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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

鈴木健太

愛する楽器 第3回 鈴木健太のFENDER CUSTOM SHOP 1951 Nocaster with B-Bender Custom

ナタリー

19/4/10(水) 13:34

アーティストが特にお気に入りの楽器を紹介するこの企画。第3回は鈴木健太(D.W.ニコルズ)が、日本で使っている人は珍しいBベンダーという機構を搭載したFENDER Telecasterについて語ってくれた。J-POPとカントリーを融合させ、D.W.ニコルズが新たなポップスを生み出した背景には、思い切ったギターの大改造があった。

Bベンダーで出す音は、ニコルズの音楽にマッチする

カントリーの花形であるペダルスチールのニュアンスをエレキギターで出せないかということで開発されたのが、Bベンダー。一般的にはストリングベンダーとも呼ばれます。もともとブルーグラスのギタリストだったクラレンス・ホワイトがエレキギターをプレイするようになっていく中で、盟友ジーン・パーソンズと共に開発しました。アメリカでは1960年台後半以降、主にカントリー系の音楽でよく使われていますが、日本ではなかなか使っている人がいないです。日本のカントリーギターの第一人者である徳武弘文さんのモデルはあったりするんですけど、下の世代で使っている人は全然いなくて、長岡亮介(ペトロールズ)さんとか高田漣さんとか、ごくわずかだと思います。パーツが手に入りにくい上に取り付けるにはギターを大改造しなければいけないので、なかなか手が出しにくいんですよ。

僕はBベンダーの存在を知ってはいましたが、あるときFENDERのショールームに遊びに行ったらたまたまそれがあったんです。興味本位で借りて弾いてみたらすごく面白くてハマってしまい、結局は自分のTelecasterの中の1本を改造してBベンダーを取り付けることにしました。この取材で持ってきたギターは2008年に買った僕にとって初めてのTelecasterでずっとメインで使っていたんですけど、後にジョージ・ハリスンが使っていたことでも有名なRosewood Telecaste、いわゆる“オールローズ”を買ってからはそっちがメインギターになって、このギターはサブになっていたんです。でもこのギターもカスタムショップ製でとてもいい楽器なのに、ずっとサブにしておくのはもったいないなということで、思い切って大改造に踏み切りました。

ストリングベンダーという機構は、ギターの弦をベンドさせて音程を変化させるもので、Bベンダーは2弦に作用する作り。2弦は「シ=B」の音で、Bの弦をベンドするからBベンダーと言うわけです。2弦をボディの裏側に仕込んだバネ仕掛けの装置に通すのですが、その装置がストラップを引っかけるピンにつながっているんですね。ギターを背負った状態でヘッドを押し下げると、ストラップピンを通してボディ裏側の仕掛けが動作して、2弦が引っ張られてチョーキングしたときのように音程が変化するんです。原始的な仕組みで弾いている姿もちょっと面白いんですけど、機械仕掛けならではの独特なニュアンスが出るんです。普通のチョーキングだとどうしてもブルースっぽいというか、泥臭い雰囲気になりがちだけど、機械でベンドすると泥臭いというより乾いた土の匂いの雰囲気で、ニコルズのサウンドにもマッチするなって思っています。

僕は1歩引いたようなプレイスタイルが好みで、歌の隙間を縫うような演奏が好きなんです。20代前半の頃は“ギュイーン”とチョーキングもたくさんやってましたけど、もうそういうのはくどい。Bベンダーだとくどくなく曲の味付けができたり、歌の合いの手も入れられたりするんですよね。ギタリストとしてまた1歩前進できた気がしました。

とはいえ実際このギターを手にしてからは、研究研究の日々でした。フレージングもポジショニングもいちいち変わってきますからね。Bベンダーって弾き方の教則本もなければ、実際に使われている音源自体もそんなに多くない。1曲通して使われている曲なんて本当に少なくて、隠し味的に使われることが多いんです。そしてやっぱりBベンダーは基本的にカントリーで使われる楽器なので、それをどうやって自分たちの音楽に取り入れるかを考えるのが、大変ではあるけど面白かったですね。自分たちのポップな曲にベンダーのサウンドを融合させることで新しいスタイルを確立できた。でもまだまだ可能性を秘めていると思うので、今も日々研究中です。

もう、何でもやってみようって

レコーディングでBベンダーのギターを最初に使ったのはミニアルバム「スマイル3」で、借りたBベンダー搭載機をどうしても使いたくて、1フレーズだけ使いました(笑)。次に「オーライ!」っていう曲のギターソロでも使ったんですけど、その後はやっぱり使い方が難しくてなかなか大活躍というわけにはいきませんでした。でも、去年出した4thフルアルバム「HELLO YELLOW」では、2年くらい自分の中で貯め込んでいたBベンダー奏法の研究の成果を一気に放出して、「はるのうた」や「WALKING」で思いっ切り使っています。コード進行など曲調はポップスなので、今流行りのシティポップ的なソウル系のフレーズならハマりやすいけど、それだと面白くないし、逆に曲の持ち味が失われちゃう。そうかと言ってブルースギターではいなた過ぎる。そこでBベンダーの奏法を思いっ切り入れてみたら、まずメンバーが「めちゃくちゃいいね」って言ってくれて、「やっていいんだ!」って思って(笑)。そこから一気に注ぎ込みました。

