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野木亜紀子が描くヒロインの共通点は“普通”? 『フェイクニュース』『けもなれ』から読み解く

リアルサウンド

18/10/21(日) 14:00

 10月は連続ドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)と2話完結の『フェイクニュース』(NHK総合)という野木亜紀子脚本の作品が2本放送される。

参考:北川景子が語る、野木亜紀子脚本『フェイクニュース』で感じたこと 「正しい情報を拡散しないと」

 1月に放送された『アンナチュラル』(TBS系)のときから野木は、「際立った特徴を押し出すよりも、普通に存在する有能で柔軟性のあるキャラクターとしてヒロインを描きたい」と語っていたが、今回の2作のヒロインはどんなキャラクターだろうか。

 『フェイクニュース』で北川景子演じる記者の東雲樹は、大手新聞社からネットメディアに出向してきて、その職場の現状に違和感を抱きながら働いている。ネットメディアの社員たちが、カジュアルでくだけたおしゃれをしているのに対し、樹は紺のパンツスーツで髪型にも乱れがない。そこに樹に緩いところのなさが表れている。

 しかも、企画会議で提案するネタは周囲の記者とは違って真面目なものばかりで、それではPVが取れない、取材は経費がかかると一蹴されてしまうのだが、樹は新聞から来たばかりであるから、社会的に意義のあるネタに対して、ちゃんと裏を取って伝えるということが、なぜここでは通らないかの違和感を持っているのだ。

 そして、彼女が青虫混入の投稿に疑問を持ち、取り上げたことで、それが海外のフェイクニュースサイトにつながり、また次回の予告から予想できることであるが、政治家の企みに迫ることになりそうだ。

 一方で『獣になれない私たち』のヒロインの新垣結衣演じる深海晶は、ECサイトのアプリ制作を手がけるIT企業の営業アシスタントだ。細かいことに気づき、気づいたら実行に移せる晶は前職の派遣社員時代から派遣社員以上の働きを見せる。能力を評価されて現職に正社員として就いたが、現職でも営業アシスタント以上の仕事ができてしまうから、どんどん仕事が晶のところにきてしまう。

 晶はいつも仕事で先回りできるのと同じように、いつでもその場の空気を先回りして読んでしまう。だから常に笑顔が張り付いている。笑顔でいれば、とりあえずトラブルを回避できるからだろう。服装だってその笑顔のように無難でコンサバなものばかりを着ている。樹も常にスーツだが、色も紺で形に遊びもないため、そこには隙がなく仕事人として武装しているようなところがあるが、晶の場合は、色合いも柔らかで、形にはけっこう遊びがあり、人を威圧するようなところがない。それも晶にとっては過剰適応という武装なのだろう。

 しかし、晶はドラマの冒頭で、行きつけのバーで見かけたデザイナー兼モデルの橘呉羽(菊地凛子)の個性的でかっこいいハイヒールを見て「かっこいい」とつぶやく気持ちがある。結局、晶は会社でこき使われている状況に対して待遇改善を求める際、呉羽のような「かっこいい」ファッションで出勤することとなるのだ。

 ここまで、樹と晶のことを書いてきて、「なんだ、2人ともぜんぜん普通のキャラクターじゃないじゃん」と思った人もいるかもしれないが、それは半分当たっていて半分は間違っているのではないか。

 ドラマのヒロインは今までは、日常に疑問を感じて生きている人よりも、日常のさまざまなことを、笑顔で受け入れるキャラクターのほうが多かった。晶は常に笑顔で、先回りして人とのコミュニケーションがうまくいくように心がけているし、人に威圧感を感じさせないファッションも心掛けている。第1話の晶に限っては、これまでのドラマに求められていた「普通」のヒロイン像だ。

 そんな風に張り付いた笑顔に対して「気持ち悪い」というのが松田龍平演じる会計士、税理士の根元恒星である。恒星の態度は一見、冷たいようにも思えるが、尖ったファッションをしている呉羽を見て「あれ好きな男、そうそういなくない?」という晶の彼氏・京谷(田中圭)のことを思えば、無理して人に合わせる必要はないのに、なぜ自分を偽るのかと言っているようにも思えてくる。京谷は普段の態度をみた限りでは悪意のない人物である。それでも無意識のうちに、女性は自分自身のためにおしゃれをするのではなく、男性(自分)のために女性は着飾るものであるという考えをナチュラルに、しかもなんの罪もなく考えている人で、そんな人はけっこう多いのかもしれない

 かつてのヒロイン像は、京谷が望むような女性であり、それが「普通」と思っていた人にとっては、第1話の最後で社長に改善要求をつきつけた以降の晶のことや、常に周囲の反対を押し切ってまで正義感で動く樹のことを「ぜんぜん普通じゃない」と思うかもしれない。

 しかし、実際に世の中にいる女性たちが、常に自分の主体性を犠牲にして、日々笑顔でやりすごし、そして「すり減らし」ながらも、その状態を「普通」とは思っていないとしたら、樹や晶のように、その状況に対して、主体性を持って変えようともがいている人のほうが「普通」なのではないだろうか。

 樹も晶もちゃんと世の中や自分のおかれた普通ではない状況に対して疑問を持ち、それをなんとか表明して改善して普通に戻そうとしている。2人は経歴も職歴も、周囲とのコミュニケーションの仕方もまったく違うが、違和感を自分で飲み込むことで解決した気にならないということにおいては共通しているのではないだろうか。(西森路代)

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