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いま、最高の一本に出会える

異例のヒット『新聞記者』を巡る三つの違和感

リアルサウンド

19/7/10(水) 17:00

 先週末の映画動員ランキングは、『アラジン』が土日2日間で動員46万8000人、興収6億9900万円をあげ5週連続トップに。公開から31日目となる7月7日(日)の時点で動員598万6400人、興収85億6043万500円。今後、『トイ・ストーリー4』(7月12日公開)、『ライオン・キング』(8月9日公開)と同じディズニー配給による有力作品の公開も控えているが、興収100億円突破は確実な情勢だ。

参考:松坂桃李の挑戦は続くーー『パーフェクトワールド』や『新聞記者』などで見せる30代の勇姿

 今回取り上げるのは、前週の10位から8位へとランクアップした『新聞記者』。ランキング上の上昇だけでなく、公開初週の週末3日間と2週目の週末3日間の対比でも、動員で102.9%、興収で104.1%と前週を上回っていて、7月8日(月)までの11日間で早くも興収2億円を突破している。143スクリーンでスタートした小~中規模公開作品であることをふまえると、これは異例のヒットである。

 興行的な観点からまず注目したいのは、その公開時期だ。プロデューサーの河村光庸氏は、参院選目前のタイミングで本作を公開した理由について訊かれて、「政治の季節をもちろん意識しています。たくさんの人に見てもらいたいので、参院選を狙いました」(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/257085)と明言している。政治的イシューを扱った作品を選挙の時期を見据えて公開するのは、例えばマイケル・ムーア監督の『華氏911』(2004年)や『華氏119』(2018年)でもとられた手法で、単に多くの動員を狙えるだけでなく、それがプロパガンダとしても有権者にダイレクトな影響を与えるという二重のメリットがある。今回の『新聞記者』のヒットはその狙いが見事に「当たった」わけで、そのこと自体は日本の映画興行に新風を巻き起こした快挙と言っていいだろう。

 『新聞記者』を巡っては、作り手や作品を手放しで称賛する声も映画業界内から上がっているが、そこでは製作の背景や志に関するものと、作品そのものに関するものが混在しているように見受けられる。それを踏まえて、ここでは三つの違和感を提示したい。以下は、『新聞記者』を取り巻く現在の状況に水を差すものではなく、より活発な議論を促したいという意図によるものだ。

 一つは、ノンフィクションからフィクションへと境界線を超えた、作品の成り立ちに関して。本作は東京・中日新聞社会部の望月衣塑子記者の新書『新聞記者』を「原案」としているが、映画化にあたって主人公の設定や具体的な事件はすべてフィクション化されている。そのこと自体は、映画の一つのあり方として否定されるものではないし、そうせざるを得なかった様々な事情があったことは関係者のインタビューなどからも推測できる。過去の日本映画にも、滝田洋二郎監督、内田裕也脚本・主演による『コミック雑誌なんかいらない!』のようにその当時の時事トピックを虚実ない交ぜに盛り込んだ作品があって、そこには映画という本質的に「いかがわしい」アートフォームならではの魅力があった。ノンフィクションからフィクションへと大胆な変質を遂げている以上、本作『新聞記者』にもそのような側面はあるわけだが、本作を取り巻く(作り手側、受け手側双方の)言説の多くは、その作品の成り立ちに由来する「いかがわしさ」に関してあまりにも無自覚、無頓着であるように思える。

 その「いかがわしさ」への無自覚さ、無頓着さは、作品自体の「脇の甘さ」にも影響している。本コラムは作品の批評が目的ではなく、あくまでも興行の分析を目的としているので内容に関しては深く掘り下げないが、複数の「現実の出来事を連想させる事件」が、同じく複数の「あり得ない設定」に放り込まれていることで、前者に焦点を定めて観るか、後者に焦点を定めて観るかで、作品全体の印象が大きく異なってくる。ノンフィクション的な凄みを持ったフィクションという線を狙うのであるならば、フィクションとしての完成度(脚本だけでなく、例えば内閣情報調査室などの美術においても)にもっと配慮すべきだというのが、後者にどうしても焦点が定まってしまった一人の観客としての自分の意見だ。

 最後に。本作を巡っては、製作の過程において作品から降りた制作プロダクション、監督候補、出演者候補の存在や名前が、公式、非公式の情報源を問わず多く出回っている現状がある。本来、政権批判を扱った作品が「デリケートな作品」とされること自体が問題視されるべきではあるものの、そのような情報も本作の宣伝に一役買っていることは間違いない。特に候補となっていたとされる俳優に関しては、仮に本当に出演を断ったのだとしても、それが政治的配慮によるものなのか、スケジュールやギャランティーの問題であるのか、あるいはまったく別の理由によるものなのか、外部からはわかりようがないことだ。これはどんな記事でもそれを容易に信じてしまう読者の問題でもあるわけだが、フェイクニュースを扱った作品がフェイクまがいのニュースの発信源になっているところにも、本作の「脇の甘さ」が表れているのではないか。(宇野維正)

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