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いま、最高の一本に出会える

TAKAHIROが明かす、ダンスを通じた変化と独創的な振付を生む秘訣「多重視点を持つことが大切」

リアルサウンド

19/3/3(日) 8:00

 世界的にその名を知られるダンサーでありつつ、欅坂46の多くの楽曲の振付などを手掛ける気鋭の振付師であるTAKAHIROが、ダンスで大きく変化した自身の半生を振り返り、人生と前向きに向き合うヒントなどを記したエッセイ『ゼロは最強』(光文社)を上梓した。超独創的なダンススタイルや振付はどのように生まれ、現在進行形で育まれているのか。そしてそのベースにある信念とは? ここでは本には書かれなかった欅坂46や吉本坂46といったアーティストとの最新エピソードを含めつつ、現在のTAKAHIROのダンス&振付論を探ってみた。(古知屋ジュン)

(関連:振付師・ダンサーTAKAHIROが語る、欅坂46の表現が進化し続ける理由「言うならば、振付は器」

「ダンスの魅力は守ることでもあり、壊すことでもある」
ーーリアルサウンドでは以前にダンス人生を振り返っていただくインタビューを掲載していますが、この『ゼロは最強』も興味深く読ませていただきました。まずこの本をどんな方に読んでもらいたいと思って、構成を考えられたのでしょうか。

TAKAHIRO:10代のころの自分、でしょうか。「何をやっても自分はダメだ」あるいは「なんでうまくいかないんだろう?」とか「自分なんて……」というようなあのころの自分と同じ気持ちを持っている人が、きっと世の中にもたくさんいるんじゃないかと思いまして。僕自身の人生はダンスに出会いに変化しました。20年の間にいろんなことが起こったし、面白いこともきっとあると思うから悲観的に思ってしまうのは、もったいないんじゃないかと思うんです。待っていても運はそうそうめぐって来ないけれど、少し踏み出すだけで何かが変わることがあるから、「自分も一歩踏み出してみよう」と思っていただけたらうれしいな、と。

ーーおとなしかったTAKAHIRO少年がダンスと出会って人生が一変、NYアポロシアターの『Showtime At The Apollo』を目指したエピソードについては前回のインタビューでも触れられていますが、過去の動画をいろいろ拝見していて、改めてTAKAHIROさんのダンススタイルは独特だなと感じたんです。たとえばマンガの『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』(1995年~『週刊少年ジャンプ』で連載)の動きをダンスで再現する、とか。

TAKAHIRO:ある日マンガを読んでいて、あのクネクネした動きを僕もやってみたい、どんなふうになるんだろう? と思って、真似してみたんです。想像を形にする面白さを自分一人で楽しんでいました。それで終わるはずだったんですが、見た友達が「その技、ヤバいね?」と驚いていたので、これが技になるのか! と思って披露し始めたのが最初です。ウェーブという、肩と腕の関節を15カ所くらいに分けた波を作るような動きと、足のバネを使った動きを組み合わせたものでした。

ーーそれが結果的にマドンナのMV(「Celebration~dancer+Fun Ver.」)に採用されたというのもすごい話ですよね。ストリート系ダンスの中に、アニメやゲームのキャラクターにインスピレーションを受けた動きを組み込むという発想が強烈でした。

TAKAHIRO:当時の自分なりの反抗だったのかもしれません。子供のころはとても受け身な性格だったんです。学校のテストや徒競走だったり、なにかやるときには必ず課題が目の前にありました。求められた課題に対して自分は赤点にならないよう頑張る、という作業を自分の中でずっとやってきました。順位や点数、誰かが決めた枠のあるものの中でしか戦ってこなかった、みたいなところがあったんです。それが、ダンスに出会って初めて、枠のないことを自分からやりだした。そんな時期だったので、アップ&ダウンとか型通りのカウントにのっとったものではなく、なんでも描いていい画用紙にぐちゃぐちゃ描くようにフリーなことが自分の中でとにかく楽しかった時期がありました。それが『マサルさん』の真似をしていたころだったと思います。それまで自由を楽しんだことも意識したこともなかったし、何より未知の自由が怖かった。だけどそこに飛び込んで、一つずつ自分なりの形にしていくのが楽しくなったんです。それまで何に対しても受動的だった人間が、コンプレックスだとか、自分の中にあるいろんな泉から表現したいことを“汲み出す”作業を初めて自分でやりだした。そこで自分にとっては外から得るエネルギーといえるヒップホップのステップではなく、自分の中に元々あった、好きなアニメやキャラクターたちからヒントを見つけていく。そんな自分なりの手法でした。

