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2018年ドラマ評論家座談会【前編】 『獣になれない私たち』野木亜紀子ら女性脚本家飛躍の1年

リアルサウンド

18/12/31(月) 10:00

 2018年も、各局から多種多様なTVドラマが放送された。リアルサウンド映画部では、1年を振り返るために、レギュラー執筆陣より、ドラマ評論家の成馬零一氏、ライターの西森路代氏、横川良明氏を迎えて、座談会を開催。前編では、脚本家・野木亜紀子が発表したオリジナル作品3本や、視聴率は振るわずとも熱い支持を得た『中学聖日記』などの作品を参照しながら、2018年的なドラマの作り方について話し合った。

 なお、後日公開予定の後編では、今年大ブレイクを果たした田中圭の魅力や今後期待の俳優・女優たち、そしてNHK朝ドラについて語っている。

■2018年は“野木亜紀子の年”

ーーまずはみなさん、今年のドラマベスト1を教えてもらえますか。

成馬零一(以下、成馬):今年はWEBで配信されたドラマが面白かったです。YouTubeで配信された『放課後ソーダ日和』が1位で、Netflixの『宇宙を駆けるよだか』が2位。以降は地上波で、3位が『獣になれない私たち』(以下、『けもなれ』)、4位が『透明なゆりかご』、5位『おっさんずラブ』です。地上波だけで言うなら、今年は野木さんの年でしたね。『アンナチュラル』『フェイクニュース』『けもなれ』どれも素晴らしかった。

横川良明(以下、横川):自分自身が熱狂したという意味では、やはり『おっさんずラブ』です。7話という短い時間の中で、あれだけの人を動かしたエネルギーというのはすごいですよね。一方で、作品としての完成度やシナリオの高さでいえば『アンナチュラル』が優れていたんじゃないかなと。1話も破綻することなく、最後まで一本のストーリーの軸があって、キャラクターも鮮やかでした。

西森路代(以下、西森):私も野木さん作品は外せません。3作品とも好きですが、人間関係の細やかさや、シスターフッドとしての見応えという点では、やっぱり『けもなれ』ですね。恋愛モノなのかなと思わせつつ、中盤、どの女性たちもいがみ合わないーー京谷(田中圭)をめぐる元カノと彼女とか、お母さんと彼女とか、恒星(松田龍平)の方の元カノとの関係、普通だったら仲良くならない人たちが関係を築いていく展開がよかったです。朱里(黒木華)が出てきた時に、「晶(新垣結衣)と同じ立場だな」と思ったんですよね。派遣をやってたり、同じ人に惹かれたりして、この人たちはいつかきっと交わることになるし、同じ人の裏と表だと。一番今の気分にぴったりくる作品でした。

ーーみなさん、今年は野木さんの年だったということですね。

成馬:個人的な印象で言うと『アンナチュラル』と、『フェイクニュース』『けもなれ』は少し違うんですよ。『逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)』までの社会派エンターテインメント作品をきっちりと作る職業脚本家としての野木亜紀子のバランス感覚でいうと、『アンナチュラル』は完成度の高い仕上がりだったけど、『フェイクニュース』と『けもなれ』はそのバランスが少し崩れていて、それと引き換えに野木さんの作家性が強く出ている。だからこそ敷居が高く、視聴者との齟齬も生まれてしまった。教科書的な意味で、『逃げ恥』と『アンナチュラル』は素晴らしい。『逃げ恥』は、恋愛ドラマを更新したし、『アンナチュラル』は職業ドラマの枠を広げたと思います。一方で『フェイクニュース』と『けもなれ』には、野木さんの作家性みたいなものが色濃く見えて面白かったので、個人的には、この2作を評価したいです。

横川:なるほど。確かに僕は野木さんの作家性が強く出ているがゆえに、『フェイクニュース』と『けもなれ』には正直あまり熱狂できなかった感覚があります。

西森:確かに、野木さんの考えていることがオリジナルになったことで、より明確に出るようになったと思います。私は、テーマ設定がある作品が好きな方なので、今年の野木さんの作品も、後になればなるほど、つまり『けもなれ』が一番好きだったりはします。

