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石崎ひゅーいが奏でる、“今”の音 『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』書き下ろし曲から分析

リアルサウンド

19/6/12(水) 19:00

 今風の石崎ひゅーい。モダンな石崎ひゅーい。

 こうして字にすると、どうにも違和感を覚えてしまう。なにしろ、何事に対しても体当たりで挑むのがこの男。むしろその正直さ、自分を偽れないまっすぐさが伝わる歌こそが彼の魅力であるのは、言うまでもないからだ。

 だからひゅーいの場合は、音楽性に関しても、ストレートでオーソドックスなサウンドやアレンジのほうが相性がいい。むしろ、ちょっと古めかしいもののほうが似合っているくらいである。ロックナンバーでもバラードでも、弾き語りでもバンドサウンドでも、とにかく彼自身の体温や感覚に寄り添ってさえいれば、今っぽい意匠なんて必要ない。そこまで強く意識していたわけではないが、僕自身、なんとなくそんなふうに捉えていた節がある。

 しかし、このたびリリースされる「Namida」では、かなり“今”の音が鳴っている。そしてこのことに、ひゅーいがアーティストとして新しい段階に差しかかっている事実を感じるのである。

石崎ひゅーい Namida【Teaser】

 6月12日から配信される新曲は2曲。その両方とも、14日から全国公開される映画『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』のために書き下ろされたものだ。『誰ガ為のアルケミスト』は世界レベルで人気のアプリゲームだそうで、今回はそのアニメーション映画版が制作されたということである。

 同作品のストーリーは、自分に自信が持てない女子高生が錬金術と魔法を使って世界を救うというファンタジックなもの。映画の公式サイトの中で、ひゅーいはこんなコメントを寄せている。

「ゲーム原作のアニメーション映画の書き下ろしは初めてだったので自分の楽曲がどのように溶け込んでいくのは不安な部分もありましたが、河森総監督とお話をしていく中で次第にイメージが湧いてきて新鮮な気持ちで挑むことができました」

 河森正治は『マクロス』や『アクエリオン』のシリーズで知られるベテランのアニメーション監督で、これが40周年記念作品になるとのこと。ひゅーいはこの総監督と事前に顔を合わせ、そこから楽曲を制作していったようだ。

 では『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』の主題歌である「Namida」について触れていこう。この楽曲、実は歌やメロディはまさに“ひゅーい節”といった感じで、大きな意外性があるわけではない。とくに切々とした歌声やサビ部分での静かな高揚は、彼の歌を愛してきた者であれば「これこれ!」と思ってしまうような快感を覚えるはずである。なお、この曲は4月下旬に行われたツアー『ゴールデンエイジ』でファンにはお披露目済み。これが仮に弾き語りで唄われても、今までのひゅーいの歌と並べて何の違和感もなく親しまれることだろう。

石崎ひゅーい Namida【劇場版 誰ガ為のアルケミスト】ver.

 ただ、今までになかった秀逸さを感じるところもある。それは歌詞だ。ひゅーいは先のコメントで、こうも綴っている。

「キャラクターの心情や背景をイメージしながら制作しました。ストーリーと曲がリンクする事で、より皆さんの心に届く作品になるように心掛けました。劇場で楽曲にも注目してもらえればと思います」

 ストーリーの詳細に触れるのは避けるが、事前に公開されている映像からすると、登場人物が涙を流すことが物語のポイントの1つになっている。ひゅーいはそうした視点からこの曲を書き、「Namida」というタイトルをつけたのだろう。

 実はひゅーいはタイアップに関して、ちゃんとそれに応えた歌を書いてきた。ちなみに過去に担当したのは「夜間飛行」(ドラマ『みんな!エスパーだよ!』エンディングテーマ)、「ピーナッツバター」(『新解釈・日本史』エンディングテーマ)、最近の「アンコール」(『平成ばしる』主題歌)、「あなたはどこにいるの」(『さすらい温泉♨遠藤憲一』主題歌)など、ドラマ絡みが多い(中にはすでに書いていた楽曲が採用されたパターンもある)。もっとも、いずれの歌を聴いても浮かび上がるのは、ドラマのストーリーもさることながら、最終的には石崎ひゅーいの個人性だ。言うなれば、ひゅーい自身がその物語や登場人物に自分を重ね合わせ、対象の作品の世界に入り込んで書いた気配が強いのである。この記事の最初のほうで体当たりと書いたが、これはそんな彼だからこそ見出した主題歌への適応手段だったのだと思う。

