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ドレスコーズ 志磨遼平、『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』を語る 「世界中でずっと愛される理由がわかる」

リアルサウンド

18/7/10(火) 15:35

 国民的キャラクターとして世界中で愛されるムーミン。フィンランドの独立100周年記念作品に指定され、2017年12月に劇場公開された『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』のBlu-ray&DVDが6月27日に発売された。1978年にポーランドで制作されたストップモーション・アニメーションによるTVアニメシリーズを再編集した本作では、ムーミンたちが初めてクリスマスを迎えるまでが描かれる。

 今回リアルサウンド映画部では、アニメーション映画への造詣が深い、ドレスコーズの志磨遼平にインタビューを行った。自身のメンタリティーとムーミン谷が合致したという本作の魅力について、たっぷりと語ってもらった。(編集部)

「国土の背景があるのかなと、想像する楽しさ」

ーー『ムーミン』はさまざまなアニメーションが作られてきた作品ですが、これまで観ていた作品はありますか?

志磨遼平(以下、志磨):幼い頃(1990年頃)にテレビで放送されていた『楽しいムーミン一家』の記憶はあります。でも、キャラクターたちの特徴やなんとなくの設定を覚えている程度で、原作も読んだことがなく、今回この作品を観て初めてその世界観や本質的な魅力を理解しました。スナフキンやリトルミイの印象が日本版のアニメと今回の作品では少し違いましたが、おそらく今回の方が原作に忠実なんでしょうね。フィンランドの冬の寒さはとても厳しくて、ほとんど太陽も出ない日が続く地域もあるそうですから、ムーミントロールたちが冬に畏れを抱き、ひたすらにお日さまが戻ってくる春を待ち望む、という設定にもフィンランドの地域性や文化が背景に感じられて、子供の頃とはまた違った感動がありました。

ーー『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』や『犬ヶ島』など、パペットアニメーションの手法は最近もよく使われていますが、通常のアニメーションとはまた違った魅力があります。

志磨:パペットの画用紙のような暖かい質感がとてもよかった。まずなにより、ムーミンの造形や動作がとにかく可愛いんですよね。日本版のアニメーションも愛嬌のある造形でしたが、パペットアニメーションになるとさらに数段可愛く見えます。ポテポテしたフォルムで、目だけキョロキョロ動いたり、すぐ頬杖をついたり。決して表情があるわけではないのに、ムーミンが落ち込んだり、笑ったりするのがこちらに伝わるのがなんとも不思議で。秋から冬にかけての自然の描写も素晴らしいし、室内の壁紙やカーテンの柄まで可愛いんですよね。

ーー志磨さんはアニメーション作品もよくご覧になっていますが、本作のようなパペットアニメーションはいかがですか。

志磨:ストーリーはひとまず置いたとして、ただ画面を観ているだけでも十分楽しめるでしょうね。色彩や画面構成、細やか表現などにも芸術性があって。本作は1978年に作られた映像を再編集したものだそうですが、「アニメーション」という表現方法はこの時期にひとつの完成を迎えていたんじゃないか、と思うほどの美しさがありました。そもそも「アニメ(Anime)」って、アニマ(anima、ラテン語で「魂、生命」)が語源にありまして、つまりパペットを動かし「魂」を吹き込む、という語源どおりの意味において、最も正しいアニメーションの形であると言えるんじゃないでしょうか。

ーー吹替版では、宮沢りえさんと神田沙也加さんが参加しています。

志磨:神田沙也加さんが担当されている日本語ナレーションの表現も、とても詩的で綺麗なんですよね。「夏の甘い香りはジャムの瓶に閉じ込めました」とか「雪はムーミントロールの夢にも降り注ぎます」とか、ただストーリーを補足・説明する以上の表現が散りばめられていて、とてもよかった。

「不思議と彼らの心の広さに感化されていく」

ーー本作にはたくさんのキャタクターが出てきますが、ムーミン谷の住人たちの“懐の広さ”が印象的です。

志磨:そうですよね。それもフィンランドのお国柄なのかな? 「ごちそうがあるって聞いたんだ。何も食べてなくて」と見知らぬ人が家に勝手に上がりこんできたら、日本人はちょっと戸惑うと思うんですよ(笑)。でも、ムーミンは冬の間の大事な貯蔵をどんどんふるまう。ムーミンパパの水浴び小屋にも勝手に別の人が住み込んでますし、ムーミン谷って結構な治外法権なんですけど(笑)。でも、ムーミンたちは驚きもせずにそのまま受け入れる。

ーー普通に考えたら諍いが起きそうなポイントが無数にあります(笑)。

志磨:冬眠しているパパとママをムーミンが叩き起こしても、「もう! 寝なさい、ムーミン!」とか怒ったりしないんですよね。「おや、起きたのかね」なんて言って、すぐにまた眠って(笑)。

