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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

Ken Yokoyamaは今またバンドを始めようとしている 覚悟と喜びに溢れた『New Age Tour』

リアルサウンド

19/4/8(月) 18:00

 長らくKen Yokoyamaを見てきたなと思った。初ライブに始まり、初代ギターの最後となった第一回の日本武道館があり、そのあとMinamiお披露目ツアーもあった。初代ベースのさよならツアーと、Jun Gray加入後の音の引き締まり方。震災の直前だったドラムMatchanの加入。二度目の武道館公演はもう3年前になるのか。とめどない記憶の中で、生々しく浮かぶのはMatchanお別れ公演となった昨年末の新木場スタジオコーストだ。レポートにも書いたけれど、大きな出来事のたびに自分の変化と直面し、揺れ動く感情をステージで露わにしてきた横山健のこと。今回は何が起こるのか。期待と緊張の混じり合う気持ちで恵比寿リキッドルームに向かう。

 まずはBURLのステージ。昨年夏からPIZZA OF DEATH所属になったとはいえ、レーベル気鋭の若手とは言い難い、20年超えのキャリアを持つ大阪の4人組である。サウンドはRamonesやThe ClashやSham 69なんかを思い出す、名曲のオマージュが随所に出てくる初期パンク見本市。だがそれでオッケー、いやこれが最高でしょ! とはしゃいでしまえるのは、プレイヤーのエゴや野心よりもパンクリスナーとしての愛とプライドが勝っているからだ。初見の客も相当数いたはずなのに、フロアとの距離が最初からめちゃくちゃ近い。さすがは手練のベテラン。たった30分のステージでもフロアの暖まり方は万全だった。

 そしてKen Band。1曲目は2ndアルバム『Nothin’ But Sausage』のオープニングを飾る「Cherry Blossoms」だ。同じKen Yokoyama名義とはいえ、ファーストはあくまで個人の手記。固定メンバーと共にKen Bandが転がり出したのはセカンド以降なので、この曲は改めての、そして何度目かの「この4人で行くぞ」宣言と取るべきだろう。

 いや、あるいは単純にそういう季節の歌だから? たまたまそんな気分だっただけ? 勝手な深読みがだんだん無意味に思えてくるのは、新ドラマーEijiが驚くほどバンドに馴染んでいるからだった。もちろん緊張感はある。4人ともビシッと漲っている。けれどハラハラさせる要素が皆無。3曲目の「Maybe Maybe」は近年安定の定番曲だから違和感があれば浮き彫りになるところだが、そういうの、まったくゼロ。全開のいい空気しか感じないのである。

 曲が終わるたびに親指を立てて笑顔になる横山と、スティックを高く掲げて客に応えるEiji。その様子見るだけでなんだか嬉しそうなMinamiとJun Gray。もうこれ、普通にいいバンドじゃないか。その認識を共有したファンのノリは、次第に砕けたものになっていく。曲間には「雰囲気いいねぇー!」「仕上がってるー!」の声が上がり、ガヤの達人みたいなオヤジが話を下ネタ方向に持っていこうとする。それを横山はまともに受け、書くのも憚られるようなエロ話が延々と続くのだ。呆れ顔になるMinamiも含めて、まったく普段どおりのKen Band。もちろんお披露目ツアーの前半戦で「まったく普段どおり」は全然普通のことではないのだが、なにぶん初めてなので、まだ慣れていませんので、というエクスキューズを、4人は一切ナシにすると決めているようだ。

 よくよく考えてみれば納得できる。新ドラマーの発表は昨年末だが、『Songs Of The Living Dead』が完成した9月の時点でEijiの加入はすでに決まっていた。Matchan最後のツアーに心を砕く一方で、新体制のリハーサルは何度も繰り返されてきたはずだ。そしてまた、彼はFACTの一員として海外ツアーや大型フェスを経験してきたプロフェッショナル。大きくなりすぎたバンドが空中分解する辛さも体験してきた人間である。他の3人とは一回り年下で経験値も低かったMatchanとは精神的余裕が違うのかもしれない。Eijiのリクエスト曲だという「Not Fooling Anyone」の、ゆったりしたリズムが心地よく響き渡る。

 過去曲だけを練習してきたわけじゃないと言いながら、まっさらな新曲をさらりと披露した時は、どんだけ余裕なのかと驚いた。「Runaway With Me」と名付けられたそれは、横山ひとりの歌唱とギターから始まり、一気にツービートで加速していくメロディックパンクナンバー。前のアルバムではロカビリーやスカといった新境地が一気に増えたが、この曲に関してはKen Bandのスタンダードに近い印象だ。歌詞の意味を何度も説明していたから、サウンドの幅よりもメッセージの中身がいまは重要なのかもしれない。中盤、もうひとつの未発表新曲「Helpless Romantic」もプレイされたが、サビはぜひとも唱和してくれと演奏前に何度も練習させていたシーンがとても印象的だった。

 日本では洋楽リスナーの大半も案外「英語だから意味はよくわからない」と言ったりするもので、一緒に歌ってくれ、歌詞の内容を理解してくれと繰り返す横山は、確かにロマンチックな思想の持ち主だ。わかりあえると夢見るだけでなく、伝わると信じて何度も練習させるのだから、さながら“現実主義のBeliever”といったところか。自分の今を歌うだけなら、ここまでしなくてもいい。自分の気持ち、自分のメッセージは、人の手にしっかり渡さなきゃ意味がない。そういう彼の考え方が、後半のセットリストに色濃く表れていた。

 日の丸を背負いながら演奏された「Support Your Local」「Ricky Punks III」。震災後のメッセージだった歌は、「普段から誰かのことを助けようともしないヤツは、困った時に誰かに助けてもらえるわけがないんだよ」という厳しい言葉と共に、日々の生き方や処し方の歌に変わっていた。震災を特別視しなくなったのではなく、日々の生活や仲間のことを本気で特別視しているのだろう。なぜなら、誰もがいつかは消えてしまうから。その実感を込めたNo Use for a Nameのカバーが特に染みたし、「Let The Beat Carry On」の前に放たれた「若いヤツら、Ken Bandがいなくなったらちゃんと引き継いで、繋いでくれよな!」というMCもたまらなかった。終わりを知っているのだ。ボンヤリとしたイメージを超えて、リアルな実感を伴う終わりを何度も見てきた。そのうえで、この4人は、今またKen Yokoyamaを始めようとしている。

 今のところツアーは最高の状態だと報告し、横山は「オレはこれで最低10年は(Ken Bandを)できると思ったね」と笑っていた。言い換えれば、残り時間を何度も考えたのだろう。年齢や体力だけの話ではない。バンドの崩壊は全員が過去に経験しているし、Matchanの離脱だって痛みを伴う終わり方だった。もう中途半端は嫌だ。やるなら全部をやりきりたい。横山がコラムで触れていたように、このツアーからアンコールがナシになったのも根源は同じだと思う。

 もちろん、これが最後だと打ち震えるような悲愴感は全然なくて、むしろ演奏シーン以外はほとんどくだらない冗談が続いた。ただ、力強い笑顔の溢れるステージには、やりきる覚悟と、そういうバンドがまた始まる喜びが溢れていた。ガラにもなく感謝の気持ちを込めてやる、との宣言から始まったラスト直前の「Punk Rock Dream」。帰宅後に改めて和訳を熟読してびっくりした。あぁ、これは今のKen Bandの歌じゃないか! 物語は続く。感謝と共に、この先が続いていくのだ。

(文=石井恵梨子/写真=Teppei Kishida)

Ken Yokoyama オフィシャルサイト

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