ーー2010年に『情熱大陸』(MBS・TBS系)に出演されたときにダンス用のプレイリストを公開されていましたけど、懐かしのアニソンやゲームのテーマソングが多かったのを覚えています。今でも、そういった音楽にインスピレーションを受けることはありますか?

TAKAHIRO:あります、あります。幼稚園や小学校低学年のころに聴いていたような曲を今も変わらず聴いているので、プレイリストが全然増えない(笑)。昨日車でかけていたのは「南の国のパームタウン」(1987年のアニメ『新メイプルタウン物語 パームタウン編』オープニング曲)という曲でしたし。メジャーな曲なら、「ペガサス幻想」(1986年~放送のアニメ『聖闘士星矢』オープニング曲)とか。いいなと思った曲は5年経っても10年経っても、30年経っても「ああ、やっぱりいいな」と聴き続けています。もちろん新しい音楽に出会う機会があって「これもいいな」と思うこともあります。ずっと聴ける一曲に出会えた時はとても幸せです。

ーー今となっては古い考え方かもしれないですが、ダンスのBGMは歌詞のあまり入って来ない洋楽、みたいな固定観念があるじゃないですか。

TAKAHIRO:ですよね。でも僕はアメリカにいた当時、アメリカ人のプロダンサーを育成するクラスで『Dr.スランプ アラレちゃん』の曲を使ったりしてました。振りにももちろん「キーン!」のあの両手を広げる動きとかを入れて。

ーーちなみに、生徒さんたちのリアクションは?

TAKAHIRO:「Wow! It’s new!」って(笑)。衝撃ですよね。誰もが分かる曲でもやりますが、時にはアクセントも大切。振付もアラレちゃんだから「キーン!」だ! と。そうすると、誰も見たことがないダンスになる。クリエイティブな仕事では多重視点を持つことが大切だと思っています。本にも書きましたがもちろん、アメリカでは挫折も経験しました。たとえばプロの現場ではボックスステップやツーステップだったり基本的な動きをしっかりできて初めて、自分なりのフレイバーが活きるわけです。スタンダードな技術を有することはプロの世界で生き抜く最低限のパスポート。渡米当時の僕にはマイスタイルしかなかったので、それで一度壁にぶつかりました。

ーー以前に超特急の取材をさせていただいたときに、ユーキさん(ダンスリーダー)が予想をいい意味で裏切るTAKAHIROさんの振付にはワクワクさせられるとおっしゃっていました。

TAKAHIRO:ダンスの魅力は守ることでもあり、壊すことでもあると思います。ダンスをやってきて、すごく寂しさを感じることもあるんです。自分には師匠と呼べるような存在がいなかったですし、自分の内側から引き出すダンスに魅力を感じていたので、コンテストに挑むときも、創作のときも、ずっと1人の世界でした。バレエだったり、ストリートならポッピングとかワッキング、ブレイクだったりという特定のジャンルを追求しながら、そのジャンルの歴史と文化を守っていくダンサーの方々をすごくかっこいいと思うけれども、自分ができることはそれとは違った。ならば守ることはその方々にお任せして、自分は見る人をワッと言わせるマイスタイルを磨こうと思ってここまできました。

ーー現在はダンスカンパニー・INFINITYの主宰としての活動もあると思いますが、ひとりという意識は変わりましたか?

