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いま、最高の一本に出会える

ミト×岩里祐穂が語り合う“楽曲への向き合い方” 「ちょっとした発想で世界がひっくり返る歌詞を」

リアルサウンド

19/1/14(月) 14:00

 クラムボンのミトと、音楽に携わる様々な“玄人”とのディープな対話を届ける対談連載『アジテーター・トークス』。今回は、対談集『作詞のことば 作詞家どうし、話してみたら』を先日出版した作詞家の岩里祐穂との対談が実現した。

 『作詞のことば』は、岩里が作詞家を招いて行った全5回のトークセッションの模様を収めたもの。元チャットモンチーの高橋久美子から始まり、松井五郎、ヒャダイン、森雪之丞、坂本真綾という錚々たるメンツと共に、司会進行を介さず文字通り「一対一」で行ったやり取りは、お互いの歌詞に対する深くて鋭い洞察や、惜しみないリスペクトが飛び交っている。

 他アーティストやシンガーへの楽曲提供などで、名だたる作詞家たちと仕事をしてきたミトは、この本をどう読んだのだろうか。作曲家と作詞家の、楽曲に対する向き合い方の違いや共通点、ミトと岩里がタッグを組んだ時の制作エピソードなど、多岐にわたるトピックについて深く語り合ってもらった。(黒田隆憲)

「岩里さんは“ちょっと混ぜ込む違和感”が常に秀逸」(ミト)

ーーお二人はもう、何度もタッグを組んでいますよね?

岩里:初めて一緒に作ったのは花澤香菜さんの曲でしたよね。

ミト:そうです。彼女の2ndアルバム『25』(2014年)に入っている「Make a Difference」という曲。僕の中では、例えばArt of Noiseとか、トレヴァー・ホーンのプロデュースした80年代テイストのサウンドを意識してたんですよ。オーケストラ・ヒットが入って、みたいな。そうしたら、それを汲み取った歌詞を書いてきてくださって。あれって、事前に話し合いましたっけ。

岩里:まず曲をもらって、それを聞いたときに「そういうことかな」と思って。で、確かミトさんに電話かメールで確認したんですよね、「YMO後期とか、あの辺りの雰囲気で歌詞を書きますけど、大丈夫ですか?」って。そしたら「ど真ん中ですー!」って返事が返ってきたの覚えてる(笑)。

ミト:まさに。『BGM』以降のYMOというか、ピーター・バラカンさんが書くようなちょっとポリティカルでシュールな歌詞が乗ったら嬉しいなと思っていたら、もうドンズバなのが来て。めっちゃグッと来ましたよ。

岩里:あれはね、私も書いててすごく楽しかった(笑)。

ミト:僕、タレントさんのプロジェクトにオファーが来ると、大抵は変化球を求められるんですよね。ある程度アルバムの方向性が決まったところで、「ちょっと変わった曲入れたくない?」みたいな時に呼ばれるパターン(笑)。

岩里:そうかも、ちょっと変態要員みたいな(笑)。私はその時は、北川勝利さんとか沖井礼二さんとかとタッグを組んで、香菜ちゃんの日常を切り取るような歌詞はそっちで結構書いていて。そこに、ふっとミトさんの楽曲をもらっったので、「あ、これは今までとは全然違う世界観で、俯瞰的な立ち位置のメッセージみたいなものが書けるかも、書きたい!」って思えたんですよね。

ミト:彼女の他のアルバムでも、大体そのパターンですよね。「Trace」(『Blue Avenue』収録/2015年)もそうだったし。

岩里:きっとミトさんも、それを楽しんでくれてると思ってたの。というのも、私はミトさんと出会う前からクラムボンが好きで、原田郁子さんの書くものすごくパーソナルな歌詞と、ミトさんの楽曲ががっちり結びついた時の「強固な世界観」というのを楽しんでいたんだけど、でもミトさんの楽曲だけをポンって渡された時に、何かすごく広がりを感じたんです。きっとミトさんも、郁子さんのパーソナルな方向性とは違うことを、自分に求めてるのかなと思って。

ミト:それはあります。岩里さんの言葉の乗せ方って、いつも音節に対してこちらの意図を汲んだど真ん中でありつつ、ちょっと混ぜ込む違和感みたいなものが常に秀逸なんですよ。例えば、COALTAR OF THE DEEPERSの「Dear Future」(2009年)。あの曲っていわゆるシューゲイザーサウンドで、言葉もちょっと浮遊感漂う感じなんだけど、サビの〈悲しみは〉というフレーズのハマりが変なんですよ。普通、そうじゃないだろ? みたいな入れ方をしていて英語っぽく聴こえるし、ちょっと床が抜けたような不安感を覚える。