 「Namida」でも、基本的にはそうした姿勢は続いている。〈誰かのためじゃないさ ただ君のためだけに/不甲斐のない毎日を噛みしめているんだ〉と唄う姿は、いつものように、ひたむきな気持ちを抱えたひゅーいだ。

 しかし今までとやや違う何かを感じるのは、涙についての歌でありながら、悲しみだけではなく、感謝や喜びといった感情にも向けられている点である。というのは、映画の予告映像では「二度とお前に涙は流させねえ」というセリフが聞かれる。つまりひゅーいはこの歌を書くにあたり、涙のニュアンスを拡大して描写したのではないか、と。あるいは、映画のストーリーをより発展させて書いたのではないか、と推測できるのだ。つまりこの歌に、映画という題材を超えた普遍性を持たせようとしたのではないだろうか。

 僕がこう考える根拠は、前作のミニアルバム『ゴールデンエイジ』の原稿でも触れたのだが、菅田将暉に「さよならエレジー」を書き下ろしたことにある。今までのタイアップでは対象作品に没入して書いていたのが、「さよならエレジー」で菅田という人間をどう楽曲化していくのかという命題に向かった際に、ひゅーいは、自分以外の人間の立場や目線、感覚から歌を書くことを意識した。そしてそのコラボレーションの大成功が貴重な経験をもたらしたのではないかと思うのである。

 言わば、曲を書くにあたり、いくばくかの客観性が宿ったわけだ。対象をちょっと引いた地点から見て、感じ、その別角度から歌を作ってみること。そしてその次に、再び自分だけの感覚や価値観を盛り込みながら曲の世界をふくらませていくこと。こうすることによって楽曲は広がりを持ち、タイアップだとしても確実に自分独自の歌になっていく。ここに来て彼はそうしたやり方を身につけたのではないだろうか。

 そして「Namida」のポイントは、冒頭に書いたようなサウンドの新しさだ。EDMを下敷きにした繊細かつ力強いビート感、清涼感のあるピアノの響き、鮮やかなストリングスノートの渦。その中から聴こえてくるのは、いつものように強いエモーションを秘めたひゅーいのボーカルである。

 アレンジャーのトオミヨウはひゅーいをデビュー前から支えてきたサウンドプロデューサーで、また、それこそ菅田将暉やあいみょん、それにYUKI、V6、平井堅といった多数のアーティストと仕事をしてきた才能である。もちろん現代的な音作りもできる人だけに、ひゅーいに対してはそうしたサウンドをあえて当ててこなかったと考えるべきだろう。

 そして、「Namida」のサウンドトリートメントについてはひゅーいではなくトオミの判断によるところが大きいと予想する。そこにはこの曲がアプリから生まれたアニメ映画という、基本的に若い層に向けられたものという背景もあるはずだ。

 だが……おそらくはトオミも、今ならちょっと舵を切ってもいいタイミングだと捉えたのだろう。新しい石崎ひゅーいのイメージへと。

 ひゅーいは、やはり変化の時期を迎えているのだ。それはここまでに書いたように曲作りへの意識が変わってきているし、また、ファン層や彼を取り巻く人たちも以前に比べると幅が広がりつつある。

 このことが今後、彼自身にどんな影響を与えていくのかは、まだわからない。ただ、そもそも個人性が強いシンガーソングライターという存在は、外からの働きかけによって内面が活性化され、作品の向かう先が拡大していくことも多い。たとえばエド・シーランがまるで他流試合のようなコラボさえも望むのは、そうしたチャレンジに意義があると考えているからだろう。ひゅーい自身は放っておくと家から出ようとしないタイプの内向性の持ち主なので、タイアップのような他方面からの刺激によって作風に前向きな変化が訪れるのだとしたら、それは彼自身がプラスの材料にしていかなければいけないことのはずだ。

