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『フェイクニュース』二転三転する展開はどう生まれた? 脚本家・野木亜紀子が語る制作の裏側

リアルサウンド

18/10/27(土) 12:00

 10月20日に前編が放送された北川景子主演のドラマ『フェイクニュース』(NHK総合)の後編が、27日に放送される。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)などの脚本家・野木亜紀子が手掛ける本作は、中年男性がSNSに投稿したつぶやきがきっかけで大問題に発展してしまう社会派エンタメドラマ。

 今回リアルサウンド映画部では、本作がNHKドラマ初執筆となった脚本家・野木亜紀子にインタビュー。本作が生まれたきっかけや、二転三転するストーリー制作の裏側などを語ってもらった。(取材・文=阿部桜子)

■「放送前からこんなに話題になるとは」

ーーまずフェイクニュースを題材にした経緯を教えて下さい。

野木亜紀子(以下、野木):そもそも、わたしがテレビや新聞などの誤報を訂正するチームのドラマを作りたいなと思っており、『アンナチュラル』をやる前から話を持ち掛けていたのですが、民放では難しいと言われ続けてきました。そんな時にちょうど本作の北野拓プロデューサーから、「NHKでオリジナルのドラマを何かやりませんか?」とオファーを受けたんです。

ーー北野さんとは元々知り合いだったのですか?

野木:いや、彼が連絡先をどこかから聞き出して、すごく熱い長文のメールをくれました(笑)。全くの初対面です。正直忙しいので、お会いしないでお断りすることもあるのですが、北野さんの長文メールは必死感が凄くて、面白いと思ってお引き受けしました。最初は『逃げるは恥だが役に立つ』の後だったこともあり、本作と全然違う恋愛モノとか、結婚の何かみたいな提案を、直接お会いした時に言われたんですけど、北野さんが報道出身ということで、わたしも報道のドラマがやりたいということがあり、意気投合しました。ただ当時、『アンナチュラル』と『獣になれない私たち』が決まっていたので、その間に書くとなると連ドラベースのものはちょっとスケジュール的に無理で、単発なら書けるという話にまとまりました。「今、報道絡みのドラマをやるなら何がいいかね~」と2人で喫茶店で喋っている時に、「フェイクニュースは問題だよね」という話に辿り着きました。

ーー話し合いの中で生まれたということですね。

野木:そうですね。お互いそこに問題意識を持っていたので、フェイクニュースなら今やる意義があるのではと。ただ、まだ当時はフェイクニュースという言葉自体があまり世に広まっていなくて、そもそも「フェイクニュースということだけでNHKの上の人を説得して、企画を通せるのか?」みたいな話から始まりました。「ネット上のことなんてドラマになるのか?」という部分もあったので、どう企画を通すのか話し合って、最初は“フェイクニュース入門”みたいな企画書を北野さんがつくって、出しました。その後、フェイクニュースという言葉が一般的になったので、がらりと内容を変えたんですけどね。

ーー『フェイクニュース』が発表された時、まだ放送されていない段階で賛否両論となっていたのが印象的でした。そうして改めて本作を観て、物を確かめぬまま発言や拡散する怖さを改めて感じました。

野木:わたしも正直、放送前からこんなに話題になるとは思っていなかったんです。発表された時点では、もう脱稿していたわけですが、本当に面白いくらいに似たようなことが起こりましたね。

ーー『アンナチュラル』放送時も現実がリンクしており話題になりましたが、野木さんは未来を見据えた脚本づくりをしているのですか?

野木:頻繁に起こっていることをドラマにしているので、描いているのは所謂あるあるです。「そりゃそうなるよね」と予想通りのことが起きたのを身をもって感じました。

ーーもともと報道に興味があったとのことですが、きっかけは?

