殺人事件』などで知られる湊は、人の醜い部分を描いて嫌な気分にさせるミステリー、通称「イヤミス」の女王といわれた。「イヤミス」には嫌な気分だけでなく、隠されていた部分が暴露される痛快さもあり、その種のテイストが『トラペジウム』にも感じられる。

 しかし、「イヤミス」についてよくいわれる後味の悪さは、『トラペジウム』にはない。人が殺されるミステリーではなく、少女の成長を語る青春小説だからではあるだろう。計算高い主人公が小賢しく可愛げがないようでいて、あまりにも一つの目標に一所懸命で、純粋で憎めないということもある。加えて、高山特有のユーモラスなノリがある。

 グループに加える少女をスカウトしようと他校へ行く。そこで出くわした小柄な生徒をみて「顔面が昔の榊原郁恵にそっくりだ」と思う。縦巻ロールヘアに大きなリボンのテニス部員美少女を見て「……お蝶夫人?」と昭和のマンガのキャラクター名をつぶやく。で、冴えない男子には「漂う童貞感」というワードが浮かぶわけだ。

 高山は活字部部長ではあるが、おとなしい文学少女という風に落ち着いているわけではいない。乃木坂ではバラエティ担当的なメンバーの1人であり、グループの冠番組『乃木坂工事中』などでは、むしろバタバタした印象のリアクションで笑いをとっている。その種の反射神経が、小説の文章にもかいまみられる。ちょっと意地悪な人間観察をする文学少女的な目線と、人や出来事に感じるままリアクションするバラエティ的なノリが重なって、彼女の文体は作られているのだ。この意地悪な視点と笑いの両面性は、これから文章を書き続けるうえで有効な武器になると思う。

 二作目を楽しみにしているし、『トラペジウム』がいずれ文庫化される際には、単行本で語られなかったエピソードなどスピンオフ短編の執筆も期待したい。(円堂都司昭)

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