 「Namida」には、そうした現在のひゅーいの横顔が、くっきりと浮かび上がっている。

 といっても、彼の変わらない良さも健在である。今回リリースされるもう1曲の「あの夏の日の魔法」は、『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』のエンディングソング。ひゅーいらしい優しいメロディをたたえたスローナンバーで、アコースティックギターとキーボードの絡みはまさに夏の匂いそのもの。歌詞にある、主に学生の目から見た夏の風景は、やはり映画のストーリーからインスパイアされているのだろう。ただ、秘密基地とかゲーセン、ジャングルジムといった描写は、女子高生というよりも、やはり男子(つまりひゅーい自身)が捉えた思い出の夏という趣がある。それと〈病室の花瓶〉という一節も含め、彼の初期作の傾向を今一度思い起こさせる部分も持っている。とても叙情的な味わいを持つ歌だ。

 「あの夏の日の魔法」のサウンドには、「Namida」ほどの新規性はない。ただ、これもおそらくトオミが弾いているキーボードの音色はややGファンク的で、アレンジ全体にアーバンな洗練が感じられる。泥臭くないこの音のあり方は、「Namida」と並べても遜色のないものになっている。

 そんなひゅーいの近況としては、5月にはドイツに渡航していたことをSNSに投稿し、また菅田将暉の2ndアルバム『LOVE』(7月10日発売)に「クローバー」という曲を提供したことも発表されている。

 そして先ほどの「あの夏の日の魔法」は、6月から始まる弾き語りの全国ツアーのタイトルにもなっている。その25公演はどこもこじんまりとした会場が選ばれており、彼の歌を間近で体験する絶好の機会となる。もっとも、この弾き語りのライブ自体、ひゅーいがずっとやって来たこと。変わらない姿勢の表れのひとつだ。

 思えば、ミニアルバム『ゴールデンエイジ』のタイトルの“成長期”という意味は、子供や青年に使われるものだった。そんな言葉を持ち出したあたりには、まだ大人になりきっていない自分への自覚も垣間見えたものである。

 ひゅーいは、それでもこうして、徐々にではあるが、変節の時期を迎えているのだ。その過渡的な感触も含めて、今の彼の歌を味わってほしいと思う。

■青木優
音楽ジャーナリスト/ライター。洋邦のロック、ポップスを中心に執筆。男。妻子あり。Twitterアカウントは、@you_aoki

■配信情報
2019年6月12日(水)配信リリース
石崎ひゅーい「Namida」「あの夏の日の魔法」
「Namida」:『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』主題歌
「あの夏の日の魔法」:『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』エンディングソング

■公開情報
『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』
2019年6月14日「TOHOシネマズ 新宿」他にてロードショー
映画公式サイト

■ライブ情報
『石崎ひゅーい アコースティックTOUR「あの夏の日の魔法」』
6月14日(金)[大阪]世界館
6月15日(土)[兵庫]神戸酒心館ホール
6月28日(金)[福岡]ROOMS
6月29日(土)[熊本]高瀬蔵
7月6日(土)、7月7日(日)[愛知]三楽座
7月11日(木)[宮城]誰も知らない劇場
7月13日(土)[岩手]岩手県公会堂 21号室
7月14日(日)[秋田]秋田THE CAT WALK
7月15日(月)[青森]ねぶたの家 ワ・ラッセ イベントホール
7月20日(土)[新潟]新潟ジョイアミーア
7月21日(日)[茨城]水戸voice
7月26日(金)[北海道]函館⼭⼭頂展望台ホール クレモナ
7月27日(土)[北海道]札幌プラザ2.5 (BFHホール)
8月3日(土)[沖縄]石垣 JAZZ BAR すけあくろ
8月4日(日)[沖縄]桜坂劇場ホールB
8月14日(水)[広島]LiveJuke
8月16日(金)[広島]尾道 汐待亭
8月17日(土)[岡山]MO:GLA
8月18日(日)[島根]松江 興雲閣
8月30日(金)[福島]郡山市公会堂
8月31日(土)[山形]山形県郷土館・文翔館議場ホール
9月1日(日)[宮城]気仙沼K-Port
9月7日(土)、9月8日(日)[東京]浅草花劇場

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