野木:大学卒業後、制作会社に入り、ドキュメンタリー制作をしていました。その時から「ドキュメンタリーの線引き」や「どこからがヤラセである」とか、「どこまでが演出なのか」とかがずっと気になっていたんですよね。結局ニュースというものも切り取られるもので、どうしても作り手の意図が介在します。そういうことに焦点を当てたドラマをやりたいなという気持ちもちょっとあったんです。割とすぐ「やらせだ」って言われますが、確かにやらせもあるのだろうけど、そうじゃない場合もあるじゃないですか? 例えば、ドキュメンタリーの中で移動するショットに、編集上で違うところで撮られた車のカットを入れるのはヤラセなのかとか。「それをヤラセと言われたら、どうして良いか分からなくなるよね」みたいなことを含めて、ずっと気になっていました。『空飛ぶ広報室』(TBS系)というドラマの時も、原作にはない報道の話をオリジナルで結構入れているんですね。そういう視点は、描いていくべきものの1つとして、自分の中にありました。

■「能力があるのに正しく評価されていない女性はたくさんいる」

ーー本作含め野木さんのドラマは女性主人公が多いですが、今回も理由があっての北川景子さんの起用だったのでしょうか?

野木:北野さんや監督の堀切園さんから「堅い題材だから若い女性がいいんじゃないか」と言われたんですよね。おじさんが主人公でもいいと思うのですが、世間は北川景子さんが主人公のほうがやっぱり見ますよね(笑)。ストーリーとしても結果的に良かったと思っています。

ーー本当にお美しかったです。『フェイクニュース』の樹も『獣になれない私たち』の晶も仕事ができるのに認められない女性ですが、何か野木さんの経験がキャラクターに反映されているのでしょうか?

野木:わたしは比較的、そんな思いはしなかったんですけど、実際にわたしの周りの友人含め、能力があるのに正しく評価されていない女性はたくさんいます。世の中のドラマの女性主人公ってバリバリ働けて、周りをなぎ倒していってスカッとさせるタイプか、ドジなんだけど一生懸命みたいなキャラクターに分かれがちなんですよね。そういうのももちろんあってもいいのですが、仕事をちゃんとしている女性はたくさんいると思っているので、そんな中で何かを抱えていたり上手くいかないという人の方がわたしはよっぽど書きたいんです。使命感じゃないですけど、「みんな、そういう女性を書かないんですよね? じゃあわたし書きます」という思いがあります。『アンナチュラル』のミコト(石原さとみ)と東海林(市川実日子)も仕事のできる女性だったし、『獣になれない私たち』でも、仕事ができるゆえの不幸を抱えたのが晶(新垣)です。『フェイクニュース』の樹も、仕事ができるしモチベーションもあるのだけど、セクハラ暴力事件がきっかけでネットメディアに出向することになり、居場所を失った背景を持っています。樹とは理由は違うかもしれないけれど、本来なら能力もやる気もあるのに評価されていない、ある種いるべき場所にいられていない人って物凄く多いと思うから、どうせ書くならわたしはそういう人たちに向けて書きたいなと思っています。

ーーその思いは、映画監督を志された大学時代から持っていたのですか?

野木:全然。もう当時は、20歳そこそこで子供で、世の中にそんな人たちがいるなんて知らず、全く考えていませんでした。やっぱりその後の社会経験ですね。ドキュメンタリー制作をしていた時は、女性に対する圧力をそれほど感じたことがなかったんです。女ならではのバカにされ方があっても、女だからこそ得する部分も感じることがあり、地方にお祭りの取材とかに行くと町内会の人から良くしてもらうこともあって……。その後、脚本を書こうと思いシナリオのコンクールに応募し始めたのですが、ドキュメンタリーの仕事をしていると書く暇がないので、一旦業界から足を洗って普通の企業に務めていたんです。派遣とかで色んな会社で働いたのですが、日本の一般企業って女性社員が7割いる会社でも幹部とか部長クラスって全員男だったりするんです。仕事ができるのに「気が強い」とか言われる女性が昇進できないこともあり、「虚しいなあ」と思うことをたくさん目の当たりにしました。脚本家になった後も、テレビ局によっては男尊女卑が強い局もあって、女性プロデューサーが飛ばされたり重宝されなかったりする姿を見てきました。とはいえ、そういうことばかり謳いたいわけではなく、『フェイクニュース』では、たまたま題材に合わせていった結果、主人公像がそうなっていきました。

ーー今回NHKでのドラマは初になりますが、NHKだからできることは感じましたか?

野木:スポンサーがいないっていうのはすごく大きいです。NHKも視聴率を気にしていないわけではないと思うんですけど、民放でこういう題材って視聴率が取れないみたいな言い方をされます。やっぱりNHKはどちらかと言うと社会的意義があるものならば一応やってみるくらいの気持ちがあるので、本当にありがたいなと思いました。

ーー脚本を作り上げるにあたって、何か話し合いを?

