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けやき坂46は“アイドルらしくない”の対極を進む 多様化し、外部とつながるシーンの現在地

リアルサウンド

18/6/29(金) 8:00

「アイドルらしくない」の対極を進むけやき坂46

 欅坂46のアンダーとして活動が始まったけやき坂46が、その支持を一気に拡大している。今年の1月には武道館での3日間公演(もともとは欅坂46のライブだったが急遽変更になったもの)を成功させ、現在行われている全国ツアーも各地で大盛況。この4月から6月にかけては地上波での冠番組が2つ同時に放送されるなど(テレビ東京系『ひらがな推し』、日本テレビ系『KEYABINGO!4ひらがなけやきって何?』)、どのアイドルよりも勢いがあると言って差し支えのない状況になっている。

 これまでもけやき坂46は、すっかりアイドルファンクの金字塔的に受け入れられている「誰よりも高く跳べ!」(欅坂46『二人セゾン』のカップリングとして発表)や杉山勝彦作による美しいメロディに丁寧なボーカルが映える「沈黙した恋人よ」(欅坂46『真っ白なものは汚したくなる』に収録。けやき坂46のメンバー5人によるユニット、りまちゃんちっくの楽曲)など、ファンの間で熱く受け入れられている楽曲を発表してきていた。そんな楽曲も含めて6月20日にリリースされたのが、彼女たちのフルアルバム『走り出す瞬間』である。

 今作の核となっているのはやはり前述した「誰よりも高く跳べ!」「沈黙した恋人よ」だが、他にもギターとストリングスが引っ張るトラックに爽やかな歌が乗る「ひらがなで恋したい」やエレポップテイストの「ハロウィンのカボチャが割れた」などはグループの新たな代名詞となる可能性を秘めているように思う。また、昨今の欅坂46が展開している「大人への反抗」的なメッセージも「こんな整列を誰がさせるのか?」あたりに散りばめられているが、現時点ではあくまでも表現手法の一つにとどまっている。この先グループとしてどういう舵取りをしていくのかはまだわからないが、現時点では多様な表現がバランスよく配置されているように思える。

 「反抗」的メッセージを強め、そのシンボルに平手友梨奈を配し、ある意味で平手に依存するような構造になっている(それゆえ「平手不在」の今の状況がことさら不安定に見える)欅坂46と比べると、「欅坂46が先鋭化していく中で置いてきぼりになってきたものが、けやき坂46にはある」と言えるだろう。

 平手を「ロックな存在」「反抗の象徴」といった形で持ち上げ続けてきた欅坂46の構造は、ある意味ではここ数年のアイドルシーンのあり方を象徴している。いわゆる「アイドル戦国時代」以降のアイドルシーンは、AKB48をとりまく「恋愛禁止」「大人によって作られた存在」というパブリックイメージからいかに距離をとるか、端的に言ってしまえば「耳目を引く変わったことをいかにやるか」という競争によって駆動してきた。

 そんな状況だからこそ、けやき坂46のやっている「ギミックや過剰なメッセージ性に頼らない」「ど真ん中のポップソングをストレートに歌い踊る」というこねくり回さないスタイルが、余計に輝きを放つ(「ひらがなで恋したい」の〈単純で明快なひらがなで恋したい〉という歌詞は、グループのスタンスをストレートに表すメッセージとなっていると言えるだろう)。数多のアイドルが「アイドルらしくないアイドル」を目指している現状において、けやき坂46のようなアイドルが「逆に異色」なものとして支持を集めるという不思議な状況が生まれつつある。

循環し、外部とつながるアイドルシーン

 「AKB48のパブリックイメージからいかに距離をとるか」という競争がアイドルシーンを駆動するという話に触れたが、AKB48の「身内」でもある「坂道シリーズ」の活動スタイルも基本的にはその原理をベースに組み立てられている。

 女性誌のモデルを務めるようなメンバーを多数揃えるなど、ビジュアルでの分かりやすい訴求力を持つ乃木坂46がAKB48を上回るレベルで人気を獲得し、欅坂46はその流れへの「反動」としてよりレジスタンスとしてのイメージを強調する。そこに対してもう一度「正当なアイドル」という存在を打ち立てようとしているのが現時点でのけやき坂46である。また、「坂道シリーズ」ではないが、AKB48の持つ「残酷ショー」的側面をさらに強めたコンテンツとしてラストアイドルも進行している。

 AKB48という強烈な磁場を起点に、アイドルシーンには様々な流れが生まれてきた。「アイドル戦国時代」と呼ばれた混沌した時期を経て、ももいろクローバーZの定着やBABYMETALのモンスターアクト化など、アイドルシーンの枠にとらわれない大きな存在も多数生まれた。2010年代初頭に、現状のシーンのあり方を予期できた人は少ないのではないだろうか。