ーームーミン谷の住人は、他者の価値観を絶対に否定しません。だからといって、本作は人種差別的なものに問題を投げかけているような声高な主張があるわけでもなくて。

志磨:多様性と言うにもほどがあるくらい、ムーミン谷には多種多様な生き物たちが自由気ままに生きています。そもそもムーミンが「見えない生き物が……!」とか言ってる時点で「自分も妖精やんけ」っていう(笑)。植物、動物、精霊、いろんな命がなんの軋轢もなく、ただ暮らしている。そして、それが当然のこととして描かれている。人間社会へのメッセージ、なんて意図は微塵も感じないところがまた清々しい。

「描いているのはなんとなく“家族モノ”」

ーー今回の作品には、「クリスマスを迎える」というひとつの大きなテーマがあります。

志磨:誰かに贈り物をすることや、ひたすら楽しみが訪れるのを待つという行為は、極めて文化的で美しい営みだな、と改めて思いました。ムーミンはみんなが「クリスマスさん」という人が来るのを待っている、と勘違いしているわけですが、これはサミュエル・ベケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』を思い出します。目に見えない “クリスマス” が訪れるのを、みんなでそわそわしながら、ひたすら待つ。どうやらプレゼントが必要らしい、と聞いてムーミンは「おひさま」を用意しようと思う。それは自分が今最も欲しいものだから、と。そこになんとも言えない切なさがあるんですよね。待っている間は、部屋の飾り付けでもしながら、あとは穏やかに夢でも見ておこうという感じが、うっすら切なくて美しい。

ーー恐怖を煽って乗り越えさせようと思える展開は随所にあるのに、そういう部分がフラットに描かれているのが独特な作りになっていると感じます。

志磨:いわゆる寓話的な物語だと、ムーミンが恐怖を乗り越え成長するための “装置” として、冬を運んでくる精霊の氷姫やモランを “恐ろしい化け物” のように描くことは容易いんですが、本作はそういう描き方を極力避けて、むしろ誰とも交わることのできない悲しい存在だ、とおしゃまさんに語らせる。彼らの孤独をこちらが取り除いてあげることはできない。全てのものを凍らせてしまうがゆえに焚き火にもあたれないモランの姿にムーミンは同情する。ここらへんが絶妙ですよね。ムーミンの物語が世界中でずっと愛される理由がわかります。

ーームーミン谷の“仲間”や“家族”も、テーマのひとつとして描かれています。

志磨:日本版のアニメタイトルが『楽しいムーミン一家』というくらいですから、ただただ家族の団欒を描くのかと思いきや、例えばおしゃまさんの「家族は選べないからね」っていうセリフだったり、犬のめそめそが兄弟だと思い込んでいたオオカミ達に襲われて落ち込んだり。そんなめそめそを救ったヘムレンさんが「家族とは時に複雑なんだ、離れているほうがいいときもあるさ」と慰めたり。やはりここでも様々な状況を受け入れ、なにも否定しない。これがムーミン谷の哲学なんでしょうね。

ーー“こうあるべきだ”という理想を押し付けてはこないんですよね。

志磨:そうなんです。むしろドライなくらいです。フィリヨンカさんっていう、ずっと誰かのために食事を用意しているのに誰も来ないという孤独なおばさんに、ムーミンは平気で「僕、あの人あんまり好きじゃないんだよね」とか言うんですよね(笑)。でも、結局はそんなフィリヨンカさんも家に招いてみんなで食卓を囲む。そういう一貫した “家族観” があるように思います。それで言うと、ぼくがおかしかったのはヘムレンさんのキャラクターですね。冬眠しているムーミンたちを叩き起こしては「運動はいいぞお!」「さあ、外に出て運動はいかがかな!」しか言わない(笑)。80年代ジャンプのギャグ漫画に出てきそうなマッチョキャラで。

ーー本作を観て、自身の中で何か変化はありました?

志磨:変化というよりは、すごくストレートな共感、納得があったんです。僕はわりと気性が穏やかなので、本作のような童話だったり、児童文学が今でも大好きなんです。「こういうの、たまに観ると心が洗われるよね~」という感じじゃなくて、いまだずっとこういう感覚で生きてしまってるんじゃないかな? という事を実感しました。よく言えばピュア、悪く言えば世間知らず。

ーー志磨さんのメンタリティーとムーミン谷が合致したと。

志磨:はい。ムーミン谷で育ったんじゃないか、っていうぐらいの(笑)。僕は一人っ子で兄弟がいないんですね。だから人格形成の時期に、他者と争ったり、激しい感情をぶつけたりした経験がずっとないまま大人になっちゃって。だから、自分は感情の伝え方がものすごく下手だという自覚があって。近い人からはその性格をよく指摘されるんです。もっとちゃんと正面からぶつかりなよ、隠すほうが失礼だよ、という。

ーードライということですか?

志磨:人に対して激しく怒ったり、ガッカリしたことがないんです。でも、それって裏返せば「期待してない」「無関心」と同じなんじゃないの? と言われると、うーん……と言葉に詰まってしまう。でも、この映画を観ると距離感の測り方にすごく共感して。僕、性格がムーミンなんだな、っていう。なので、僕のように人との付き合い方が少し下手な方にもおすすめしたいですね。

(取材・文=石井達也、撮影=池村隆司)

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