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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

生駒里奈の写真集「君の足跡」(幻冬社刊)より。

音楽シーンを撮り続ける人々 第11回 ステージでは見られない魅力を引き出す青山裕企

ナタリー

19/7/2(火) 17:00

アーティストを撮り続けるフォトグラファーに幼少期から現在に至るまでの話を伺う本連載。第11回はAKB48や乃木坂46などアイドルのCDジャケットやポートレート撮影を中心に活躍する青山裕企に登場してもらった。

失恋で始めた日本縦断

学生時代は“ガリ勉”と呼ばれていました。人見知りで運動も苦手だったし、勉強ばかりしていたので。学生時代って足が速かったり面白かったり、クラスの中心にいる人がモテるじゃないですか。僕はそれとは正反対。休み時間はノートに自作のゲームを書いて目立たない男子同士で遊んでいるようなタイプで、女の子にも話しかけられなくて……コンプレックスばかり感じていました。

カメラを持ち始めたのは大学時代、きっかけは……失恋ですね。出身は名古屋なのですが、大学は人見知りな自分を変えるため、知り合いがいない関東の大学に進学したんです。一浪しているんですが、現役のときに受験の下見でキャンパスに行って、そこで同じ受験生の女の子に一目惚れして(笑)。試験の日、たまたま同じ教室にその子がいたから試験のあとに勇気を振り絞って連絡先を交換したんです。結局僕は落ちてその子は合格して、1年間文通しました。翌年その大学に合格して、同じキャンパスに通うことになったわけなんですが、入学直後の4月に廊下で見かけてしまうんですよ。彼女が男の子と一緒に歩いているのを。ショックでその場から走り去って、授業にすら行かずに引きこもるようになったんです。

引きこもっている間は本ばかり読んでいたんですが、その中で自転車旅行を勧める本に出会ったんです。「これだ」と思って、休学して自転車で日本を縦断することを決めました。自分の足でペダルをこいで縦断することで、運動音痴コンプレックスを克服したかったし、自信を付けたくて。その旅でそれまでカメラに興味はなかったのに、写真を撮るようになったんです。

ジャンプの自撮りでアイデンティティを確立

旅をしていると自然の景色に感動することがたくさんあって、なんとかその気持ちを記憶しておきたくて撮り始めました。でも持っていたコンパクトカメラではその感動を全然写すことができなかった。「写真って見たものがそのまま写るわけではないんだ」と思いましたね。ある日、旅先で仲良くなった人が一眼レフカメラで撮った写真を見せてくれて。僕が撮ったものと出来がまったく違い、「一眼レフなら見たまま写せるんだ!」と感心したんです。で、すぐ一眼レフを買いました。

一眼レフを買ってからは旅の道中でも写真をたくさん撮ったし、復学してからも撮り続けました。でも人見知りなので、人にモデルを頼めないから自分ばかり撮っていたんですよ。1人で京都の清水寺とか沖縄の海とかいろんなところに行ってセルフタイマーで撮影して。当たり前ですけど、そうやって撮った写真に写ってるのはただ冴えない自分が立ってる姿。それもつまらないから、あるとき思い切ってジャンプしてみたんです。それが面白い写真になって、それからいろんなところで自分が跳んでいる写真を撮りました。それをクラスメイトに見せたら「俺も跳びたい」「私も跳びたい」と頼まれるようになって、いろんな人の写真が撮れるようになったんです。

旅を終え復学してからは部屋に暗室を作って写真を焼いて、それを路上や学園祭で販売したり。それまで部活も真剣にやったことがなく、初めて自分の情熱を注げたのが写真でした。20年前の当時は今みたいにスマホで写真を撮れる時代じゃなかったので、“写真が撮れる”というのはアイデンティティになったし、キャラとして成立しました。その頃からようやくカメラを通してなら女性ともコミュニケーションをとれるようになって、今の人生がスタートしたという感じですね(笑)。

制服の女の子を撮る作品が仕事に

写真家の道に進むことを決心するまではすごく苦悩したんです。これだけ情熱を注げるものを仕事にしたら、好きに撮れなくなるんじゃないかって。再び休学して1人で世界を旅しながら自分探しをする中で、全然写真が撮れなくなったり、海外で引きこもりになったりしながら、世界2周目の道中でやっと「好きな写真を好きなように撮っていこう」と思えるようになりました。

卒業後は誰かに弟子入りするでもスタジオに入るでもなく、すぐフリーランスの写真家を名乗り始めたんです。コネはないし、積極的に自分を売り込んだり、営業に出るのは苦手だったので、とんとん拍子にはいきません。なんとか自分なりのアピール方法を考えて、自作のパンフレットを編集部に送ったり、会う人会う人に渡していったり。当時SNSで運営していた小沢健二さんのファンコミュニティでオフ会を開いて、そこで自分の作品を見せたりもしましたね。趣味が合う人は話も合うし、感性も近かったりするのでそこから仕事につながることもありました。

特に“モテない学生時代の自分が、教室の隅から遠くの女子学生を見てる”という目線で撮る「スクールガール・コンプレックス」と、サラリーマンがジャンプしている写真を撮る「ソラリーマン」という2つの作品の写真展は当時から定期的に開催していました。それが徐々に知られるようになり、オファーがくるようになったんです。駆け出しの頃は音楽や舞台のライブカメラマンもやっていたんですけど、今はCDジャケットや写真集、グラビアの仕事がメインになりました。作品のメインテーマとして撮ってきた制服の女の子やジャンプ写真を評価してもらって仕事につながっています。