成馬:『けもなれ』は、野木さんがヤングシナリオ大賞でデビューした『さよならロビンソンクルーソー』のセルフリメイク的な作品だと思うんですよね。この作品は、田中圭と菊地凛子がW主演で、物語も少し似ています。だから一種の原点回帰なのではないかと。

西森:『けもなれ』は“ラブかもしれないストーリー”でありつつも、野木さんは働いてるリアルを入れたいという思いもあったのではないでしょうか。私も15年くらい前なんですけど、派遣で働いた時期がありますが、辞めたあとに「女性が職場でがいがみ合うことがあるとしたら、それは女性たちの資質の問題ではなくて、制度の問題なんだ」と言われたことがあって、初めてそれに気づきました。女性でも、正社員、契約、派遣とあって、それぞれに給与体系や待遇の差があるし、その中で、派遣だけ朝のコーヒーを入れる当番、しかもそれは業務外で、やらされてるのではなくて、派遣たちの意志でやってますよ、みたいな慣習かもあって。そういうものから生まれる歪みが、女子同士の関係性に影響を及ぼす。野木さんも、世代的にそういう光景を見てると思うので、そこがとてもリアルでした。

■30代の女性の描き方にも変化が訪れている

成馬:晶の年齢が絶妙ですよね。30歳で営業アシスタント、部下の中では地位が高いからこそ、後輩の面倒を見なきゃいけない。一方で社長はワンマン社長で、両者の間で思い悩んでいる。『けもなれ』は新垣結衣に対する批評にもなっていて、『逃げ恥』で過剰に神格化された新垣結衣を、どう軟着陸させるか、という意図を感じました。部下の上野(犬飼貴丈)が晶の写メを撮って毎日見てたじゃないですか。で、社長の机の上には原節子の写真が飾ってあるから、2人(原節子と新垣結衣)を重ねているのかなぁと思いましたね。2人とも晶をアイドル化しているというか。もうひとつは身長の問題ですね。第1話でヒールの高いブーツを履かせることで、背が高い新垣結衣を魅力的に見せようとしていたのがうれしかったです。

西森:京谷が晶に面と向かって、「今の晶は可愛くない」と言うじゃないですか。それに対して、のちに「可愛くなくて何が悪い」と言い返す。今まで背負ってきたものに対して、ガッキーがそう言うことに意味があったんだなと。

成馬:野木さんは女優さんの魅力を引き出しますよね。女優さんが今、一番出演したい脚本を書く方だと思います。過剰に背負い過ぎた女優のパブリックイメージを、ちょっとだけずらして、でも全否定はせずに印象を柔らかくしてくれる。『アンナチュラル』の石原さとみさんと『フェイクニュース』の北川景子さんにも、同じ効果が起きているんですよ。

西森:野木さん自身も、今まで女性のキャラクターが過剰にキャピキャピしてテンションの高いものとして描かれてきたのを終わりにしたいとおっしゃっていて。野木作品の影響で、今後女性のパーソナリティの描き方も変わっていくといいなと思います。

成馬:30代の働く女性のイメージを更新してくれていると感じます。女優でいえば、30歳は戸田恵梨香、新垣結衣、徳永えり、33歳は満島ひかり、綾瀬はるか、蒼井優、宮﨑あおいと、この世代は混戦状態なんですよ。2000年代の映画や学園ドラマで鍛えられた人たちが、スター女優に成長し、30代になった時に、無理のない形で大人の女性を演じている。いい状況ですよね。

横川:なるほど。今お2人の話を聞いて、僕個人としては、あまりドラマに働き方像みたいなものを求めてないのかもしれないと思いました。僕も20代のうちに正社員、アルバイト、派遣社員、契約社員、フリーランスと雇用形態全部経験して。会社というより、コミュニティという言葉の方がしっくりくるし、“個の時代”という感覚で、会社に執着がないし、ドラマにも求めてないんですよね。だからこそ、『義母と娘のブルース』(以下、『ぎぼむす』)的なヒューマンドラマが好きだったし、実際視聴率もよく、広く受け入れられるドラマだったのかなと。やっぱり視聴者としては、『けもなれ』を面白いと思えない層が一定数いて、『ぎぼむす』は民放の連ドラで19.2%という記録を残した。みんなが観たいのはこれなんだなということを証明する1年だったのかなと思いました。古典的な作りだし、女性像としても新しいわけではないのですが。

