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いま、最高の一本に出会える

左から石倉三郎、柄本明

柄本明&石倉三郎が語る『誰もいない国』のわからない面白さ

ぴあ

18/10/31(水) 12:00

「みんな“わからない、わからない”って言うけどさ、わからないっていけないことなの?」――。奇をてらって言っているわけではない。柄本明は心底、不思議そうにそう語る。柄本の真意を汲みつつ、石倉三郎も「わからないからさ、面白いんだよ」と続ける。

20世紀を代表する劇作家ハロルド・ピンターの戯曲『誰もいない国』が寺十吾の演出で新国立劇場にて上演される。ある屋敷の一室で男たちが酒を飲みつつ、現実と想像の境さえも曖昧な会話を繰り広げていくさまを描く本作。会話の中心を担う屋敷の主人・ハーストを柄本が、詩人のスプーナーを石倉が演じるが、同戯曲を読んだ多くの者が「わからない」「難解だ」という感想を漏らし、当の柄本、石倉さえも「さっぱりわからない」と口を揃える。

柄本も石倉も、“わからない”ものを安易に解釈し、理解しようとは思っていない。柄本は「タッチとして、こういうしちめんどくさい作品は嫌いじゃないんです」と語る。「だってみんな、自分のことわかってます? 自分がどうしてこういう顔で生まれてきたのかとか、わかんないでしょ? そういうことが滔々(とうとう)と描かれているだけであって、むしろわかりやすいもんですよ。どんな本であれ、よその人が書いたものであり、僕の仕事は、書かれたことを言うだけ。セリフを通じて、その人物、その作品を探す旅に出るわけで、僕の身体、つまり歴史を通ってセリフが出された時、それは何かの世界になっていくわけで、それはつまんなくはないだろうと思います。だからあまり“わかんない”ってのをキーワードにされてもね(苦笑)」。

石倉も“わかりやすさ”を求めがちな風潮への危惧を口にする。「翻訳の喜志哲雄さんもおっしゃってましたけど“動機は何か?”なんてどうだっていいことなんですよ。そんなのを求めるのはTVに汚染されてるだけ。“わかんないものをなんで演るのか?”って言われそうだけど、大きなお世話だ、バカ野郎って(笑)」。

石倉をスプーナー役にと推薦したのは柄本。互いを「さぶにい」「えもっちゃん」と呼び合うふたりだが、舞台共演は今回が初めて。柄本は2011年に新国立劇場で上演された『ゴドーを待ちながら』(演出:森新太郎)での石倉の演技の素晴らしさを見て、今回、石倉とハーストとスプーナーの関係を演じたいと考えたと告白。「要するにね、セリフが“聞こえてくる”んですよ」と説明する。

石倉は「それはすごく感覚的で、うまく説明できないんだけど、よくわかるし、えもっちゃんは、ある意味で僕の一番いいところを見てくれたんだと思う」と嬉しそうに語り、柄本はすかさず「渥美(清)さんが言ってましたよ。“ひとは見ているからね”って。それはむしろ、すごく怖い言葉なんですけどね」とぽつりとつぶやく。

とはいえ、石倉もふたつ返事で今回の話を受けたわけではなく「一度は“勘弁してよ”って断りに行った」という。柄本は「てっきり、OKしてくれていて、本のことで悩んでいるから会ってくれって話だと思ってたら、そもそも“やろうかどうか迷ってる”って言われて…(苦笑)」と困惑を口にするが、ここでも、ふたりの間に長い会話があったわけではない。石倉が続ける。「(柄本の元に行ったら)“困っちゃったな。まあ、でもやってよ”って言うからさ。“うん、じゃわかったよ”って(笑)」。

おそらく、この先も彼らが作品の中身について、深く話し合うことはない。演出の寺十とも、稽古が始まってからここまで、そんなことは話していない。

「そこで滔々と作品について話すようなヤツはバカ野郎ですよ」(柄本)

「恥知らずだね」(石倉)

69歳と71歳の肉体を通して発せられる言葉がどんな意味を持ち、何を作り上げるのか? 楽しみに待ちたい。

『誰もいない国』は新国立劇場にて11月8日より上演。

取材・文:黒豆直樹
撮影:宮川舞子

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