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Suchmos、新作『THE ANYMAL』サウンドの大きな変化 音楽シーンに一石を投じる作品に

リアルサウンド

19/3/21(木) 21:00

 Suchmosの新作『THE ANYMAL』はかなりの問題作だ。特にこれまで彼らの音楽を聴いてきた人にとっては、「変わった」というような言葉では物足りないくらいの大きな変化がある。

 前作フルアルバム『THE KIDS』は大ヒットした「STAY TUNE」に代表されるようなUSのソウルやファンクの影響を消化して作られた音楽からの影響を感じた。メディアでジャミロクワイの名前がたびたび引き合いに出されていたが、スティーヴィー・ワンダーなどのニューソウルを引用しつつ、90年代のUKのクラブシーンの雰囲気を加えたジャミロクワイのサウンドはたしかにこの時期のSuchmosの影響源そのものと言った印象だった。とはいえ、ただの90年代の引用ではなく、リズムやハーモニーにはディアンジェロ的なネオソウルをアップデートした、ホセ・ジェイムズあたりの感覚が入っていたことで2010年代のサウンドになっていた。「STAY TUNE」をはじめとした楽曲には90年代だけでなく、80年代的なサウンドが感じられたのも、近年の80年代リバイバルを意識したものだろう。ディスコやAORやブラコン的なブラックミュージックの影響と近年のサウンドとの接点が聴こえていた。それは1stアルバムの『THE BAY』の延長線上にあるものだった。

 というイメージで新作『THE ANYMAL』を聴いたら、あまりの変化にびっくりしてしまった。“転向”と言われても仕方がないくらいに、もはや別のバンドなのかと思うほどに音楽性が変わっている。

 再生すると冒頭から前作とあまりに雰囲気が異なっていて戸惑うのだが、僕が感じたもっとも顕著な変化は、サウンドの質感がこれまでの彼らのイメージだった80年代や90年代のものではなく、60年代や70年代初頭のものだったことだ。冒頭の「WATER」からずいぶんレイドバックしていて、これまでのアーバンな感覚はなく、どこかドロッとザラッとしていて土臭い。そこから「ROLL CALL」を聴いてみると、さらにびっくりする。冒頭からひずみまくったベースラインに、サイケデリックなエフェクト、これもまたこれまでの彼らとは全く異なるイメージの60年代や70年代的なロックサウンドだった。

 そこで少し前に出たEP『THE ASHTRAY』を聴いてみると、薄っすらその予兆はあることはわかった。ほとんどの曲はこれまでの彼らのサウンドの延長にあるものだったが、「VOLT-AGE」にはロック的なビートと暴力的な音色のベースラインとが走っていて、サイケデリックなエフェクトが施されていた。たしかにここですでに次作を匂わせている。ただ、そこで使われている音色はデジタルな質感のもの。音像はパキッとしていて、ロック的なサウンドではあるものの、これまで彼らがやってきた80年以降のブラックミュージックと通じるサウンドと並べても違和感のないものが選ばれていた。90年代的なオルタナティブロックや2000年以降のインディーロックと並べても違和感はないハイファイなサウンドだろう。音楽としてのベクトルはこれまでと違うが、響きや手触りは遠くないものになっていることもあり、「VOLT-AGE」はこのEPに自然に収まっていた。

 それが『THE ANYMAL』になるとアナログな質感で、ザラッとしていて、スモーキーで、角が取れたサウンドになっている。例えば、それは現代のアーティストだと、ジャック・ホワイトだったり、The Black Keys(やメンバーのダン・オーバックのソロ)だったりと、ヴィンテージなサウンドを志向しつつ、その質感を新鮮に聴かせようとしているバンドや、なんならTedeschi Trucks Bandあたりのオールドスクールなアメリカのゴリゴリのブルースロックバンドあたりとも通じるものかもしれない。

 特に「Indigo Blues」は現代のものというよりは、1964年から1970年ごろまでのサイケデリックなロックの雰囲気を再現しているサウンドで、1970年代以降のプログレッシブロックや、ハードロックの時代になる前までの非常に限られた時期に生まれたロックの感触をピンポイントで狙ってるように思える。サイケデリックな部分ではJefferson Airplaneや最初期のPink Floydあたりを思い起こさせるし、もちろんThe Beatlesも浮かんでくる。しかも、そのサイケデリックさもきらびやかでカラフルなものではなく、ダウナーでとろーんとした類のもの。Tame Impalaあたりのインディーロックのそれとは異なる。

 そのサイケデリックなロックバンドたちがドラッグで覚醒しながらワンコードのブルースを演奏し、徐々に演奏時間が長くなり、サウンドが抽象化していったことを思わせるように、ここでのSuchmosも多くのポップソングにあるようなAABA的な構造ではなく、特に大きな展開をしないまま曲が進み、そのまま終わっていく。サビらしいサビと言える部分もあるようなないような曲で、少なくとも「歌いたくなる」類のわかりやすさやキャッチーさがある曲では決してない。前半部の6曲はあの時代のロック特有のかっこいい“だらしなさ”が前面に出ていて、かなりチャレンジングだ。

 またところどころに顔をのぞかせるリズム&ブルースやソウルといったブラックミュージックの感覚もロック経由に聴こえるもので、The Bandや、The Animals、デラニー&ボニーあたりのスワンプロックを想像したりした。前作でジャミロクワイをイメージさせていたように、直接的にUSのブラックミュージックを感じさせるというよりは、そこに感化されたサウンドからの影響が聴こえる。ここでも1つフィルターを挟んでいるあたりに彼らのオリジナリティがあるのかもしれない。とはいえ、前作とは違い圧倒的に“渋い”センスが鳴っているのだ。