西森:『ぎぼむす』は、綾瀬はるかがロボットヒロインを演じるという衝撃から始まり、最後、物語の出口が違うということでは新しいと思ってもいいのかなとも思いました。それと、保守的な部分も、そうでない部分も共存してるんです。伝統的家族ではなく、偽装結婚から始まる疑似家族が本物の家族になるというところも、保守的な人にも、保守的じゃない私みたいな視聴者にも響いたので、わりといろんな人に届いたのかなとも思います。

成馬:『ぎぼむす』の脚本を担当した森下佳子さんは、『女王の教室』や『家政婦のミタ』を手がけた遊川和彦さんの弟子筋の方なんですよね。日テレは、『ハケンの品格』や『家売るオンナ』など、ロボットみたいな仕事のできる女性を主人公にするドラマを歴代作ってきて、そのパターンを作ったのが遊川さんだった。それを森下さんがTBSがやると、『ぎぼむす』になるんだなぁと思いました。ああいうロボットみたいな強いヒロインを通してしか働く女性を描けなかったのが、もっと等身大の軟らかい印象に変わってきたのは時代の変化を感じます。

■日テレは、作家性の強い演出家が活躍する場所に?

成馬:『けもなれ』のチーフ演出は水田伸生さん。坂元裕二の『Mother』や『Woman』『anone』、宮藤官九郎の『ゆとりですがなにか』など手がけた方です。すごく作家性の強い濃厚な演出をされる方なんですが、その分だけ負荷が強いんですよね。それが視聴者の拒絶感を生んでしまったのではないかと思います。野木さんの脚本と水田さんの演出の相性が良すぎたのが、予想外だったのかも。

横川:なるほど、逆にハマりすぎたと。

成馬:どっちも社会派娯楽作家だからこそ、味が濃くなりすぎたというか。じっくりドラマを見たい人には見応えはあったんですけどね。今の民放地上波のドラマの演出はどんどん単純でわかりやすい方へ向かっているのですが、その中で日テレのドラマは作家性の強い演出が唯一残ってる。『anone』と『けもなれ』を担当した水田さんの演出は尖ってたし、福田雄一さんが脚本・演出を担当した『今日から俺は!!』も面白かった。視聴率では苦戦してますが、今年よかった作品を並べると日テレのものが多いんですよね。

西森:だけど、日テレはバラエティの強い局だからこそ、企画でしっかり、万人に受けると思われるフックがないといけないのかもしれません。最初の企画書で「おおー!」って言わせないといけないのかなと。だから、そこで作家性の強い人でも、とりあえず、最初に誰でもわかるフックを作っておかないと……ということはあるのかなと思います。それは別に間違ってることではないんですが、バランスはあるんじゃないでしょうか。

成馬:多分、演出意図は企画書に書きにくいので、今まではスルーされていたんでしょうね。ちなみに『anone』は坂元裕二の自己言及的な作品で、阿部サダヲが演じる男が、最初に「自分、名言怖いんで」って言うんですよね。坂元裕二と言えば「名言、名台詞の人」じゃないですか。Twitterですぐに名言集がまとめられ、みんなが深読みしてワイワイ楽しむ。その構造が『カルテット』の時は爆発したんだけど、名言だけが切り取られて消費される状況に対して、坂元さんの中で思うところがあったんじゃないかと思いますね。だから『anone』は『カルテット』的な消費を否定しようと抵抗したのかもしれない。『anone』はドラマの見られ方自体について考えさせられましたね。