Bベンダーを使うことで、ギタリストとしての注目度も上がったように思います。それまではわりと小器用な印象があったかもしれないし、僕はカントリーもブルースも好きだけど、「僕と言えばこれ」っていうのが定まってなかったかもしれない。もともとカントリーは僕にとってアコースティックギターのルーツであって、エレキギターを持つようになってからのルーツはブルースが強いというのもあり、バンドではブルースのほうがアプローチしやすくて、ついついそっちに行きがちだったんです。でも、バンドの音楽性的にもカントリーの要素が強くなる中、Bベンダーを手にしたことで、自分の中にあったカントリーというルーツを表に出せるようになって、ギタリストとしての立ち位置もはっきりしたような気がします。

あとはそもそもTelecaster自体が大好きで、今持っているギターもTelecasterばっかりなんです。僕はThe Bandが大好きなんですけど、ボブ・ディランの1966年の有名なライブ映像で、ロビー・ロバートソンがTelecasterを弾いているのを見て、それがめちゃめちゃカッコよくてTelecasterを弾くようになりました。Telecasterはエレキギターの元祖で、すごくストレートな楽器で作りもシンプル。タッチがそのまま音に出るので、僕の表現したいスタイルにも合ってるんですよね。

このギター、実はBベンダーを搭載する以外にも改造をしていて、ナッシュビルのミュージシャンがよくやっているように、センターにFENDER Stratocasterと同じピックアップを増設することで、2つのピックアップの音をミックスしたハーフトーンが出せるようにしてあるんです。僕の場合、実際はハーフトーンはそんなに使わないんですけど、本場のカントリー系ギタリストに敬意を表してこの改造をしています(笑)。Bベンダーを載せること自体がめちゃめちゃ大改造なので、もうなんでもやってみようと思ったんですよね。それとこのギターはネックがすごく太いんですけど、僕は手が小さくてこの太いネックが弾きにくいので、後ろの塗装を剥がして少しでも弾きやすくなるようにしています。

遊び道具のつもりだったのに

今ではショルダーストラップタイプのBベンダーのパーツはアメリカから取り寄せるのは難しい状況で、改造を施すためにはアメリカの専門の工房にギターを送って取り付けてもらい、さらに送り返してもらわないといけません。だからかなりの費用がかかるみたいです。ただ、Bベンダーには“ヒップショット”というショルダーストラップとはまた別のタイプもあって、そのパーツは輸入もできるし取り付けも比較的簡単なようです。ニコルズのコピーバンドをやっているっていうファンの方に、ヒップショットのBベンダーを付けたという話を聞いたときはうれしかったですね。

カントリーって、日本だとちょっと古臭い、オールディーズ的なイメージが強いと思うんですけど、向こうのカントリー系のミュージシャンの中にはアイドル的な存在の人もいて、ブラッド・ペイズリーなんかはスタジアムやアリーナでライブをするし、女性ファンに「キャー!」って言われてるんですよね。日本では、テイラー・スウィフトの影響もあってか、若い女性シンガーがカントリーのサウンドを取り入れていることもあります。そういうのを聴くと、「これでカントリーが日本で流行ったらどうしよう」って思うんです。僕なんて同世代にカントリーテイストのアーティストがあまりいないからちょっと目立てているけれど、みんなこぞってやり出したらまずいぞって(笑)。でも、カントリーはポップミュージックの大きなルーツの1つでもあるし、本当に魅力がたくさん詰まった音楽なので、日本でももっと多くの人に聴かれるといいなって思います。

最初は興味本位で、遊び道具のつもりで手にしたBベンダーによって、自分のギタリストとしての立ち位置が確立されるとは思ってもいませんでした。それに僕にとって思い入れのある、この最初のTelecasterも、Bベンダーを取り付けたことでメインギターに返り咲きました。D.W.ニコルズは来年結成15周年になるんですけど、いまだに毎回フレッシュな気持ちでツアーに出られているし、音源を作るのも楽しいんです。制作をするたびに、「まだまだやれることがあるな」って思う。これからもずっと続けていきたいですね。

鈴木健太

1979年4月5日生まれ。栃木県出身。アメリカンルーツミュージックをはじめ1960~70年代のアメリカの音楽やThe Beatlesから影響を受ける。2006年よりD.W.ニコルズのギタリストとして活動。ギターだけでなく、5弦バンジョー、ドブロ、ラップスチール、ウクレレなど多彩な弦楽器を演奏している。さらにはウクレレ教則本の制作や、テレビ番組でのウクレレ講師を務めた経験も。またアナログレコードのオリジナル盤のコレクターでもあり、音楽情報サイト「BARKS」で連載も執筆するなど、多方面において活躍している。D.W.ニコルズの活動を主軸におきつつも、2015年から甲斐よしひろのツアーにギタリストとして参加するなど、さまざまなミュージシャンのレコーディングやライブサポートも行っている。

取材・文 / 金子厚武 編集 / 中村佳子(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 阪本勇

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