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いま、最高の一本に出会える

光石研のトホホっぷり&ゲスト陣の適材適所が光る 『渋井直人の休日』のクセになる面白さ

リアルサウンド

19/1/31(木) 6:00

 テレ東の木ドラ25で放送中の『デザイナー渋井直人の休日』は、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』などで知られる渋谷直角の漫画を原作にした作品である。

参考:『メゾン・ド・ポリス』『わたおじ』『渋井直人の休日』……おっさん・おじさんドラマ、なぜ増加?

 渋谷はフイナムのインタビューで、「この漫画は、もし自分が『センス売り』の方向に努力して行ったとしても、絶対こうなるだろうっていう発想がきっかけです。素敵!みたく思われるタイプの人になっていたら自分は絶対こういう所でつまずくし、こういう失敗をするだろうなぁという『妄想スケッチ集』みたいな」と語っているのだが、この「センス売り」の絶妙なラインが実にうまく描けているのが『デザイナー渋井直人の休日』だ。

 このドラマを見て、「あのファッション、実は頑張りすぎててダサいっていう目線もあるのに、あれをストレートにかっこいいって見る人もいるんだよね」と言っている人もいた。ファッションにそこまで詳しくない私は、渋井直人のダッフルコートにクラークスという出で立ちはストレートにかっこいいと思っていたが、そんな見方もあるのかと思える意見であった。

 しかし、家に帰ってもこの言葉について考えていて理解ができた。渋井直人が、1話で行きつけのショップで池松壮亮演じる店長との会話ならば、「実は頑張りすぎててダサいけど、ストレートにかっこいいと思う人もいるんだろうな」という指摘も理解できるのである。彼らは、ウェス・アンダーソンの映画について話していたのだが、内容ではなく記号だけで語る会話を意図的に描いていた。ファッションについても、「記号」としてまとっている部分が描かれるからこそ、ストレートにはかっこいいものではないのだ。このドラマは、こうした「記号」の持つ意味を、ファッションにしろ文化にしろ、きちんと、しかもさりげなく描けているのである。

 実際、渋井直人はこの「記号」のために、せつないことになる。自分のことをいいと思ってくれている川栄李奈演じる美大生の個展に行った際、その個展の会場には、自分と同じく、ダッフルコートにクラークスのまさにウェス・アンダーソン……、といった「記号」ファッションの男性たちがひしめいていて、打ちひしがれることになる……。しかし、毎回この、渋井持ち上げられる→渋井ちょっといい気になる→渋井打ちひしがれる、という流れが、わかっていてもクセになるのだ。

 そんなお約束を楽しみにさせてくれるのは、こうした細部を、演出の松本佳奈や、脚本のふじきみつ彦などが「わかった」上で成立させているからだろう。また、俳優たちの繰り広げる自然な会話劇もこのドラマでは重要だ。

 1話では、渋井が長年憧れてきた大御所イラストレーターを岩松了が演じ、一筋縄ではいかない大御所デザイナーと渋井の緊張感ありすぎの一幕が繰り広げられた。どんどん追い詰められる渋井直人を見ていると、「かわいそうだからもうやめてあげて!」と思わず声をあげそうになった。

 また、前出の池松壮亮演じるおしゃれショップの店主は、文化資本が高そうでいて、「実はコイツ渋井さんをおちょくってるんじゃないの? わるいやっちゃなー」という感想が漏れてくるようなキャラクターで、そんな難しい役を池松は少ない出番の中で作り上げていた。

 川栄李奈演じる美大生も一瞬の出演ながらも、八方美人でやり手の美大生は、どこかに存在しているように思わせてくれた、レギュラー陣もうまい。夏帆のそつのない編集者っぷりや渋井の行動にときにあきれる表情、渋井のアシスタントを演じる岡山天音のダメダメそうに見えて、どこか渋井を癒してくれるような緩さなどはクセになる。特に岡山の役は、過剰にキャラを作りすぎると、この作品のバランスを壊しかねない重要な役どころにも思えるのだが、作り過ぎず、セリフの間やかぶせ具合などが巧みで、彼のターンによって、渋井のせつないながらも笑えてしまうシーンが成立するのではないかとすら思えた。

 今後も黒木華をはじめ、大森南朋、平岩紙など、さりげないのに巧い俳優たちが続々登場する。そんな人々に振り回され中心に居続ける光石研のトホホっぷりが、今後どうなっていくのかも楽しみな作品だ。(西森路代)

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