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ぴあ

小さなライブハウスの挑戦 第2回 地下からライブハウス、音楽業界、街を変える

ナタリー

18/7/12(木) 18:00

定員170人の小箱ながら、独自性の高いイベントや運営方針で注目を集めている東京のライブハウス / クラブ・下北沢THREE。この連載は、下北沢THREEの店長であるスガナミユウの言葉から、同店の人気の秘密を探るものだ。2回目は連載のイントロダクションとなるスガナミへのインタビューの後半を掲載する。

ドリンク1日約220杯が損益分岐点

「THREEの持つ名前の由来は、“演者・お客さん・店”の三本の矢を指し、それがすべて幸せな状態を表しています」。下北沢THREEは、理想の経営像をWebサイトにも掲げている。そんな経営を実現させる方法をスガナミに尋ねたところ、「これでよく持っているなって……自分でもびっくりするくらい(笑)」と笑う。

「実際入場無料のイベントなどを月に10本も行っていると、従業員が1人で回すライブバーのような規模の店ほどの人件費じゃないと回らないんですけど、ウチは1日6、7人スタッフが働いていて、そういった店に比べて4倍くらい人件費がかかっています。PAスタッフも毎日2人ずつ入ってもらって万全の音響でやるので……奇跡ですね。でも、常に1日100人のお客さんが来ていたら、チケット代があろうがなかろうがどういう状況でも小箱は回るんです。逆に1日100人来ないと本当に理想的な売り上げまでには届かない。だから“どうやったらお客さんを増やすことができるのか”っていうのがテーマです。そのためには常にいろんなことを発信していかないとだめ。たぶん僕、3カ月連続で赤字を出すとクビになる(笑)。でもなっていないから、ギリギリやれてはいるんですよね」

さらに細かく聞けば、下北沢THREEの月の損益分岐ラインを1日単位で慣らした場合、ドリンクの杯数換算で1日約220杯とのこと。もちろん平日と週末では売上の目標値も違う。ただしこの数字はあくまで「赤字が出ないというだけで、収益は残らないライン」だ。現状の人件費、家賃、機材のメンテナンス費、ドリンクの仕入れ料など経費すべてを含めた数字で、スガナミはこの数字と照らし合わせながら店の経営を行っている。

「例えばチケット代が2000円、エントランスでいただくドリンク代が600円のイベントで100人入ると、チケットの売り上げで20万円、エントランスのドリンク売上げで6万円が作れます。さらに、もし1人あたり1.5杯飲んでもらえたらドリンク代だけで8、9万円に乗せられる。そこから打ち上げをしっかり店でやってもらえれば、平日ならばチケット売り上げの20万円は出演者に丸々返せるんです。お客さんが30人しか入らなかった……みたいなときはバック率は変わってきますけど。それでもウチは不足分を取らず、できる限り出演者に戻したい。「ドリンク220杯」と言うとびっくりするような数かと思うのですが、この店はドリンクが出やすい箱なんです。瓶ビールなんかは下北沢の飲食店の中でも1、2位を争うほど数が出ていると思います。とにかくお金の部分は、出演者やイベンターにしっかり説明しています。納得と言うか、『そんなんでいいの!?』って驚かれることもありますけど(笑)。できるだけコミュニケーションを取り合って、お互いがいい状況になるように持っていく。それが僕らのスタイルです。ノルマも取らないし、機材レンタル代やPA・音響使用料を別途取ることもありません。THREEを使う人にとって1日のお金の流れが見えやすい説明をしていきたいんです」

下北沢の街を地下通路でつなぐ

スガナミのスタンスが息付く企画として、こんな商品もある。3000円の“THREEパス”という年間パスを買えば、同店で行われるさまざまなイベントに格安の料金で入ることができる。

「パスの売り上げは、出演者の年間のギャラの補填に全額運用しています。そうするとパスの売り上げは直接的な売り上げにならないように感じられると思うのですが、実はものすごく店に利益がある。例えば年に1度しか来なかったお客さんが、パスを買ったことで年5回来てくれるかもしれない。僕らはそれだけで利益が出るし、出演者へのギャラも増やせます。いいことしかないんです。このように自分たちの利益だけを求めず、こちらから出して返ってくるもので自分たちの利益を作る。“共生”じゃないですけど、そんな考え方を大事にしています。1人勝ちしない、って言うか」

加えて最近では、救済が必要な人への寄付にチケット売り上げのすべてを使うドネーションプランの制定や、スガナミ自身の肝入りイベント「Feelin' Fellows」のレーベル化、自分たちの暮らしや平和について考えることをテーマに毎月9日に実施している無料イベント「ナインパーティ」の拡大、さらには投げ銭イベントの提案など、仕掛けは尽きない。その中でもとりわけ興味深いのは、「下北沢の街を新しくデザインする」というプランだ。

「よく若者の街、音楽の街、演劇の街とか言われていますけど、実は僕、今の下北沢がカッコいいと思ったこともないし、思い入れもない。でも最近先輩から下北沢がカッコよかった時代があったことを教わったんです。その中心にあったのが、ZOO、SLITSっていう20年以上前にあったクラブ。そこには、『さんピンCAMP』の時代の石田(義則 / ECD)さんや今里(STRUGGLE FOR PRIDE)さん、渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET、THE ZOOT16)さんなんかごっちゃごっちゃになっていたって。それで最近、今里さんや松田“CHABE”岳二 (CUBISMO GRAFICO、Neil and Iraiza、LEARNERS) さんみたいなZOOを知る先輩の方々が『THREEはZOOみたいな雰囲気があるね』って言ってくれて、『これは現代版のZOO、SLITZを俺たちがやるべきだ』って思い至ったんです」

ZOO、SLITSは、音楽好きであれば一度は耳にしたことがあるであろう下北沢のクラブ。ZOOからSLITSに改名して営業を続け、日本を代表するアーティストを数多く輩出した。現在は“一時クローズ中”である名店が果たした文化的役割を、スガナミは引き受ける気持ちでいる。

「とは言え自分たちだけで肩肘張っていても仕方がない。だから例えば、下北沢の自分たちの好きな服屋、飲み屋、路地、グラフィティみたいなものを紹介してそれらを巻き込みつつ、地図としてつなげていくようなプロジェクトをしようと考えています。僕らなりの“カッコいい下北沢”の紹介ですね。そのプロジェクトは『下北沢サイトシーイング (SHIMOKITAZAWA SIGHTSCENEING)』って名前にするつもり。“Sightseeing”はもちろん観光という意味ですけど、“seeing”を“Scene+ing”という造語にして、“シーンを作っている途中”って意味を持たせたい。そしてそれを定期イベントと連動させて、この街の人が行き交う循環を作れればいいなと思っています。インディペンデントレーベルのLess than TVが“日本中を地下通路でつなぐ”ってことを指標にしているんですけど、その下北沢版をやれたらなって」

次回からはゲストとの対談などを交えながら、スガナミが下北沢の地下から発信する挑戦の数々を具体的に伝えていく。

<つづく>

取材・文・構成 / 加藤一陽(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 小原啓樹

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