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ZENが語る、パルクールの本質と『HiGH&LOW』出演の真意 「危険なイメージを払拭したい」

リアルサウンド

19/4/10(水) 10:00

 『HiGH&LOW』シリーズに〈RUDE BOYS〉のピー役で出演し、日本でパルクールという競技の認知を広めるのに大きな貢献を果たしたZEN。映画におけるド派手なアクションは目を引くため、パルクール=アクロバットのようなイメージも大きいが、本来はもっと奥深い競技だという。4月19日から21日にかけて行われる都市型スポーツの世界大会『FISE Hiroshima 2019』に出場するZENに、パルクールがどんな競技で、その魅力がどこにあるのか、さらにアスリートでありながら映画出演などに力を入れる理由についてまで、たっぷりと語ってもらった。(編集部)

■パルクールの本質をしっかりと伝えたい

ーーリュック・ベッソン監督の映画『TAXi2』(2000年)や『YAMAKASI』(2001年)で世界中にその名が知られたパルクールは、ZENさんが〈RUDE BOYS〉のピー役で出演した『HiGH&LOW』シリーズなどの影響もあり、近年では日本でも急速に認知度が高まっています。一方、華麗なアクションなどに注目が集まりがちで、その文化や競技としての特徴などはまだ十分には知られていない印象です。改めて、パルクールとはどんな文化/競技なのかを教えてください。

ZEN:パルクールは自分の体ひとつで周囲にある環境ーーたとえば階段や手すりなどを使い、移動を通して身体を鍛えるカルチャーです。もともとは軍隊におけるナチュラルなトレーニングメソッドとして約30年ほど前に始まりました。Parkourとはフランス語の「parcours-道-」という単語の造語であり、「自分の道を作り上げる、自分の道を突き進む」という意味になります。身体と精神を思い通りにコントロールするという目的で各人が鍛えていった結果として、普通の人から見たら超人に見えるようなアクロバティックな動きも可能になり、パフォーマンスや競技としての要素が高まって、世界各地でコンペティションなどが行われるようになりました。パルクールが競技として確立し始めたのは、ここ10年くらいですね。

ーーパルクールは、BMX、スケートボード、ブレイクダンス、ボルダリングなどとともに、いわゆる都市型スポーツの一つとしても認知されています。都市型スポーツの特徴についても教えてください。

ZEN:都市型スポーツに共通する特徴として、もともとスポーツというよりはライフスタイルや遊びの延長、つまりはカルチャーとしての側面が強いということが挙げられると考えています。BMXやスケートボードも、もともとは街中にあるモノを使った遊びで、それがコンペティションなどを通して次第に競技化していきました。そのため、勝敗はもちろん大事なのですが、自分たちがいかに楽しむか、それぞれの選手がどのように課題に取り組んだかが重視されます。そこがポイントですね。

ーーパルクールには、今なお「危険なスポーツである」というマイナスイメージもあると感じています。そうしたイメージに対してはどう考えていますか?

ZEN:パルクールのオリジネイターたちを題材とした映画『YAMAKASI』は、まさしくそうした問題と向き合った作品でもありました。ビルからビルへと飛び移る派手なアクションは目を引くもので、そうしたパルクールのキャッチーな側面がイメージとして先行するのは自然なことです。実際、『YAMAKASI』では一人の少年が彼らの真似をして命の危険に晒される場面が描かれています。しかし、パルクールだけではなく、ブレイクダンスにせよ、ボルダリングにせよ、一般のスポーツにせよ、きちんとした訓練をせずに挑めば危険なのは同じです。パルクールにも当然、理論というものがあり、僕らは毎日そこに向き合っています。身体の使い方を研究して、精神的にもトレー二ングを積み重ねて、はじめて環境を問わない動きが可能になるのです。映画などによってパルクールの存在が知られるようになるのは非常に喜ばしいことですが、見た目の派手さの先にあるパルクールの本質をしっかりと伝えて、「危険なスポーツである」とのイメージを払拭していくのもまた、僕の役割だと考えています。

ーーパルクールは決して「危険なスポーツ」ではない、と。

ZEN:僕たちの感覚からすると、パルクールを学んでいない方が危険です。僕らは、新しい動きやシチュエーションに挑戦する際、まずはどんな危険が伴うのか、どんな失敗が予想されるかを徹底的に考えます。たとえば、助走が足りないとか、飛距離が足りないとか、逆に飛び過ぎてしまうとか、ありとあらゆる危険を考えて、その対処法もすべてクリアーにしてから障害に挑みます。ストリートカルチャーだから度胸やノリでやっているということは一切なくて、少しでも怖いと思ったらやらないし、怖いならなぜ怖いのか、原因をとことんまで追求します。常に万が一に起こりうる可能性とストイックに向き合っているのが、パルクールというカルチャーなんです。ほとんどの方は、転んだときにどんな風に手をつけば怪我をせずに済むか、もし高所から落ちてしまった時はどう対処すれば良いのか、知らずに生活しているのが現状です。その意味でもパルクールは啓蒙する意味のあるスポーツだと考えています。今後、パルクールを通して、社会の意識を変えていける部分もたくさんあると思います。

■パルクールと出会ったことで人生が変わった

ーーパルクールにおいて、もっとも大切なのは何ですか?