 アイドルシーンの変遷で個人的に興味深いのが、いわゆる「楽曲派」といった言葉で呼ばれるムーブメントのあり方である。「アイドルなのに楽曲のセンスが良い」といった視点からアイドルの音楽的チャレンジを評価する流れ(そこにはちょっとした偏見も含まれているのもまた事実である)は、様々なタイプの音楽ファンをアイドルシーンに引き寄せてきた。

 「アイドル戦国時代」といった言葉がまだ機能していた10年代初頭において、この流れの中で評価されていたのは主に「構築されたポップさ」を表現するアイドルだった。精緻に作られたダンスミュージックをうまくアイドルポップスと融合させた東京女子流『鼓動の秘密』『Limited addiction』、「渋谷系」的な意匠を巧みに解釈したNegicco『Melody Palette』、90年代オマージュをふんだんに取り入れたTomato n’Pine『PS4U』など、今聴いても十分に魅力的な作品が複数生まれたのがこの時期である。

 どちらかというと「ポップ一辺倒」な雰囲気もあった10年代初頭に比べると、今の「音楽的なこだわりを持ったアイドル」のあり方はより多様化している。さらに表現を熟成させているNegiccoやソウルミュージックをうまく落とし込んだフィロソフィーのダンスなどこれまでの流れを踏襲するアイドルも存在する一方で、BiSHに代表されるエモ的なライン、Masion book girlやsora tob sakanaといったポストロック的なアプローチも浸透してきた。「アイドルというフォーマットの下で様々なタイプの音楽性が花開いている」という言い古された言葉が改めて意味を持つような状況が、アイドルブームがある程度収束した2018年時点において生まれている。

 こういった流れは、アイドルシーンの外側ともリンクしている。ブラックミュージック的なサウンドが「シティポップ」として持て囃されるよりも先にアイドルシーンではそういった音楽性が局地的には支持を集めていたし、ラウドなロックバンドが大きな人気を博す昨今の流れはBiSHの人気とつながっているはずである。一部の音楽ファンからは何かと嫌悪の対象とされがちな「アイドルシーン」だが、このシーンも「音楽シーンの一部」に他ならない。

アイドルとフェス、そして「当たり前のもの」になるアイドル

 ここまで名前を挙げてきた欅坂46、Negicco、BiSH、Masion book girl、sora tob sakanaは今年5月にさいたまスーパーアリーナで開催されたアイドルフェス・ビバラポップ!にも出演していた。プレゼンターを務めたピエール中野と大森靖子の顔がはっきりと見える趣味性の高いアイドルフェスのあり方は、TIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)、@JAMなどとはまた違ったフェスの可能性を提示してくれた。

 ここ数年のロックシーンでは「フェス」というものが一つのキーワードになっていた。そしてその状況はアイドルシーンにおいても同様である。

 特に大きな話題を呼んだのが2013年のROCK IN JAPAN FESTIVALへの女性アイドルの大量出演で、ロックフェスとアイドルの関係性についてさまざまな議論が巻き起こった。

 この企画は必ずしもうまくいったとは言い難く、翌年の2014年を最後にあっさり幕引きとなっている。一方で、2013年に数あるアイドルの1組としてROCK IN JAPAN FESTIVAに参加していたBABYMETALがその後、FUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、RISING SUN ROCK FESTIVALも含めた4大フェス全てに出演することになるなど、アイドルグループが特に注釈なくロックフェスにブッキングされるケースが増えていった。

 今年のひたちなかでは、そんな流れがさらに進行している。48/46グループ、ハロー!プロジェクト、スターダスト、WACKの主要どころがずらりと並ぶタイムテーブルは、かつてのように「アイドル枠」とでも言うべき言い訳をつけなくてもアイドルグループがナチュラルにロックフェスに出演する時代になったということを明確に伝えている。

 かつては「メインの音楽シーンの外で盛り上がっているもの」として認識されていたふしもあったアイドルシーンは、今では音楽シーンの内側にはっきりとしたポジションを獲得するに至った。「アイドルだからどうこう」という話ではなく、「いい曲を歌っているのがたまたまアイドルだった」「フェスで人気のあるアクトがたまたまアイドルだった」という時代にいよいよ突入しつつある。音楽シーンにおける「当たり前のもの」として定着したアイドルというフォーマットから、この先どんなユニークな表現が生まれるのか非常に楽しみである。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題になり、2013年春から外部媒体への寄稿を開始。2017年12月に初の単著『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』を上梓。

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