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阿部寛主演『祈りの幕が下りる時』はシリーズの総決算に 『新参者』からの魅力を紐解く

リアルサウンド

18/8/4(土) 10:00

 2010年に放送された連続ドラマ『新参者』(TBS系)は警視庁捜査一課の刑事・加賀恭一郎(阿部寛)が日本橋の人形町で起きた殺人事件を捜査する物語である。

参考:阿部寛主演作『祈りの幕が下りる時』Blu-ray&DVD、8月2日発売 阿部「後味のいい作品です」

 原作はミステリー作家・東野圭吾の人気小説。加賀恭一郎は1986年に書かれた『卒業-雪月花殺人ゲーム』(講談社)で初登場している。当時は殺人事件に巻き込まれたことで事件を捜査することになる大学生だった。その後、1989年に書かれた『眠りの森』(講談社)に刑事として登場し、その後も『悪意』(双葉社)等の作品に脇役として登場してきた。加賀恭一郎は東野が小説家としてキャリアを重ねる中でいっしょに育ってきたキャラクターだ。

 飄々とふるまいながら、容疑者を問い詰めていき、事件の真相にたどり着く加賀は『刑事コロンボ』の日本版とでもいうようなたたずまいで、剣道の達人でありながら、阿部寛の飄々とした振る舞いもあってかおじさんの余裕を感じさせる。ミステリードラマ『TRICK』(テレビ朝日系)や『結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)などでコミカルな中年男性を演じてきた阿部寛のユーモラスさが同居したハマり役となった。

 阿部寛が加賀を演じるこのシリーズは『新参者』以降、『赤い指』、『眠りの森』というスペシャルドラマ。そして2012年の映画『麒麟の翼~劇場版・新参者~』、そして今年の1月に劇場公開され、今回ソフト化された映画『祈りの幕が下りる時』の5本の作品がある。

 加賀は前日譚となる『眠りの森』では警視庁捜査一課の刑事、『赤い指』では練馬署の刑事だった。『新参者』と映画2作では日本橋署勤務となり、物語の舞台も日本橋・人形町近辺となった。この街で起こった殺人事件の背景を捜査していくうちに、小さな家族が抱える複雑な人間模様に直面していくという感じで物語は進んでいく。

 毎回印象に残るのは「人は嘘をつく」というナレーション。『新参者』がミステリーとしてユニークだったのは、翻訳家を目指す1人暮らしの40代の女性の絞殺事件を調査する中で、次々といろんな家族に出会うという流れが毎話続いていくという構成だったところにある。元々が連作短編集の作りになっていることもあり、殺された女性となんらかの形で関わりのあった人間のアリバイを追っていくうちに意外な真相にたどり着くのだが、「人は嘘をつく」という不穏な語りから入るものの、その嘘はつねに誰か自分にとって大切な人を守るためにつかれたものであり、最後は少しほっこりする。このマイルドな味わいが、人形町の風情のある街並みもあってか、連作の落語を楽しんでいるかのようで、放送されたドラマ枠の日曜劇場ともマッチしていた。

 これがSPドラマや映画になると、やや陰惨なテイストが濃くなる。特に完結編となる映画『祈りの幕が下りる時』は、『半沢直樹』(TBS系)等の池井戸潤作品を日曜劇場で手がけている福澤克雄が監督したこともあってか、重厚な作品となっており、まるで野村芳太郎が1974年に監督した松本清張原作の映画『砂の器』の現代版とでも言うような迫力だった。ちなみに福澤克雄は2004年に放送されたドラマ版『砂の器』(TBS系)のチーフ演出も務めている。

 同時に本作が面白いのはシリーズ完結編を謳っていることもあってか、『新参者』等の映像作品を裏側からなぞったような総決算的な物語となっていることだ。

 『新参者』を観ていて奇妙な印象を当時抱いたのは、主人公の加賀恭一郎はあくまで狂言回しであり、彼がどういう人間かは、ほとんど語られなかったことだ。物語が語られるのは人形町で暮らす人々であり、その家族の物語だった。だが、一方で加賀と因縁のあるタウン誌の記者の青山亜美(黒木メイサ)や後輩の刑事の松宮脩平(溝端淳平)とは昔からの知り合いで過去に何かあったことが暗に示されていた。おそらく原作小説や『赤い指』を読んでいる人にとっては自明のことだったのだろうが、未読の自分には謎で、本編とは関係がないと思いなんとなく通り過ぎていた。

 それがSPドラマ、映画と進んでいくうちにじわじわと加賀の過去が明らかになっていき、ついに『祈りの幕が下りる時』では、実は加賀が日本橋署に赴任して、今もここに勤務しているのが、失踪した母親と死の間際にいっしょに暮らしていた内縁の男の行方を探すためだったことが明らかになる。

 映画で加賀が捜査する、ある女性の殺人事件をめぐる物語は、ある種、『新参者』の反復となっている。『新参者』では清瀬直弘(三浦友和)と息子の弘毅(向井理)の、不在の母親を間に挟んだ父と子の確執が展開されたのだが、今回は加賀が不在の母の死の真相を探る物語となっている。

 そして「人は嘘をつく」とは、そのままフィクション(虚構)のことでもある。『祈りの幕が下りる時』のもう1人の主人公は、松嶋菜々子が演じる舞台演出家・浅居博美だ。彼女が父とたどった人生は壮絶で、生きるために嘘をつき続けた。だからこそ、彼女は舞台の上で虚構の世界を生きる女優として生きるしかなかった。もしかしたら、自分の過去を改変して生き直すために演出家に転身したのかもしれない。

 同じテーマは『眠りの森』ではバレエを通して描かれていた。『新参者』の前日譚としてスペシャルドラマとして放送された『眠りの森』は、連続ドラマ『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)等の作品で脂が乗り始めた頃の石原さとみが舞台の上でしか生きられないバレリーナの役を、迫力ある演技で見せており、刑事と犯人の間につかの間だけ生まれた悲恋劇にも見えた。

 『新参者』の重要人物だった清瀬弘毅が演劇に魅せられて家を出た劇団員だったことを考えると、虚構の世界でしか生きられない俳優、あるいは女優の生き様というのは、本作のもう一つのテーマだったのかもしれない。

 多角的に描かれる「嘘」というテーマからみても、加賀恭一郎シリーズを締めくくるにふさわしい映画である。(成馬零一)

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