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『さすらい温泉』は遠藤憲一の“究極の役者魂”を堪能できる!? テレ東モキュメンタリーの到達点に

リアルサウンド

19/3/27(水) 6:00

 テレビ東京で放送中のドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』。本局では、これまでも現実とフィクションをミックスしたモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)ドラマをいくつも生み出しており、『さすらい温泉』も、そのひとつとして位置付けることができるだろう。本稿ではモキュメンタリードラマの歩みをふり返りながら、俳優・遠藤憲一にとって原点回帰の意味合いを持つ『さすらい温泉』について考えてみたい。

参考:遠藤憲一、大杉漣、松重豊らが面白い 映画好きにはたまらない『バイプレイヤーズ 』の魅力

 まず、数ある名作の中で白眉と言えるのが松江哲明による一連の作品である。

 2015年放送の『山田孝之の東京都北区赤羽』では映画監督の山下敦弘とともに俳優・山田孝之の「崩壊と再生」をドキュメント。赤羽に住む市井の人々をキャスティングした同作は、ドラマの演出と日常生活の境界を融解させ、テレビやスマホの画面を見慣れた視聴者に強烈なリアリティを突きつけた。

 続く『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(2016年)で若手女優の松岡茉優と各界を代表する「おこだわり人」とのディープな邂逅を果たしたのち、ふたたび山下と組んだ『山田孝之のカンヌ映画祭』(2017年)でその手法は極点に達する。山田孝之がカンヌ映画祭のパルム・ドールを目指す過程を活写した同作は、映画製作のドキュメンタリーを装いつつ、カンヌという映像表現の最高地点に到達しようとする壮大な実験をエンターテインメントとして成立させたもので、『北区赤羽』にはじまるモキュメンタリー連作を総括するものとなった。

 また、『カンヌ』と同時期に深夜枠の「ドラマ24」で放送されたのが『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』(2017年)である。

 映画やドラマに欠かせない“名脇役”をシェアハウスに集め、そこで起きる出来事を撮影するリアリティ番組を模した設定。実際の『バイプレイヤーズ』は脚本に沿って“本人役”を演じるドキュメンタリータッチのドラマと言うべきものだったが、各回の本編終了後に放送されるオフショットの「バイプレトーク」では、台本のない場所でも変わらない俳優たちの素顔が映し出され、フィクションと現実の境界が見事に消失していた。

 深夜から時間帯を繰り上げた続編の『バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~』(2018年)では、撮影終盤に主演の大杉漣が急逝する中、脚本を一部変更して放送。生前の大杉のオフショットやスマホ動画を組み合わせて完成した最終回は、モキュメンタリーの設定と現実のドキュメントが融合する感動的な放送となった。

 そして、『バイプレイヤーズ』2作品に出演したのが、『さすらい温泉』で主演を務める遠藤憲一だ。22歳でドラマデビューすると、コワモテを生かして多くの作品に出演。連ドラ初主演は同じく「ドラマ24」の『湯けむりスナイパー』(2009年)で、元スナイパーで温泉の従業員「源(げん)さん」という複雑な役どころを好演すると、その後は時代劇から朝ドラまで多彩な役柄を演じ分ける、映画・ドラマになくてはならない存在となった。

 『さすらい温泉』は、そんな遠藤が俳優を引退して温泉の仲居になるという衝撃的なナレーションからはじまる。スタッフの質問にだんまりを決め込む遠藤。スタッフは親しい友人に話を聞くが要領を得ず、真相をたずねてたどり着いたのは温泉郷だった。

 モキュメンタリーの手法を踏襲した『さすらい温泉』は2つのフィクションと1つの真実によって構成されている。

 フィクションの1つめは、遠藤憲一が俳優をやめて温泉の仲居になるという設定で、『山田孝之の東京都北区赤羽』にも通じる。2つめは温泉である。日常から離れた温泉は虚構の舞台に最適化されており、『バイプレイヤーズ』のシェアハウスに相当するのが温泉宿である。

 ここまでなら架空のストーリーを演出するという一般的なモキュメンタリードラマの延長線上にすぎない。しかし『さすらい温泉』がユニークなのはこれ以降の展開にある。

 遠藤憲一演じる「健(けん)さん」は依頼を受けて各地の名湯に赴く派遣の仲居。一話完結の『さすらい温泉』では、各話にワケありのヒロインが登場する。彼女たちの悩みを聞き、ひと肌脱ぐことを決意した健さんは、愛用のトランクに収められた道具を使って数々の芸当を披露する。

 豪華客船の船長やドルオタに扮するにはじめ、時に反抗期の子どもを抱きしめ、漫才を披露し、板前として料理対決に臨む。一期一会の出会いでたった1人のために“演じる”姿は、俳優としての原点を思い起こさせる。温泉の仲居になっても役者としての魂は失われないのだ。『さすらい温泉』における1つの真実とは、現実もフィクションも超越した「演じる人」としての遠藤憲一自身なのである。

 第五話で、佐々木すみ江演じる89歳の老婦人の頼みを聞いて、健さんが戦死した婚約者に代わって思い出の湯に入浴する場面がある。温泉につかって在りし日を偲びながら、老婦人は17歳の娘に姿を変える。もちろん現実に起こり得ないことはわかっていても、その虚構の中に真実があることを2人は知っているのだ。

 このように『さすらい温泉』はテレビ東京が培ってきたモキュメンタリードラマの到達点であり、『湯けむりスナイパー』で10年前に連ドラ初主演を果たした俳優・遠藤憲一にとって原点回帰の意味合いを持つ作品なのである。

 「極上のおもてなしを提供いたします」という健さんの言葉は、現実からフィクションへのスイッチの役割を果たすと同時に、1人のために演じるという究極の役者魂を示しているのではないだろうか。(文=石河コウヘイ)

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