 かと思えば、後半が始まる7曲目「PHASE2」では、ドナルド・バードの「Places And Spaces」を思わせるようなジャズ経由のクロスオーバーなサウンドが鳴り響き、艶やかなエレピがジャジーなハーモニーを奏で、ギターが軽やかにカッティングをはじめ、70年代中盤ごろのニューソウル的な雰囲気の「WHY」へ。と思ったら、スパニッシュギターっぽいアルペジオが印象的な「ROMA」という感じで、突如バラエティ豊かになる。そこから先はソウルやゴスペルの色が強めのフォークロック~ロックなサウンドでこれまでのSuchmosと通じるようなメロウなソウル感覚が強くなってきて、シティポップやAORになる直前くらいのちょっとアーシーでオーガニックな洗練具合が絶妙な塩梅で、このアルバムの最後にふさわしいサウンドになっている。

 というような中に、ところどころに今でしかありえない音色や音響がさりげなく入っていたり、リズムがタイトだったりして、往年のサウンドのコピーではなく、今の要素を散りばめてあるのだ。でもそれはアラバマ・シェイクスがやったような強烈に今を押し出し最新の響きを鳴らすのではなく、ディテールにささやかに宿らせるやり方だ。トレンドを意識してない素振りがところどころから聴こえてくる。

 やりたいことをやって、作りたいものを作る態度もここまでくるとすがすがしい。山下達郎や佐藤博、ティン・パン・アレー系のシティポップと並べて聴かれてもいいようなサウンドだったバンドが、時計の針を10年ほど巻き戻して、ザ・ゴールデン・カップスやザ・モップス、エイプリル・フールの時代のサウンドになったような変化という感じで、トレンドに近いところにいたバンドが、そこから一気に離れたともとれる。ボーカルの魅力や、太く分厚いベースラインがかなり前に出ていてドラムが控えめに聴こえる独特のサウンドはこれまで通りとはいえ、正直、ファンがこの『THE ANYMAL』をどう思うのか、僕には全く想像できない。でも、これまでの彼らの中では最も高い評価を得る作品になる可能性はあると思うし、僕はこれまでで最も面白く聴いたのはたしかだ。ファンにとっても、リスナーにとっても、日本の音楽シーンにとっても、いい戸惑いが起きそうな、一石を投じる作品が生まれたことを楽しみたいと思う。そして僕は今、久しぶりにTen Years AfterやSpooky Tooth、Vanilla Fudgeを引っ張り出しては聴き返している。

■柳樂光隆
1979年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。元レコード屋店長。 21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、 村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。カマシ・ ワシントン、サンダーキャット 、フライングロータス、ロバート・グラスパー、 くるりなどライナーノーツ多数。若林恵、 宮田文久と編集者やライター、 ジャーナリストを活気づけるための勉強会《音筆の会》共催。

■リリース情報
Suchmos『THE ANYMAL』
2019年3月27日(水)発売
CDの予約はこちら
ダウンロードはこちら
『THE ANYMAL』のダウンロード予約はこちら  
「In The Zoo」先行配信はこちら

初回生産限定盤(CD+DVD)¥3,500+税
*初回仕様に横浜スタジアムワンマンライブ『Suchmos THE LIVE』先行予約応募券封入
通常盤(CD)¥2,700+税
*初回仕様に横浜スタジアムワンマンライブ『Suchmos THE LIVE』先行予約応募券封入

<CD収録曲>
1. WATER
2. ROLL CALL
3. In The Zoo
4. You Blue I
5. BOUND
6. Indigo Blues
7. PHASE2
8. WHY
9. ROMA
10. Hit Me, Thunder
11. HERE COMES THE SIX-POINTER
12. BUBBLE

<DVD収録内容>※初回生産限定盤のみ
初めてSuchmosのレコーディング風景を収めたストーリーム ービー
「Join Us And Go Somewhere Nice」収録
*ティザー映像はこちら

■ライブ情報
Suchmos『ARENA TOUR 2019』

2019年3月16日(土)
会場:【静岡】エコパアリーナ
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
料金:¥6,500(指定席)
info:JAILHOUSE 052-936-6041

2019年3月30日(土)
会場:【宮城】ゼビオアリーナ仙台
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
料金:¥6,500(指定席)
info:ノースロードミュージック 022-256-1000
※チケットソールドアウト

2019年4月6日(土)
会場:【北海道】北海道立総合体育センター 北海きたえーる
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
料金:¥6,500(指定席)
info:WESS 011-614-9999

2019年4月20日(土)
会場:【新潟】朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
時間:OPEN 16:00 / START 17:00
料金:¥6,500(指定席)
info:キョードー北陸チケットセンター 025-245-5100

2019年4月29日(月・祝)
会場:【福岡】福岡国際センター
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
料金:¥6,500(指定席)
info:BEA 092-712-4221
※チケットソールドアウト

2019年5月11日(土)
会場:【広島】広島サンプラザホール
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
料金:¥6,500(指定席)
info:YUMEBANCHI(広島) 082-249-3571

2019年5月25日(土)
会場:【兵庫 / 神戸】ワールド記念ホール
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
料金:¥6,500(指定席)
info:清水音泉 06-6357-3666
※チケットソールドアウト

2019年5月26日(日)
会場:【兵庫 / 神戸】ワールド記念ホール
時間:OPEN 16:00 / START 17:00
料金:¥6,500(指定席)
info:清水音泉 06-6357-3666

『Suchmos THE LIVE』
日程:2019年9月8日(日)
会場:【神奈川】横浜スタジアム
時間:OPEN 15:00 / START 17:00
料金:¥7,500(全席指定)
info:HOT STUFF PROMOTION  03-5720-9999

3rd Album『THE ANYMAL』CD封入先行
受付期間:2019年3月27日(水)12:00~4月15日(月)23:59

■関連リンク
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