岩里:「床が抜ける」ね、いい言い回し。使わせてもらおう(笑)。

ミト:いくらでも使ってください(笑)。「Trace」の時も〈一瞬の〉が〈You Should Know〉に聴こえたんだけど、そういうちょっと洋楽のサブリミナル効果みたいな感じ?(笑)。ROCKY CHACKの「Perfect World」(『狼と香辛料』第2期EDテーマ/2009年)もそう。Bメロでいきなり〈ミロのビーナス〉って出てくるじゃないですか。僕、この曲はもちろん『狼と香辛料』自体が原作から大好きだったんだけど、ミロのビーナスって作品と全く関係ないですよね? あの強烈な違和感はサイケを感じましたよ。

岩里:嬉しい。サイケっていわれるとすごく褒められた気がする。でも、自分じゃ「これくらい言葉を入れても大丈夫だ」と思ってやってたんですけどね(笑)。

ミト:この本の中で、(坂本)真綾さんに突っ込んでるじゃないですか、「アニメのテーマとか書くのに、突然アニメとは関係ない素材を真綾さん、よく入れてるけど、よくやるよね」って。「え、マジでそれ岩里さんが言う?」って僕は思った。

岩里:あははは! あそこでミロのビーナスが出てくるのは、「Perfect World」の対極としての「未完成」「不完全」を表したかったの。だから、私の中では全く脈絡がないわけでもないんだけど。

ミト:通常はアニメのエンディングだと、その作品の世界観の余韻の中から言葉を拾い集め、それを紡いでいくものなんですよ。少なくとも僕は、そういう気持ちでエンディングテーマを聴いているから、「Perfect World」を聴いていて本当にビックリしたんですよね。

岩里:今でこそ台本をしっかり読みこんでから作詞に取り掛かるけど、あの頃はまずあらすじをざっくりと聞いて、どの登場人物の関係性を書けばいいのかを決めたのね。それと作品のテーマが合致して、リスナーにどういう共感をもたらすか? を追求していくと、アニメの中に出てくる言葉であろうがなかろうが、私には一切関係なくなるのかも(笑)。でも確かに、そんな自分がよく真綾にあんなこと言ったね。

ミト:そうなんですよ(笑)。

岩里:そういえばヒャダインさんと話したとき、今井美樹さんの「雨にキッスの花束を」という曲の話になったの。これ、本ではカットされてるエピソードなんだけど、あのプロポーズの歌詞が『YAWARA』の主題歌になった時、すごくビックリして(笑)。でも、「あ、そうか。違うテーマでもいいんだ」と思ったわけ。例えば「幸福感」とか、どこか少しでも作品との共通点があれば、かけ離れてる部分の空白はリスナーが想像力で埋めてくれるし、逆に外れていることが「何なんだろう?」という好奇心につながる。そういう「余地を残す」ってことが、歌詞には必要なんだなって思ったんですよね。「それもあって、私はあんまり作品に寄せてないんです」ってヒャダインさんに言ったら、「いやいや、ちゃんと寄せてください」って言われました(笑)。

ミト:でもこの本、あっという間に読めたんですよ。とにかく面白くて。人選は、どんなふうに決めたんですか?

岩里:流れだったり、成り行きだったり(笑)。ただ、森雪之丞さん以外は基本的に一回はお話ししたことのある方たちでした。雪之丞さんは、軽くご挨拶したくらいでずっとニアミスだったんですよね。今井美樹さんと布袋寅泰さんの結婚パーティーでお見かけしたとか。

 でもね、今回5人と対談してみて、いちばん感覚が近いと思ったのは雪之丞さんでした。畏れ多いですけど、もしかしたらすごく近いところにいるのかもしれないって。私の勝手な憶測ですが。音楽を通して歌詞を書いているというか。やっぱりバンドをやっていた人ならではの感性みたいなものを強く感じましたね。

ーー雪之丞さんに「『バンビーナ』で僕が一番好きなフレーズはどれでしょう?」と聞かれて、ズバリ言い当ててましたもんね。

ミト:そうそう。それに、雪之丞さんと会話している時の岩里さんが、一番自分のことを俯瞰しているように思いました。自分の作風が変わったという話をしていましたよね。「キャッチーで強い言葉の歌詞を書け」って言われたけど、それができなくて。そうじゃないところ、日常に転がっている説明がつかないような気持ちを切り取って、それをどうキャッチーに聞かせるかにシフトしたって。

岩里:読み込んでくれてる(笑)。

ミト:もちろんですよ(笑)。あのやり取りは、まさに僕の思う「岩里さんらしさ」がどう形成されたのかを知れた、すごくスリリングな箇所でした。90年代って、キャッチーではなくてもうちょっと俯瞰した視点というか。ひねくれているというのとは別の「ちょっと冷めた視点」ってあったと思うんですよね。

