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なぜSTUTSは人気プロデューサーに? YUKI、土岐麻子らを魅了する楽曲センスに迫る

リアルサウンド

19/5/5(日) 8:00

 6月26日に発売される土岐麻子のリミックスアルバム『TOKI CHIC REMIX』にSTUTSが参加することが明らかになった。PUNPEEが参加した「夜を使いはたして feat. PUNPEE」でブレイクしてから、STUTSは、YUKI、iriなど自由なスタンスのミュージシャンたちから引っ張りだこの、人気プロデューサー/ミュージシャンになった。

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 STUTSがヒップホップを知ったのは、中学時代に聴いたRIP SLYMEなどだったという。そこからどんどんのめり込んで、高校時代にはゴリゴリの日本語ラップリスナーになった。ビートメイクを始めたのは高校の時。そして大学進学を機に上京すると深夜のクラブで、ラッパーたちのバックDJをしたり、MPCプレイヤーとしてビートライブなども披露するようになった。だがSTUTSには「単純にMPCを叩く人って所に囚われたくない」という信念があった。彼は、MPCプレイヤーとしてHIFANAらの“見せる”パフォーマンスに刺激を受けたという。彼らが登場するまでMPCプレイヤーのライブは、パフォーマンスとしてやや地味な印象があった。しかし、特にHIFANAはMPCのパッドを叩くプレイヤーのカッコよさにフォーカスした演出で、ビートライブの見せ方をガラリと変えたのだ。そのあたりの影響は、STUTSの存在を世に広めたニューヨーク・ハーレムの街角で行ったストリートライブの映像からも見て取ることができる。

 「ルーツとなる芯は保ちながら、自分のいる場所を限定しない」。これは昨年私がインタビューした記事(参照:https://www.asahi.com/and_M/20181219/390133/)で語っていたこと。まさにこのスタンスが多くのミュージシャンを惹きつける要因だろう。彼はクラブでライブしていた時期、同じイベントに出ているカッコいいラッパーたちに自分のビートを入れたデモCDを渡していたという。そのコネクションが彼の活動のベースになった。菊丸(KANDYTOWN)、RAU DEF、ZONE THE DARKNESS(現:ZORN)、KMC、Haiiro De Rossi、ダースレイダー、JJJ……。さまざまなラッパーにクオリティの高いビートを提供して存在感を強める一方で、シンガーソングライターの寺尾紗穂の楽曲にもビートプログラミングで参加していた。また2014年にはAlfred Beach Sandalとの共作「Horizon」も発表している。

 こうしたオープンマインドなスタンスに加えて、STUTSには飛び抜けたメロディセンスがある。彼に美しいフレーズを見つけ出す耳があるのは「夜を使いはたして feat. PUNPEE」を聴けば十分すぎるほどわかるが、さらにSTUTSは2ndアルバム『Eutopia』のインタビューで「『Pushin’』では自分で入れたシンセのフレーズが耳に残ると言ってくれる人が結構いたので、今回はそういう自分の個性といえそうな部分を色濃くしたかったんです」(参照:https://mastered.jp/exclusive/mix-archives/mma88-stuts/)と話しており、自らメロディを作り出すことに対しても意欲的だ。ヒップホップのビートを知り尽くしていることに加えて、メロディを作る力があるのだから、プロデューサーとして引っ張りだこになるのも当然のことだろう。

 また音楽に向き合う真摯な姿勢も見逃せない。次のインタビューは、『Eutopia』をリリースした際にリズムについて話したもの。彼の異常なまでのこだわりを垣間見ることができる。「クオンタイズ(筆者注:演奏データのズレを自動補正する機能)をきっちりするっていうことではないんですよね。単純に自分が聴いていて気持ち良いなってところに重点を置いてるんで、だからそれが機械的じゃなくて生っぽく自然な感じに聴こえるのかなって思いますね。(中略)打ち込みとかサンプリングっぽいけど生で打ってるっていうのは自分の個性として大事なのかなと思っているので、そこはこだわりました」(参照:https://fnmnl.tv/2018/10/26/61435)。機械的な正確さではなく、あくまで自分が感じる気持ち良さを追求する。0コンマ何秒の世界だが、STUTSはこの集積が仕上がりの優劣を分けると考えているのだ。

 このエピソードからも分かる通り、STUTSは音楽制作に対する熱いエネルギーを胸の奥に秘めている。彼の代表曲のひとつである「Changes feat. JJJ」は、それが見事に形になった1曲だ。この曲のテーマは「変化」。客演したJJJは、この曲で自身の盟友であるラッパー・FEBBが急逝したこと、そして残された自分と、過ぎていく時間について歌った。センシティブなトピックだが、姿勢はあくまでポジティブ。STUTSは美しい旋律の跳ねるピアノリフとアップテンポなドラムのビートで、JJJの中にあった理屈では収まりきらない感情の爆発を引き出した。テーマやトピックは違えど、STUTSがプロデュースする楽曲にはエモーショナルな楽曲が多い。これは共演するさまざまなアーティストが、STUTSのビートメイクに自分たちの感情を引き出す何かがあると感じ取ったからではないだろうか。

 またこれはやや蛇足かもしれないが、STUTSが多くのアーティストからオファーを受けるのは、彼の性格も関係しているように思える。音楽制作は感受性の仕事と思われがちだが、本質は人と人とのコミュニケーションだ。能力の高さは前提条件として「あの人との仕事は楽しかった」と思われることが重要なのではなのではないだろうか。自分の中にある予想外の扉をノックしてくれるーーそんなSTUTSとの音楽制作は、おそらくさまざまなミュージシャンにとって、楽しいものなのだと思う。そして、自分の中にある予想外の扉をノックしてくれる。私は一度インタビューしただけで、STUTSのプライベートな面までは知らないのだが、彼が関わった音楽を聴く限り、そんなふうに思うのだ。

 昨年末は『NHK紅白歌合戦』にも出演し、オープニング音楽も担当した。変化し続けるSTUTSはこれからも、想像だにしない形で我々を驚かせてくれるはず。今後もSTUTSの動向に注目していきたい。(宮崎敬太)

※記事初出時よりタイトル及び本文一部を修正いたしました。

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