■『中学聖日記』は、“2人の恋を応援したい”という楽しみ方に

ーー野木さんの他にも、今年は女性の脚本家が活躍した年だったと思います。

西森:私は『女子的生活』の坂口理子さんに注目しています。映画でも『かぐや姫の物語』や『恋は雨上がりのように』を手がけている方です。個人的に、野木さんと坂口さんは今すごく信頼しています。2人とも同世代なんですよね。

横川:脚本家ではないですが、クリエイターでいうと、『アンナチュラル』や『中学聖日記』の演出の塚原あゆ子さんは今年すごく良かったと思います。

成馬:『中学聖日記』は演出がよかったですよね。風景の切り取り方に叙情性があって、島に行くシーンは最高でしたね。岩井俊二的なものを感じます。

西森:抒情性、わかります。中盤で自転車を乗って追いかける時の、黒岩くん(岡田健史)の表情だけで泣けました。

横川:僕は10月クールはだんとつで『中学聖日記』に夢中になりましたね。『おっさんずラブ』が顕著ですが、今年は制作側が視聴者側の熱を押し上げてることで相乗効果が生まれた年でもあったのかなと。市井の人たちが、今これが面白いんだ、っていうのがSNSを通して盛り上がっていく。脚本や演出の出来だけでなく、この1時間のパッケージの中で、私たちを夢中にさせてくれたものとして、僕は評価したいですね。聖と晶の2人の恋が主軸にあって、離れ離れになるシーンは視聴者がもだえて、一緒になる時に爆発する。ラブストーリーにおいて、この2人の恋を応援したいというのは何より大事な要素だし、そこを非常に高い純度でやり切れていたと思います。

成馬:『中学聖日記』は、ネットのニュースを見ていると「淫行けしからん」みたいな批判が多かった印象ですけど、実際はどういう反応だったのでしょうか? あの恋愛をみんな良しとして見ていたのか否定的だったのかが、よくわからないんですよね。90年代の“教師と生徒の禁断の恋”といえば、『高校教師』と『魔女の条件』がありますが、この2作は社会に居場所のない男女が社会に背を向けて逃亡する行為として禁断の愛というものがあったと思います。対して『中学聖日記』はもっと地に足がついていて、社会の側から物語を見ていたと思うんですよね。『青い鳥』も含めて、本作は今や古典とも言える90年代のTBSドラマを参考にしてると思うんですけど、もしも途中であの二人が肉体関係を持っていたら、視聴者はどう感じたのか? そのあたりを気にしながら観てましたね。

横川:たぶん別に求めてはないと思っていて。そういうところは、自分たちの想像で勝手に補完するからっていうのが今の視聴者感覚かなと。むしろ、90年代と違って面白いと思ったのは、晶の母・愛子(夏川結衣)のキャラクターです。『黄昏流星群』で麻生祐未が、自分と同い年ぐらいの息子の恋人に塩を撒いたり、『あなたのことはそれほど』の東出昌大がワインぶち撒いたり。そういう「釣り」を設けることで、いくらでも視聴率を上げやすいことができるんですが、夏川結衣は一貫して、ある一定の倫理観を保って、そこから出てこない。僕はそこに、2018年的な志を感じて素敵だなと思いました。実際、人ってそんなに狂えないし、下品になれない。逆に言うと、聖と晶以外の部分では、あまりドラマが広がらないから、2人がくっついたり離れたりしていたというのもあると思いますが。ひとつ思うのは、あまり最初に「禁断」って押し出さないほうがよかったと思うんですよね。その言葉のチープさと、実際の映像の美しさや物語の精度において、入り口と中身が食い違っていたのはもったいなかったな、と。

ーー成馬さんが注目する脚本家はいますか?

成馬:『透明なゆりかご』の安達奈緒子さんですね。NHKじゃないと絶対に作れなかった凄いドラマだと思います。間口はそんなに広くないですが、響いてる人にはとても響いていた。安達さんは『大切なことはすべて君が教えてくれた』や『リッチマン、プアウーマン』といった月9のドラマを書いていたのですが、当時から高い作家性を見せていたのですが、なかなか作家としては認識されてなかったんですよね。『透明なゆりかど』で、やっと作家としてのすごさが世間に認知されたのではないかと思います。(取材・文=若田悠希)

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