岩里:80年代は、アイドル全盛の時代。とにかくキャッチーだったのが、90年代に入ってアーティストの時代になり、その時に私は今井美樹さんに出会い、雪之丞さんは布袋さんのようなロックアーティストの相棒になったというふうに、2人ともそこで大きく作風が変化したんですよね。

「ミトさんと組むと私の中の「俯瞰の視点」が出てくる」(岩里)

ーー雪之丞さんとの対談で印象的だったのは、岩里さんが「曲先は謎解き」とおっしゃっていたことでした。「例えば、サイケなのかオルタナなのか歌謡ロックなのかとか、その曲を自分なりに解釈・カテゴライズすることで、初めて言葉がそこから立ち上がってくる」と。曲先の場合、曲ができた時点でジャンルは決まっているのかと思ったのですが、そこに歌詞をつけることでジャンルがより明確になるわけですね。

岩里:パンクっぽい言葉、オルタナっぽい言葉というのは、私の中にありますね。雪之丞さんはもう、僕はプログレとグラムだから、と言い切ってらっしゃいますけど。例えばレコード会社のディレクターさんからの注文で、「今回は昭和っぽい歌詞で」みたいな。しかもラスマス・フェイバーの作った曲で。

ミト:ラスマス・フェイバーが作曲している時点で「昭和感」ゼロですよね(笑)。

岩里:そうすると、じゃあ自分の中のどんな世界観の言葉を使えば、自分なりの「昭和」にできるかなって考えるわけです。あの時はプログレっぽくと判断したのかな。そういう風に組み合わせてみたら、自分の中で腑に落ちて。そうすると言葉がどんどん立ち上がってくる。だから、自分だけの秘密のルールとして、例えばミトさんから曲をもらった時も、「よしこれはパンクっぽい歌詞をつけよう」って決めてしまう。曲自体、パンクでも何でもないけど「私自身はパンクのつもりで書く」みたいな。そういうつもりで「曲を自分なりに解釈・カテゴライズする」って言ったんですね。

ミト:高橋久美子さんとの対談はどうでした?

岩里:久美子さんはね、文学の人という感じがしたな。もちろんバンド(チャットモンチー)もやっていたわけだけど、彼女の中で文学の占める割合が大きいなって感じましたね。物語から書き始めるところもそうだし。作詞家としての感性は、私から最も遠いところにいる人だったから逆に面白かったですね。きっと毎日毎日、詩が溢れ出てくるようなタイプなのだと思う。私、溢れないもん。

ミト:「溢れないもん」て(笑)。そんなこと言っていいんですか?

岩里:ほんとそうなの、音楽がないと溢れないんだよ(笑)。曲が来て、それを聴きながら掘り下げて掘り下げて、やっと一つ言葉を見つけるみたいな作業だから。

ーー対談の中で高橋さんが、チャットモンチーの「バースデーケーキの上を歩いて帰った」の歌詞は、環七沿いを寄って歩いているときに、街灯の連なりがロウソクに見えたところから生まれたとおっしゃっていたじゃないですか。それを読んだ時に「この人は詩人なんだな」と思いました。

岩里:そうなの。あのエピソード良かったですよね。

ミト:松井五郎さんとは僕、仕事をさせてもらったことがあって。声優さんが朗読劇をする、松井さん演出の舞台だったんですけど、その朗読の合間に流れる歌モノの楽曲を書かせてもらったんです。その打ち上げの席などでお話ししたんですけど、松井さんって本当に色んな音楽をたくさん聴いているんですよね。かなり新しいものもチェックしてて驚いた。

岩里:松井さんって、歌詞を2時間で書いちゃうから。そのほかの時間にやりたいことがいっぱいあるんだよね、きっと。その時間を使って色んな音楽をチェックしているんだと思う。この間もiTunesのプレイリストを送ってくれたの。TOTOの「99」みたいに数字がタイトルになった曲を、1から100まで集めたプレイリストなの。

ミト:ほんと、好奇心と探究心にあふれた人なんですよね。飲みの席で、僕みたいな若造にもすごく興味を持ってくださって、色々尋ねて来られるんですよ。だけど、リリックはタイムレス。ずーっと作風が変わらない。

岩里:さっき言ったように、私も雪之丞さんもある時点でターニングポイントを迎えるんだけど、松井さんはもうずーっと一貫して同じ手法で書いているように見えるんですよ。しかも、それでいて色んな時代を経てこれまでずっと第一線にいらっしゃるわけで、その不思議さを改めて「すごい人だな」と思いましたね。