野木:演出家によっては、本打ち(脚本打ち合わせの略)に参加されない方もいるのですが、演出の堀切園健太郎さんは本打ちから参加したい方で、今回は北野さんと堀切園さんと長い間話し合いました。基本骨組みはわたしが作って、樹が過去に追いかけていた不正絡みのネタが必要だという話をしたら、北野さんと堀切園さんから“外国人労働者の搾取”が今的でいいんじゃないかということで組み入れたりしましたね。基本は普通の本打ちと変わらないのですが、今回は題材が題材なだけに、エンタメ的な展開の中でリアリティーをどう保つかが主な議題でした。ここまでやったらフィクション色が強くなる、でもドラマとしてはここまでやるべきだ、というようなせめぎ合いです。

ーーリアリティーが求められる題材の中、野木さんのセリフっぽくない言葉たちが上手くマッチしているようにも感じました。

野木:わたしが、あんまりセリフっぽいセリフが好きじゃないという部分もあるかもしれません。『アンナチュラル』もそうだったんですが、今回も説明がどうしても多いドラマで、いかに説明をしなくていいシチュエーションに持っていくかを熟考しました。このあたりは脚本のテクニックの話になっちゃうんですけど。

ーー『アンナチュラル』では久部くん(窪田正孝)のように視聴者に近いキャラクターが置かれていましたね。

野木:今回もキャラクターそれぞれに役割を割り振っていて、情報量の差をもたせています。樹は新聞記者の西(永山絢斗)に対して、ネットメディアの説明ができる。反面ネットのあれこれについて樹は詳しくないから、網島(矢本悠馬)や宇佐美編集長(新井浩文)が担っています。

■「ドラマだからこそできることをやっていきたい」

ーー野木さんは脚本を書くにあたって取材を丁寧にされますが、二転三転するストーリーの中でどのように組み込んでいくのでしょうか?

野木:広告番号の話はセキュリティー会社の方が教えてくれました。取材の中で「お?」っとなることは結構ありましたね。ネットのことは三人の中ではわたしが一番詳しいくらいだったのですが、北野さんは報道について詳しいので助けてもらいました。報道記者だった北野さんには、記者がどれくらいの信憑性で記事を書くのかや記者なら言わないことなど……。わたしも20人くらいは会っているんですが、北野さんはさらに倍以上の数を取材していて。もちろんすべてが使えるわけではないのですが、新しい情報やリアリティに関わることに関してはメモをくれたので、できる限り脚本に組み込んでいきました。『獣になれない私たち』の間で『フェイクニュース』を進めていて、作業的には平行していた状態だったので、全部の取材に参加できなかったんです。事前取材以外にも、こういう流れにしたいからここにこういうネタが必要なのでと伝え、随時調べていただいたりもしました。ストーリーの展開上、猿滑(光石研)さんは悪口を書いていた鶴亀屋食品の親会社のテイショーフーズが、勤め先の八ツ峰製菓のライバル会社だと知らず、そんな中で悪評を流し続けていたということにしたい。それだと、お菓子会社と食品会社が参加しうるコンペが必要になるので探してもらいたい、みたいな形です。そこからプライベートブランドのネタが上がり、それに合わせての調整は必要なんですけど、基本的には「ここでここをひっくり返したいからこうする」という構成は決めて、細部を取材して詰めていきました。今回は色んな会社が複雑に絡む話なので、取材が多かったですね。堀切園さんもリアリティーやディティールにこだわる監督なので画作りにあたってもものすごく取材していて、完成作品をみたら美術や背景のひとつひとつまで細かくて感心しました。

ーー野木さんの作品には、誰かの心を必ず動かす力があります。野木さんにとってドラマにできることはなんでしょうか?

野木:フィクションの力って馬鹿にならないと思っていて、だからこそ怖いので、ちゃんと覚悟して作らないとと思っています。『フェイクニュース』の題材も、堅いドキュメンタリーやニュースだと観ないという人もドラマなら観るじゃないですか。『アンナチュラル』のような法医学の話だってドラマという形なら届く人がいる。『獣になれない私たち』の晶のように声を上げられない人がいることも、ドラマにして見せないと埋もれてしまう。こうした、ドラマだからこそできることをやっていきたいです。

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