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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

グスタフ・クリムト《ベートーヴェン・フリーズ(原寸大複製)》(部分) Belvedere, Vienna

第10回

現代日本を泳ぐ気鋭のクリエイターに聞く「現代クリムト講座」

音楽とクリムトは、自由に連なる

特集

19/5/4(土)

現代クリムト講座の最終回は、クリムトと音楽について考察します。『クリムト展』の注目展示《ベートーヴェン・フリーズ》の複製やグスタフ・マーラーの描写など、クリムトと音楽の関連は多く見られます。19世紀末から現代へ、美術から音楽へ。境界を超えて広がる解釈を試みます。

文=田尾圭一郎(ライター)

ウィーン中心街からバスで30分ほど北上すると、ハイリゲンシュタットという穏やかな郊外に着く。クラシック音楽が好きな人にとっては聖地(と勝手にぼくは思っている)とも言える場所で、ある数ヶ月間、ベートーヴェンはここで静養していた。散歩をしては小川のせせらぎや鳥のさえずりに身を預け、代表曲のひとつである交響曲第6番「田園」を着想し、そして難聴に苦しみ、有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた、まさに彼にとっては創造と死をぐちゃぐちゃに混ぜたような混沌の町である。

時間軸で言うと、ベートーヴェンがハイリゲンシュタットで遺書を書いたのが1802年で、クリムトの活躍するウィーン世紀末 ── つまり1900年前後 ── と約100年の開きがある。クリムトが初代代表を務めたウィーン分離派(セセッション)は、1902年にベートーヴェンをテーマにした展覧会を企画。そこで彼は壁画《ベートーヴェン・フリーズ》を出品した。本作はベートーヴェンの交響曲第9番「歓喜の歌」にオマージュを捧げており、全4楽章のストーリーを3面の壁画で表現している(今回開催される「クリムト展」ではその精巧な複製が展示されている。複製だからと言って舐めるなかれ、視野を囲むその歓喜の説話と荘厳な物質性は、あり余って私たちに訴えかける)。

カール・モル《ハイリゲンシュタットからヌスベルクを望む》 Belvedere, Vienna

音楽の関連で続けると、『クリムト展』ではアルマ・マーラーの肖像写真が展示されている。ウィーン宮廷歌劇場の同時期の芸術監督であり偉大な作曲家・指揮者のひとりでもあるグスタフ・マーラーの妻だ。アルマは当時ファム・ファタル(これもまた、クリムトが何度も取り組んできた重要なテーマである)と呼ぶにふさわしい魅惑的な恋多き女性で、クリムトも彼女に近づいたことがあった。グスタフ・マーラーは結婚後もアルマに振り回され、その苦しみは楽曲にも多く表現されている。映画『ヴェニスに死す』(1971年)で用いられたことで知られている交響曲第5番第4楽章はアルマに向けた彼のラブソングであり、最低音に向け下降するコントラバスと高音楽器のメロディーが相まみえる頂点は、まさに混濁する愛憎を表現しており、ウィーン世紀末らしい爛熟を示している。