TAKAHIRO:現場に想いを共有できる仲間が出来て新しい視点を持てたように思っています。その中で、自分が請け負った作品の動きは自分で作るので、責任を1人で背負うという芯は変わらないです。INFINITYのカンパニーのメンバーも違うところで振付をすることがありますけど、そこではその人のスタイルでやってもらいたいので、主宰として意見は言いますが、命令にならないように心がけています。そう考えると制作者は基本的にはやっぱり1人です。ただ、仲間がいっぱいいることは幸せです。ダンスがくれた最高の宝物です。

■「“双方向”というのはとても大事なポイント」
ーー本の中で近年手掛けた振付のお仕事についても書かれていましたが、アクロバットとダンスのバランスを練ったというA.B.C-Zの「Rock with U」(アルバム『VS 5』収録)の解説もすごく面白くて。本には載っていない最近のお仕事についてもうかがえたらと思うんです。例えばMVが衝撃的な欅坂46の新曲「黒い羊」(2月27日リリース)については、楽曲の世界観をどんな風に考えてメンバーのみなさんと共有されたのでしょうか。

TAKAHIRO:「黒い羊」という楽曲では“向き合う”ことが物語の大きな鍵になっています。MVには世の中に辟易としている登場人物が登場するんですけど、その人が辟易として生きるその世界の奥に、もうひとつの世界があって……歌詞の裏にある叫びが聞こえて初めて、この楽曲やMVに込められた世界観が伝わるんじゃないかと思います。表面上で聞こえる言葉と、その裏で叫んでいる言葉、歌詞には2通りの意味があると思うんです。このMVではその、歌詞の裏にある主人公の叫びというものが少し垣間みれるのではないかと感じています。本曲の「黒い羊」の黒は視覚的な色ではなく“心の形の色”だと僕は思っていて、メンバーにもそう話しました。誰もが日常的に白い羊を演じているけれども、その心の中には黒い羊が潜んでいる。そういうコントラストが見え隠れするのもあのMVの魅力だと思っています。

ーー拝見していて、明言はされていないけれども情報量がすごく多いなと感じました。

TAKAHIRO:すべての登場人物やエキストラさん、セットに置いてある一つ一つのものにも実はストーリーが隠されている。今回の作品においては、それをどう感じるかも見る人によって変わってくると思うんです。メンバーに振付をお伝えするときに、この作品の中の白と黒ってなんだろう? という話をしました。1階、2階、3階で起こる出来事では心象の階層を分けた動きにしました。あのMVに出てくる1~3階のシーンではそれぞれ心のフェーズが違うんです。人と“向きあう”ことにも段階があることを話しながらメンバーのみなさんとは世界観を共有していきました。

ーー欅坂のみなさんが作品数を重ねるごとに作品への解釈が深くなったり、世界観を速くつかむようになるといった変化は感じますか?

TAKAHIRO:感じますし、メンバーのみなさんから質問してくださることが増えました。なるほどわかりました、ではなくて「歌詞のここに関してはどういう気持ちだと思いますか?」とか「この瞬間の登場人物の気持ちに引っ掛かりを感じていて、どうやったら見ている人に伝えられるでしょうか?」とか。もう振付に関してメンバー1人1人が自分の意思で能動的に考え、コミュニケーションの取り方もレクチャーからディスカッションが多くなってきています。新しい意見、新しい答えに僕自身もなるほどと作品を変化させたり、いちクリエイターとしてこの形のほうが伝わると思う、と意見したりしながら振付を成長させています。

ーーこの振付をジャンルで切るとすればコンテンポラリーダンスという位置づけになると思うんですが、演劇的な要素もありますね。

TAKAHIRO:そうですね。彼女たちのパフォーマンスに関しては、振りなのか演技なのかという、曖昧な境界線を歩んでいっている気がします。ジャンルや定義より「どうこの曲を届けるか」を考えている結果であり過程が今の姿なのだと思います。

ーー本の中に「ダンスとはコミュニケーションとしての表現」という言葉がありましたけど、TAKAHIROさんの振付が双方向のコミュニケーションで完成していく様子がこれまでのお話でよくわかりました。