ZEN:パルクールには理論があるものの、明確なルールが定められているものではないので、自分で考えて判断していかなければいけない部分がたくさんあります。乗り越えるべき障害に対して、どのようにアプローチするか、その答えは無数にあって、例えば自分の身体をフィジカル的に鍛えることもできるし、テクニックを磨くことでより少ない力でクリアーすることもできる。障害に対してどのように向き合うか、そのスタイルによって自分を表現することも可能ですし、自分を成長させることだってできます。そういった意味で、パルクールは哲学だとも言われています。一番大切なのは、障害に向き合ったことで自分が何を学ぶことができるか、知らなかったことに気付けるかだと、僕は考えています。毎日練習に行き、新しいトレーニングに挑むのも、知らないことを知りに行くため、という感覚が大きいです。

ーー向き合うべき障害がその都度、違うのも、パルクールの魅力といえそうです。

ZEN:大会のコースも事前に教えられるわけではなく、毎回違いますからね。何を持って完成とするかも自分次第です。そこに競技としての面白さもありますし、日頃の鍛錬がいかに大切かも如実に現れます。どんなコースが出てくるのかは、プレイヤーにとっても楽しみなところですし、観客の方々にとっても、それぞれのプレイヤーがどんな風にその障害を乗り越えるのかの違いを楽しんでもらえると思います。

ーー海外でのパルクールの認知度はどれくらいなのでしょう?

ZEN:パルクール発祥の地であるフランスの近く、デンマークやイギリスなどは認知度が高く、単純に競技として盛り上がっているだけではなく、社会的に認められている部分もあります。特にデンマークでは早い段階からパルクールという競技の持つ精神性や健康への影響が評価されて、国家で推進していくスポーツに認定されています。そのため、国の補助金で街の一画にパルクール用の公園が造られたりしています。公園ではパルクールの選手はもちろん、ご年配から子どもまで、本当に幅広い層の方々がパルクールを楽しみ、様々な情報を交換しながら切磋琢磨しています。そういった状況に比べると、日本をはじめとしたアジア諸国では今なお危険なスポーツというイメージが強く、パルクールにおいては後進国と言わざるをえないと思います。実際には、対人競技などに比べればよほど故障は少ないし、死亡例なども他のスポーツとなんら変わりありません。パルクールの精神性を含めて、正しい知識が啓蒙できれば、日本でも徐々に広がっていくのではないかと考えています。

ーー現在、ZENさんはLDH所属のアスリートとなっています。LDHに所属したことで、どんなメリットがありましたか。

ZEN:自分の言葉でパルクールを伝えられるようになったことですね。僕は15歳からパルクールを始めて、翌年にアメリカに行き、現地のプロチームの人たちとともに学ばせていただきました。その後、高校卒業後に自分が何をしたいかを考えたときに、毎日をただ無為に過ごしていた僕に多くのことを教えてくれて、人生経験を積ませてくれたパルクールに対して恩返しをしたいと思うようになりました。僕の場合は、パルクールと出会ったことで人生が変わったので、まだ出会えていない人々に対して、正しくパルクールを知ってもらえる機会を増やす活動をすることにしました。当時、日本にはそのようなスタンスで活躍しているプレイヤーがいなかったこともあり、それなら自分がその役割を務めようと。そんな折に縁があってLDHと出会いました。LDHに所属したことで、『HiGH&LOW』シリーズへの出演はもちろん、多くの舞台など、本当に様々な場面でパルクールを広める機会を与えていただきました。こうしてメディアの方に取材する機会も増えて、自分の言葉でパルクールを語ることができるようになったことには、本当に感謝の念しかありません。たとえばCMなどで僕の技を観て、興味を持ってネットで検索した時に、僕のインタビューなどがあれば、パルクールがただのアクロバットではないことがわかってもらえるはずです。LDHのおかげで、とても意味のある活動ができていると感じています。

ーー広島にて、4月19日から21日にかけて行われる都市型スポーツの世界大会『FISE Hiroshima 2019』は、パルクールを多くの人々に知ってもらうチャンスだと思います。日本を代表する選手として、意気込みを教えてください。

ZEN:日本でパルクールの大会は久しく行われていませんでしたが、昨年度より広島で『FISE』が開催されることになり、ようやくスポーツとしてもカルチャーとしても注目を集めつつあります。パルクールの魅力を知る上で、やはり生で観戦するのに勝るものはないと思うので、ぜひ会場に足を運んで観てほしいです。会場に来てくれた方には、日本人が世界に挑戦している姿をしっかりと見せたいです。パルクールは競技よりも文化としての側面が大きいとは言いましたが、もちろん勝って表彰台に登るつもりで挑みます。中国の大会を皮切りに年間チャンピオンを狙うので、ぜひ応援に来てください。(取材・文=松田広宣)