アイドルの仕事がたくさんくるようになったきっかけは、指原莉乃さんです。指原さんが19歳のときに、彼女にとって初めてのフォトブック「さしこ」の撮影を担当しました。今はもう押しも押されもせぬタレントですが、当時は総選挙で1位になる前で、「私なんて」とよく自虐的に言ってましたけど、未完成だからこその魅力がありましたね。写真の中に僕の色も出すことができました。その後、指原さんのつながりでHKT48のCDジャケットを撮影したり、今でも48グループや坂道グループとはかなりご一緒しているので、転機になった仕事でもあります。

熱意のつぶやきで生駒里奈の写真集を実現

これまでの写真家人生で一番印象に残っている仕事は、乃木坂46で初期からセンターをやっていた生駒里奈さんの写真集を撮ったことですね。初めて彼女を見たのは確かデビュー時のCMだったと思うんですが、すごくドキッとしたんです。昔からショートヘアの子が好きでして(笑)。アイドルを見て「この人を撮りたい」と思うことはこれまでそんなになかったんですが、ひと目見ただけで「撮りたい」と思いました。そうしたら偶然雑誌のグラビアで生駒さんを撮影する機会があって、それからも何回かご一緒して。当時は生駒さん本人が「写真集を出したいけど、私は無理だろう」とよくインタビューなどで言っていて。

だんだん僕も「絶対に自分が生駒さんの写真集を撮りたい、撮らなかったら後悔する」と思い始めて、Twitterでずっと「生駒さんの写真集を撮るなら私しかいない」とつぶやき続けたんです。そのうちファンの方も盛り上がってきて、徐々にそのツイートが認知されて。ツイートを見たファンの方が幻冬社の見城徹さんや秋元康さんに「生駒ちゃんの写真集を作ってください、青山裕企が撮ると言っています」と伝えてくれたおかげで、本当に生駒さんの写真集を僕が撮影して出すことになったんですよ。だからこの写真集は自分の表現したいことと生駒さんがやりたいこと、すべてを注いで作りました。そんな生駒さんも去年卒業されて、ちょっと抜け殻状態の時期もあったんですが(笑)。

CDジャケットは“共同作業感”が面白い

僕はもともとアイドルにハマっていたわけではなく、学生時代はラジオを録音していろんな曲を自分の好みに編集したり、「今週のTOP10」予想をしたりするくらいJ-POPが大好きだったんです。写真家になりたての頃からずっとCDジャケットの撮影をしたいと思っていて。スピッツやaikoのジャケット写真に憧れたし、好きな楽曲に合わせた自分なりのジャケット写真を撮ってみたりということもしていたんです。だから今音楽の仕事に携われているのはとてもうれしいです。

雑誌のグラビアは、実は自由度がすごく高くてこちらからアイデアをどんどん出せる。一方広告は、あらかじめビジュアルが決められていて、それをいかに具体化できるかという仕事なんです。CDジャケットはその間くらいで、イメージはありながら打ち合わせの段階で僕からもアイデアを出して、アーティストの意見もかなり生かされているので、“チームで作る共同作業”感があって、仕事として面白いです。作品で制服の女の子を撮っていたことから「制服を撮らせるなら青山」みたいなイメージでオファーをいただくようになったと思うんですけど、実はもっとバンドも撮りたいし、これからも音楽の仕事はたくさんしていきたいんです。でも本来の仕事は依頼されたものを撮るというのが基本的な姿勢なので、生駒さんの写真集のような例は今までにないし、そして今後もそうないであろうパターンなんです。最近は少しずつ男性を撮ることも増えてきたとはいえ、僕はもう駆け出しの新人ではなく固まったイメージを持たれているので、撮りたいからと言って突然ロックバンドのCDジャケットの依頼がたくさん舞い込むことはないと思いますが、積み上げたものを大切にしつつもそこに甘んじず、少しずつ仕事の幅を広げていきたいですね。

僕の仕事は、音楽やダンスなどの表現者であるアーティストの魅力を写真で表現すること、CDジャケットだったらその楽曲のイメージが伝わる写真を撮影することだと思うんです。実際アーティストが一番輝いている瞬間って、やっぱりライブなどパフォーマンスをしているときだと思うんです。だからステージ上とはまた違った新しい魅力をどうやって引き出していくかを考える。難しいことですが、とてもやりがいのある仕事だと思っています。

青山裕企

1978年、愛知県名古屋市生まれ。筑波大学人間学類心理学専攻卒業。2007年 にキヤノン写真新世紀優秀賞受賞。東京都在住。作品「ソラリーマン」「スクールガール・コンプレックス」など、サラリーマンや女子学生など“日本社会における記号的な存在”をモチーフにしながら、自分自身の思春期観や父親像などを反映させた作品を制作している。吉高由里子・指原莉乃・生駒里奈・オリエンタルラジオなど、時代のアイコンとなる女優・アイドル・タレントの写真集の撮影を担当している。真空ホロウ、SCANDAL、HKT48、koma'n、GReeeeN、花澤香菜などのCDジャケット撮影、MV「無気力スイッチ(さよならポニーテール)」なども手がけている。

※記事初出時、キャプションの写真集タイトルに誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

取材・文・撮影 / 原智香 ヘッダ画像提供 / 幻冬舎

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