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菅田将暉“1人”の戦いから“全員”の戦いへ 『3年A組』が2019年に製作された意義

リアルサウンド

19/2/9(土) 6:00

 毎度息を呑まずにはいられない展開のドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)。今週より、その第2幕が始まる。余命僅かの熱血教師を演じる菅田将暉と、永野芽郁をはじめとする期待の若手俳優たちの熱演と、武藤将吾によるオリジナル脚本、小室直子らによる演出の妙によって、青春ドラマの新たな名作が作られようとしている。

参考:『3年A組』前半戦フィナーレで菅田将暉の目的が明らかに 新たな黒幕の存在も

 とはいえ、“新しい”と言ったって、言っていることは昨今のドラマでは珍しいほどド直球。周到な計画を立て、生徒を全員人質にとり学校に立てこもるという至極入り組んだことをしながらも、「結局はぶつかりあうしかないんだろうね、体と体を使って言葉を交わす」という文香(土村芳)の言葉のように、真っ直ぐすぎる言葉を正面からぶつけるのが、菅田演じる教師・柊一颯の面白さだ。まるで、4話までのドラマの冒頭に絶えず登場し、手が飛んだり、決め台詞をしゃべったりと、その回終盤への伏線になっていた特撮番組のヒーローさながら、「残された時間」を腕時計に仕込んだ爆弾の起爆スイッチとして抱え持ち、“悪意にまみれたナイフ”に打ち勝つために、正義の味方は戦うのである。

 一方、体育館でただ様子を窺っていることしかできない、魁皇高校の教師たち。生徒たちを心配しながらも酔っ払い、心配する保護者たちをフォローしているつもりがケンカになってしまう。珍しく「私たち教師にできることってなんだろう」と考え出しても、いつもテレビに出演している“平成最後のカリスマ熱血教師”武智(田辺誠一)がすかさず「肉体美」「プロテイン」と入り込み、茶々を入れる。ここまで何もできない、とことん無力化される教師たちも珍しい。また、熱血教師・柊、元熱血教師の刑事・郡司(椎名桔平)、マスコミによって盛大にデフォルメされたエセ熱血教師・武智と、“熱血教師”だけで3人いる状況も不思議だ。

 それは、誰もが熱血教師になりたくてもなれない現代の教育現場を示しているとも言える。刑事・郡司は、時に体罰も厭わない教師だったが生徒たちに慕われていたと3話で明かされる。それでも彼が教師を辞めることになったのは、集団暴行に遭った生徒の気持ちを汲んで犯罪を憎んだことだけでなく、その前に本人が部下に冗談交じりに語った「ちょっと叩けば体罰教師」のご時勢において熱血教師を続けることへの挫折も大きかったに違いない。

 それこそ同枠前クールの『今日から俺は!!』(日本テレビ系)も、『3年B組金八先生』(TBS系)や『スクール・ウォーズ』(TBS系)のパロディが挿入されていた。現代の学園ドラマにおいて伝説のドラマの熱血教師たちのように生徒と本気で向き合うためには、もはや生徒たちを、SNSを含めたあらゆる外界から無理矢理にでも隔離し、権力に歯向かい、自らの命と引き換えにする覚悟で戦うことしか残されていないのだ。

 このドラマは映像の中の映像、一方的に「見られている」描写が非常に多い。やたら示されるテレビ番組の映像、テレビ番組をザッピングするかのように繋げられる、中止を余儀なくされたドキュメンタリー映画の素材映像、フェイク動画、文香の証言の記録映像、防犯カメラ。常に誰かに「見られ」続けている窮屈で、偽りだらけの世界もまた、現代を組み込んでいると言える。

 その中心にいるのは、ドラマにおける象徴的存在である、謎の死を遂げたクラスメイト・景山澪奈(上白石萌歌)である。茅野(永野芽郁)と逢沢(萩原利久)はそれぞれのカメラのフレームを通して、クラスメイトたちは嫉妬と羨望混じりの目で、澪奈を見ていた。そして、彼女を失ったクラスメイトたちは、今度は互いを監視し合うようになる。そんな生徒たちを監視している、柊が取り付けた防犯カメラと柊自身の目。さらに外側にいて、中の様子を窺っているマスコミや警察、教師たちの目と、そのさらに外側で彼らの生死をエンターテイメントショーのように楽しんでいるSNSのユーザーたちの目。こういった何層もの「見られる」ことによってこのドラマはできている。

 目に宿った嫉妬ややっかみは時に物事を歪曲させ、憎しみを増幅させ、彼らの想像力を奪う。ありのままの真実であるはずの映像は時に嘘をつき、誰かに都合のいい“真実”に簡単にすり替わる。そういったものから生まれた複数の小さな悪意は増殖し、悪い大人の力を意図せず借りて、1人の少女の命を奪うきっかけを作ってしまった。閉ざされた教室の少年・少女たちの事件は、徐々に外へと繋がり、底知れぬ大人の世界、ネットの海へと延びていく。

 柊は、教室に強固かつ外側から見えない特殊な窓を装着することによって、彼らを閉じ込める檻を作った。だがそれは檻に見せかけた、彼らをそんな世界、人々の目からつかの間守り、匿うための場所だったのではないか。終業式までの10日間は、社会という海に投げ出される直前の彼らに柊が命に変えても与えたかった、つかの間の、命がけの準備期間だった。

 柊が用意した生徒たちを守る場所は、自分たちを脅かすまだ見ぬ敵と対峙し、自分たちの手で真実を知るために動き出そうとする生徒たちのバリケードになっていくのかもしれない。

 「俺」1人の戦いは、遂に、俺たち・私たちの戦いへと変わろうとしている。(藤原奈緒)

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