ミト:作曲家の場合は音色や使用楽器を変えるなど、いくらでも変化をつけられるけど、作詞の場合はそう上手くいかないじゃないですか。言っても、組み合わせる文字の量なんてたかが知れていて。その組み合わせの中で、よくもこんなに違う世界を作り上げるなって常日頃から思っているんですよね。

 あと、この本を読んだ方はきっと皆さん救われると思う。岩里さんほどの人でも、そこそこダメ出しを食らって、書き直したりしているんだなあって。

岩里:(笑)。でも松井さんも、ボツ曲なんていっぱいあるって言ってたよ。雪之丞さんには怖くて「ダメ出しとかされることあります?」なんて聞けなかったけど(笑)。

ーーミトさんもダメ出しを食らうことはありますか?

ミト:もちろんあります。でも、一番ダメ出しをするのって自分自身なんですよね。どれだけいい曲を書いて、他の人に「いい」って言われても、常に「いやいやいや」っていう自分がいる。「お前、ほんとそれでいいの? 大丈夫って思ってる?」って言われている気分。でも、そのくらい追い込んだ方が、あとあと事故が起こりづらいんですよ(笑)。他からダメ出しされるの嫌いだし、そこからメンタル立て直すのは、何年やってても時間がかかってしまう。最近、ウサギを飼い始めたんですけど、そのくらいメンタル弱いから(笑)。

ーー岩里さんは、自分の武器ってなんだと思ってます?

岩里:えー……なんだろう。松井さんは「エロティックなことを、いかに高尚に伝えるか」って言ってましたよね(笑)。私はやっぱり「人が言葉にできない日常のふとしたニュアンスを、当たり前の言葉で拾う」ことかな。「うつし絵」(新垣結衣)だったり、今井美樹さんの一連の作品だったり。坂本真綾さんの「猫背」もそう。それらは「武器」というより、自分「らしさ」だと思いますね。ただ、「創聖のアクエリオン」を書いてからは、強いエグい歌詞ばかり頼まれるんだよね(笑)。菅野よう子さんに連れていかれた、ケレン味たっぷりな極彩色の世界。

ーーそういう、岩里さんのテーマを体現してくれるパートナーとの出会いも大きいですよね。例えば「日常」路線だったら今井美樹さんや新垣結衣さん、「エグみ」だったら菅野よう子さんのように(笑)。

岩里:菅野さんとは坂本真綾さんの「日常」も書いていますけど、ほんと、それは大きいですね。出会いが一番大事。同じテーマでも、どの作曲家に頼み、どのシンガーと組むかによって全然違ってきますからね。歌詞を書いているのは全部私でも。ミトさんと組むと、私の中の「俯瞰の視点」が出てくるし、今井さんに書くときは日常的なことを書きたくなるし。

ーー岩里さんは、これまで30年以上も作詞家を続けて来られたのは、ご自分ではなぜだと思いますか?

岩里:うーん、Oasisのアルバムで、『Standing on the Shoulder of Giants』(2000年)ってあるじゃないですか。あのタイトルは、これまで音楽を作ってきた先人たちがあって、その影響を受けて自分は「今、ここ」にいるという意味ですよね。でも、自分が作詞家としてキャリアを積み重ねてきた今となっては、新しい人たちからの刺激のおかげで、自分は歌詞が書けているんだなって思えるんです。

 花澤香菜さんの時に、ミトさんや沖井さん、北川さんのようなひと世代下の方と一緒に仕事をして、最近はまた新しい人が出てきて、10代の女の子に詞を書いたりしているわけじゃないですか。私は彼女たちの言葉遣いをそのまま使ったりはしないけど、彼女たちが「新しい言葉」を生み出していくそのパワーに私は大いに刺激を受け、前進させてもらっているのだなと思うんです。

ーーきっと「好奇心」を持ち続けることが大切なんでしょうね。

岩里:そうですね。若い子の話は自分では思いつかない事ばかりで、常に「え、なにそれ面白い!」って思うし。私の息子が発した一言にめちゃめちゃ驚くこともあるし(笑)。全く未知な言葉を使っているわけではなくて、私たちも使っていた言葉が、こんな斬新な形で組み合わさると、こんな面白い響きになるのか! と驚かされる。それが面白くて仕方ないんです。ちょっとした発想で、世界がひっくり返るような……そんな歌詞をこれからも書いていきたいですね。

(取材・文=黒田隆憲/撮影=はぎひさこ)

■書籍情報
『作詞のことば 作詞家どうし、話してみたら』
著者:岩里祐穂
11月28日(水)発売
発行・発売:blueprint
ISBN:978-4-909852-00-7 C0073

価格:2,000円+税
判型・頁:四六判・256頁

全国書店、Amazonで発売中

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