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視聴者の共感に疑問符 新垣結衣主演『獣になれない私たち』は“社会派ドラマ”ではない

リアルサウンド

18/10/24(水) 6:00

 新垣結衣主演×野木亜紀子脚本の『逃げ恥』タッグということから、ドラマ好きの間では今秋ドラマ期待作の筆頭として挙げられてきた『獣になれない私たち』(日本テレビ系)。第1話では、ガッキーこと新垣結衣演じるヒロイン・晶が、職場や取引先から受けるパワハラ、セクハラてんこもりのブラックな働き方と、引きこもりの元カノ・朱里(黒木華)を同居させたまま煮え切らない状態の恋人・京谷(田中圭)との関係性などについて、「可哀想」「辛すぎる」という声が続出した。

【写真】「辞めれば良いのに」と言う新垣結衣と黒木華

 とともに、自身の現状や過去と重ね合わせて共感する声が多数挙がっていた。しかし、これには、正直驚いた。「営業アシスタント」なのに、営業の仕事を押し付けられ、新人の尻拭いをさせられ、社長に無理難題を1人押し付けられ、それでも仕事の能力が評価されるのでなく「社長は面食いだから」で片付けられるなんてことが、共感できることなのだろうか。また、取引先に土下座を要求され、その上、頭を撫でられるなんて屈辱的なことが「共感」できることなのか。

 しかも、晶が目を奪われたカッコいいファッションの女性(菊地凛子)に対し、「ああいうのってさ、どこにアピールしてるんだろうな」「あれ好きな男、そうそういなくない?」という京谷にも、普通はカチンときそうなところ、「着たい服を着てるだけじゃないの?」と言いつつ、「京谷のお母さんと会う日、ああいう格好で行こうかな」と茶目っ気たっぷりに返すオトナ度の高さには、感心する一方で、「こういう男にはそんな優しい言い方じゃ、何も通じないのにな」とイライラしてしまう。

 挙げ句、晶は第1話ラストにおいて、サングラスをかけ、「強そうな」新しい服とブーツを身に着けて出社し、「業務内容の改善要求」をする。これに対し、視聴者からは「新しい服とブーツを買いましたのところが良い」「かっこよすぎていとしすぎて」「カタルシスをありがとう」「私もやりたい」などの声が続出していた。

 こうした反応にも正直、驚いた。正当な要求なのだから、別に新しい服や靴なんて要らないのではないかと思ったし、まるで失恋して髪を切るような古典的な手法に思えたからだ。

 晶の場合、子どもの頃に父親に虐待され、マルチ商法にハマった母親と絶縁状態という家庭環境があるために、人の顔色を伺い、全方位に気を遣ってしまい、本音を言えないという事情がある。でも、「共感した」みんなはそんなにも過酷な状況に生きているのか。平成も終わろうというのに。というか、もしかしたら現代は働く女性にとってますます生きづらく、息苦しい時代になっているのか。

 あるいは「辞めれば良いのに」「嫌って言えば良いのに」「ちゃんと主張すべきところなのに」などと思ってしまうのは、単に「空気の読めない人間」「痛みのわからない人間」で、パワハラ社長やこずるい&ダメな営業、セクハラ取引先と同じ側なのだろうか。第1話を観て、視聴者の反応を見て、なぜか猛省を促されるような気がしていた。

 だが、第2話を観て、ハッとした。晶と京谷が交際を始める以前、晶の派遣先に京谷が勤めていて、二人は互いの身の周りの人達に対する愚痴をこぼし合う。人間関係がうまくいかず、苦しむ彼女・朱里のことを京谷が話すと、「辞めれば良いのに」と、悪気なく、さらりと晶が言う。この頃、晶はずっと自由で軽やかに見えた。

 そして、皮肉にも、京谷のスマホのLINEのやりとりから、現彼女・晶の仕事が大変そうだと知った朱里は「辞めれば良いのに」と言うのだ。

 私事で恐縮だが、「辞めれば良いのに」「嫌って言えば良いのに」と思いながらドラマを観ていた自分自身ですら、会社員時代には本来の業務と無関係な雑務の強要の連続に疲弊しきっていたことはあった。きっと当時、周りの人は「辞めれば良いのに」と思っていただろう。

 辞める・辞めないが問題なのではない。「獣になれない」晶もずっと「可哀相な人」ではないし、ずっと「被害者」なわけでもない。おそらく仕事や恋愛、様々な事情が重なり、時間というものが自分や周囲を変化させ、今現在、「獣になれない」状態にいたってしまっているのだろう。

 新しい服とブーツで業務内容の改善要求をする晶に対し、「服から入る意味がわからない」とド正論を吐く恒星(松田龍平)もまた、突然結婚してしまった元・恋人(菊地凛子)が言う「恋に落ちた瞬間、鐘の音が聴こえる」の意味がわからず、「獣になれない(本能で生きられない、バカになれない)」ことに心が揺れている。

 第1話で引っかかっていた違和感や疑問が、第2話において、別の時間軸、別の人の口からサラリと投げかけられる。過去の晶自身からも、だ。

 だからこそ思う。「獣になれない人」は、最初から獣になれなかったわけじゃなく、何らかの複合的な事情により、獣になれなくなっていったのだろう。第2話まで観て初めてこれが「パワハラ」「セクハラ」「引きこもり」などの問題に主眼を置いた社会派ドラマなんかじゃなく、それがあくまで「人と人の間で起こる感情」を描くための設定だったのだと感じた。

(田幸和歌子)

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