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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

長谷川博己を立ち直らせた安藤サクラの言葉 『まんぷく』が描いた“きれいごと”から学ぶべきもの

リアルサウンド

19/3/3(日) 6:00

「1人勝ちだ!」

『まんぷく』(NHK総合)第124話でのこと。坂部(今野浩喜)からの証言を得ることができた萬平(長谷川博己)は、そんな言葉を叫んだのだった。これでとうとう、「本家 まんぷくラーメン」を製造した猿渡(田中哲司)の会社は観念することになるからだ。ただ、萬平が快哉を叫ぶ姿を見る福子(安藤サクラ)の表情はどこか複雑だった。第123話で、特許が認められた時には「ざまあみろ!」とまで言っていただけに、福子の不安は一層募るばかり。萬平は何か大切なものを忘れかけている……。そんな思いが福子の顔から見て取れたのだ。

 今週の『まんぷく』は、そんな“忘れかけた大切なもの”を呼び戻す物語だったように思える。ある日福子は、安さが理由で「まんぷくラーメン」を選ばない客がいる事実を知る。福子も安い即席ラーメンを買って食べてみるが、使われている油はひどいものだった。「まんぷくラーメン」が1人勝ちしたところで、粗悪品が出回っているという状況には変わりがないのだ。

 世の中の役に立つ。それは本作開始以来の萬平のモットーだった。「ダネイホン」のときには栄養失調で苦しむ多くの人々救ってきたにもかかわらず、今の萬平は何かを見失っている。もちろん、萬平としてはまさしく“血と汗と涙の結晶”である「まんぷくラーメン」をいとも簡単に真似されたことへの憤りもあるのだろう。とはいえ、「ざまあみろ!」や「1人勝ちだ!」といった台詞は、あまりにも萬平らしさを欠いた言葉であった。

「『1人勝ち!』って喜んでいる萬平さん、私は嫌いです」

 福子は萬平にきっぱりとこう言った。そして、この言葉はきっと萬平に深く刺さったはずだ。萬平はかつて進駐軍の兵士に対して、子どものころに見た傘屋のようになりたいと言っていた。雨が降れば傘が売れて嬉しい。晴れれば青空が見えて嬉しい。そんな傘屋の理念こそが萬平イズムの原点にあるように思える。自分の商品が売れることだけが、萬平にとっての喜びではなかったはずだ。

 そしてもう1つ、今週の『まんぷく』での印象的なシーンが、福子と世良(桐谷健太)が話す喫茶点での場面である。ライセンス契約が広まらない中で、どうにか世良に力を貸してほしいと懇願する福子。

「きれいごとは通りませんか?」

 確かに、特許を公開して業界全体、社会全体のことを考えることはきれいごとなのかもしれない。それでも、福子はたとえきれいごとであっても貫き通さなければならないことがあると考えた。その理由は、福子の言葉を借りれば「それができなくなったら、萬平さんはもう何も作れなくなる」からだ。萬平の発明の原動力はいつだって、世のため、人のためだった。その思いがあったからこそ、「ダネイホン」も「まんぷくラーメン」も世の中に送り出されてきた。きれいごとという言葉には確かに辛辣な響きがある。偽善のニュアンスがどうしてもまとわりつく。だが、福子はその“きれいごと”に賭けた。

「萬平さんにはきれいごとを、正しいと思うことを貫いてほしいんです」

 『まんぷく』の放送も残りあとひと月。これまでの歩みの中にも、ひょっとしたらきれいごとはあったのかもしれない。それでも福子たちは、その道を貫き通してきた。萬平だけではなく、現代の私たちも忘れかけていたものを今後も本作から見つけていきたい。(國重駿平)

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