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いま、最高の一本に出会える

『ROME/ローマ』を撮影中のアルフォンソ・キュアロン監督(写真左)とクレオ役のヤリッツァ・アパラシオ

本年度の映画賞を席巻中。アルフォンソ・キュアロン監督が語る『ROMA/ローマ』

ぴあ

19/2/20(水) 12:00

『トゥモロー・ワールド』『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督の最新作『ROMA/ローマ』がNetflixで独占配信されている。1970年代のメキシコで暮らす一家の日々を描いた本作は、キュアロン監督の幼少期の記憶を基にした作品で、彼のキャリアの中でも特別な作品になった。ヴェネチア映画祭で最高賞の金獅子賞に輝いたほか、数多くの映画賞を受賞している本作はいかにして生まれたのか? キュアロン監督に話を聞いた。

1961年にメキシコの首都メキシコシティに生まれたキュアロン監督は、大学で大親友になる撮影監督エマニュエル・ルベツキと出会い、映画づくりを開始。テレビ局でディレクターをした後に映画界に入り、1991年に長編映画デビュー。4年後には活動の場を海外に広げ、『リトル・プリンセス』『天国の口、終りの楽園。』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』などの作品で高い評価を獲得した。朋友のギレルモ・デル・トロやアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥらと共に映画製作にあたるなど精力的に活動している。

そんなキュアロン監督が長年に渡って構想し、自身の幼少期の記憶を基に故郷メキシコで撮影したのが『ROMA/ローマ』だ。「最初にこの映画のことが頭に浮かんだのは、『トゥモロー・ワールド』が完成した後のことですから、12年ほど前です。しかし当時は怖くて、とてもではないですがこのプロジェクトに取り掛かることはできませんでした」。しかし、彼はアカデミー監督賞を受賞した『ゼロ・グラビティ』の次の作品に『ROMA/ローマ』を選んだ。「この作品に着手した最大の理由は……自分が歳をとったことですね(笑)。正直に言うと“恐怖を乗り越えた”というよりも、荒れ狂う嵐の海の中でひとりで迷子になっている時にライフジャケットを投げ込まれたら、必死にしがみつきますよね? そんな感じです(笑)」

本作は、メキシコシティのローマ地区周辺で暮らす一家の物語だ。家には父アントニオ、母ソフィアと4人の幼い子どもたち、そしてソフィアの母が暮らしており、クレオという名の家政婦が家事を行い、子どもたちの面倒も見ている。舞台になった1970年代のメキシコは順調に経済成長を遂げていたが、格差が広がり、学生や知識層が体制に対して反対運動を起こすなど、社会の歪みが表面化していた。クレオは若い身で中流家庭の家に住み込み、時に理不尽な想いをしながら一家の世話をし、わずかな余暇を見つけては自身の将来を模索する。一方、ソフィアも夫婦関係に悩み、子どもたちを育てることに苦労を感じていた。

映画はクレオと一家のドラマを主軸に、当時のメキシコ社会やジェンダーの問題、ポストコロニアリズム(旧植民地に残存する様々な課題を把握し、文化や政治体制などの諸問題を考察する)的な視点の考察が、レイヤー(層)を成すように描かれる。「映画は、クレオという女性の傷、家族の傷、そして社会の抱える傷を描いた作品だと私は思っています。残念ながら、社会の傷という点ではここで描かれる問題は決して過去のものではなく、むしろ現在の方が大きな傷になっているのかもしれません。だからこそ、ポスト・コロニアリズムについて指摘していただいたのはうれしいことです。というのも、この作品では当時のメキシコが植民地時代の悪い傾向、具体的には人種を根拠にした階級システムをそのまま引きずってしまっていることが描かれているからです」

そこでキュアロン監督は複数の層からなるドラマを、複数の層からなるビジュアルと音響で描き出している。「最初から決めていたのは、カメラが現代から過去を訪れた“幽霊”のような存在にしたい、ということでした。そして画と音は時間や空間を大切に扱い、キャラクターと同じぐらい、彼らのいる環境も大事に描くこと。この映画は先ほども言いましたが、個人の傷を描きながら同時に、社会の傷を描き、考察する作品でもあるからです」

監督が語る通り『ROMA/ローマ』の舞台は1970年代だが、視点は“現代”にある。そのため、本作はキュアロン監督のキャリアの中で初めて全編がデジタルで撮影され、70年代“風”を装うような画質補正や調整は一切行なわれていない。また、サウンドも最新の立体音響で設計されており、映画館で上映されることを想定してドルビー・アトモス用のミックスも行なわれた。「前作『ゼロ・グラビティ』のカメラワークはある種、人工的なもので、ひとつのショットの中で視点が主観から客観に移動したり、再び主観に戻ってきたりしていました。しかし、私はこの映画ではそのような動きを完全に回避して、客観的な視点でストーリーを語りたいと思いました。その上で、現代からやってきた“幽霊”が好奇心をもって場面を覗きみるように、カメラを横に移動させたりしているわけです。あと、今回の映画のカメラワークは人間存在の“はかなさ”を伝えるようなものであってほしいと考えていました」

本作の映像と音響は圧倒的にクリアで美しく、すべてのショットが入念に計算され、設計されている。水面に映った光景や、そこを横切る飛行機(本作の重要なモチーフとして繰り返し描かれる)を捉える冒頭から、カメラが横移動するたびに見えなかった部分が新たに現れ、見えていた部分の違う角度に光があたる室内のショット、クレオが疾走する背後に人々がうごめく街頭の場面……本作ではキュアロン自身が撮影監督を務めたが、そこには監督の大親友にして創作上の最重要パートナー、エマニュエル・ルベッキの多大な貢献があったようだ。

「この作品を思いついた時からずっとチーボ(ルベツキの愛称)に相談していましたし、脚本を執筆している段階でも彼が撮影を担当する予定で、ふたりで準備を進めていました。残念ながらスケジュールの都合でチーボが本作に関わることができなくなってしまったので、私が撮影監督も務めることになりましたが、この映画にはチーボのDNAが息づいていると私は信じています。そもそも、今回使用したカメラとレンズ(本作は全編がARRIのデジタル撮影機器ALEXA 65、レンズはPrime 65 Lensesで撮影された)もふたりで決めましたし、撮影中はずっと“チーボだったら、どうする?”と考え続けていました。私が現場で“こんな撮影は無理だろうな”と思った時に、いつも私の背中を押してくれたのは彼でしたから」

本作は、『ゼロ・グラビティ』のような危機や、わかりやすい主人公のゴール(地球への帰還)が描かれているわけではない。しかし、本作は起伏に富んだドラマと映像に魅了され、そこで描かれる感情に心を奪われ、繰り返し観るたびに新たな発見のある傑作になった。「この映画がどうやって結末を迎えるのかは、最初にこの映画を思いついた時から決まっていたと思います。この映画は私の幼少期の記憶が題材ですが、自分の家族の物語を普遍化する気持ちはありませんでした。ただ、この映画は幸福な結末が描けたと思っていますし、現代においても我々にまとわりついている“愛は階級を超えることができるのか?”という問いかけに対する、何らかの答えになっていると思います」

Netflixオリジナル映画『ROME/ローマ』
独占配信中