TAKAHIRO:大学生のころ、初めてダンススタジオで教えたときに、当時の自分の中で最強だと思っていた曲と一番イケてると思っていた振りを用意していったんですよ。でもそれで授業したら、みんな泣いちゃったり、スタジオから出ていっちゃう生徒もいて……。その子たちは、みんなが知っているような曲で楽しくダンスを始めたいと思っていたはずな人です。でも僕が「まずはカマキリのポーズから! カマキリの攻撃性をもっと出して!」みたいな感じで、これが今最先端の表現だ! みたいなスタンスで教えようとしていたので、怖がられちゃったんです(笑)。自分がいいと思っていることを伝えることが、必ずしも受取り手である演者さんにとっていいものじゃないんだなって、そのときに理解して。だから双方向というのはとても大事なポイントで、その方がいいと思うものがあるとして、それにさらに光を当てるような形で輝かせるにはどうしたらいいか。それを考えるのが自分の経験と技術と、ひらめきなのかなと思ってやっています。

ーーでは、ダンサーやアーティストに限らず、現在お仕事でかかわっている中で興味深い演者さんはいらっしゃいますか?

TAKAHIRO:お笑い芸人さんは、やっぱりすごいなと思います。ピコ太郎さん、小島よしおさんとか。いい振り思いついた! と思ったら「それピコ太郎さんがやってます」みたいなことがたまにあります。お笑いの一発ネタには一瞬で刺さる、メッセージ性がある動きが多いと思いますよ。

ーー振付を手掛けられた中にも芸人も参加するアイドルグループの吉本坂46がいますね。デビュー曲の「泣かせてくれよ」はミュージカル調の振付でしたが、やり取りしていて面白かったところはありますか?

TAKAHIRO:フリー(注※振りなどの指定がない)に強いこと。自由にしていただいたときに、これはすごい! と思うポイントがたくさんありました。あとは個性の塊同士なのでもっと散らかるかと思っていたんですけど、一つの作品を作り上げることに関してはみなさんストイックでした。今回は個性溢れる方々が一つの方向に向かって一つの気持ちで走りだしました、という第一のストーリーの曲だと思うのでまとまりやすい形にまとめましたけど、実は振付も何通りか考えていて、それぞれの個性爆発パターンもあったんです。まだまだポテンシャルを秘めまくっている方々なので、振りを付けるにしても発展性があるグループだなと。

ーー最後に、前回の取材でも少しお話を聞いたと思うんですが、ここ近年のダンサーや振付師の世間での扱いについて感じていることはありますか?

TAKAHIRO:15年くらい前に、自分の活動をテレビで取り上げてほしいと思って、番組側に問い合わせたことがあるんです。でも、バレエは取り上げるけどストリートダンスは取り上げられないと言われました。それはなぜかというと、ストリートダンスはサブカルチャーの範疇のもので、国民のみんなが知るような文化とはまた違うからという回答でした。僕はこの現実に小さな風穴を開けたいと目標にして、ドキュメント番組に出るのを目標にして、実際に2010年にストリートダンサーとして初めて『情熱大陸』に出ました。NYに住んでいたころはダンサーにも労働組合があって、一つの職業として確立されていました。自分は日本ではダンサーのための労働運動をしようというよりも自分が世に出ていくことで、見ている人が少しでもダンスのことを知ってくれたらいいなという考えでしたね。夢は世間のみなさんが、野球について選手の名前、音楽についてミュージシャンの名前を挙げて話すように、「仲宗根梨乃さんの振付がいいよね」とか「私は菅原小春さんのダンスが好き」とか、振付師やダンサーについて名前を言い合って話してくれる日がくること。それにはまず自分がそういったプレイヤーの1人に入ることから始めないとと思っていて、さきほどのテレビの話もそうですが、それを一つのテーマとして活動してきました。

ーーこの2~3年でもだいぶ状況が変わってきましたし、そういう意味での夜明けは近いと感じます。

TAKAHIRO:踊り続けてきたら振付のお仕事をいただくようになって、少しずつ世界が広がってきました。最近は音楽番組でもダンサーや振付師、学校のダンス部が話題になることも多くて、幸せな時代になったと思います。今はダンスにとっていい時代、でももっといい時代にするために何をできるかを考えています。その近道は、いつも目の前にあると思っています。目の前のクリエイションをより良いものにしていくことで、流れもより良くなると確信しています。

(古知屋ジュン)