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夏川椎菜、東山奈央……多彩な声色&演技力を発揮した声優音楽に注目

リアルサウンド

19/5/10(金) 7:00

 声優が声優たらしめる理由、それは声色と演技力がいかに卓抜としているか? そしてこだわりをもっているか? そこに尽きると思う。アニメのキャラソンや声優の音楽が大きな注目を集める中でも、昔から変わらずこの一点はブレることなくある。今回は東山奈央と夏川椎菜の最新作に、声優ならではの声色の多彩さや演技力ともいえよう歌唱力を見つけてみよう。

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・夏川椎菜『ログライン』

 2010年代の声優音楽シーンを引っ張ってきたグループといえば、TrySailが挙げられるだろう。3枚のアルバムを発売し、全国ツアーを幾度となく開催、声優としての活動と並行し、今年で活動歴5年の節目を迎えた。

 メンバーである雨宮天、麻倉もも、夏川椎菜の3人は、それぞれにソロでも精力的に活動。そして今年4月には、夏川椎菜が1stアルバム『ログライン』を発表した。

 意外なことに、彼女は2017年にシングル『グレープフルーツムーン』でソロデビューを果たすまでは積極的に音楽を聞くタイプではなかったことを告白している。TrySailでの活動を通して感じていた「歌うこと」への距離感や、麻倉ももと雨宮天2人のソロ活動を目の当たりにしてきたことで生まれた葛藤などが、彼女を消極的にさせていたようだ。

 だが、音楽に馴染みが薄った彼女は、一念発起し、片っ端から音楽を聞き始め、スタッフへ自分の考えをうまく伝えようとかなりのインプットに励むようになる。インタビュー(https://www.famitsu.com/news/201904/02174097.html)によると、今作『ログライン』制作時にはスタッフに口うるさく言えるようになったという。それも楽曲のアレンジだけにとどまらず、ミキシング、マスタリング、トラックダウンそれぞれの現場に立ちあい、細やかなニュアンスにもこだわりを持つようになった(参照:https://natalie.mu/music/pp/natsukawashiina)。

 音楽に対して感じていた壁を乗り越えて自分らしいこだわりを持って臨んだ今作は、EDM~エレクトロサウンドとバンドサウンドの2軸で支えられたアルバムである。と同時に、苦手意識を持っていたボーカルに対して、彼女がいくつもの歌い方にチャレンジしていることからも、彼女の変貌ぶりを感じられる。

 例えば「ラブリルブラ」と「Daisy Days (Album Mix)」は、前者では滑舌をハッキリとさせずあえて気だるそうに歌っているが、後者では比較的ハッキリとした発声で明るめな声色で歌っている。2ndシングルにもなったEDM系楽曲「フワリ、コロリ、カラン、コロン」では抑揚をかなり抑えた歌い方だが、3rdシングル曲「パレイド」ではソフトな歌い始めから徐々に声を張っていく感情に沿ったボーカルを聴かせてくれたりと、変化をつけたボーカルでリスナーを飽きさせないようにこだわっているのだ。

 歌に、音楽に、彼女は一つ一つに意識を払うようになった。ソロデビューからわずか2年で大きな変貌を遂げた彼女の、こだわりとセンスが詰め込まれた処女作だと言えよう。

・東山奈央『群青インフィニティ』

 歌い方に豊富なボキャブラリーを持つ女性声優といえば、ソロデビュー以前にも100曲以上のキャラクターソングを務め、数多くのキャラクターを演じてきた東山奈央を忘れてはいけないだろう。

 彼女が演じた代表的なキャラクターといえば、10代なかばから20歳初めころのキャラクター、特に女子高生を務めることが多く、最新アルバム『群青インフィニティ』で歌われるような青春性や清々しさといったイメージは、いまのところ彼女の代名詞といってもいいのかもしれない。

 シングル曲となった「灯火のまにまに」「群青インフィニティ」「未来YELL!」ではバンドサウンドを、「Action」「青空ダイアリー」「I Want You To Know Baby」のEDMエレクトロサウンドを軸にし、絶妙に毛色の違ったサウンドスケープがある。また、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDが作詞作曲を務めた「Living Dying Kissin’」は、00年代のDaft Punkを思わせるフレンチハウスと80年代のテクノポップが持ち合わせていたファンキーさが隠し味になった1曲だ。

 微妙なさじ加減で統一感がもたらされた1枚となった『群青インフィニティ』。今作がドラマティックなものとしてリスナーに届くのは、東山奈央による歌唱力、いや演技力なのだろうと思う。

 「ゆれる」での、低めのアダルティな声色と余韻を引きずるような歌い口は、物語のような歌詞が綴じられたこの曲に対して、まさにピッタリ。この声色を当てるために、わざとボーカルメロディを調整したのでは? と勘ぐってしまいたくもなる。

 今作において、東山奈央の演技力を最も引き出したといえるのが「さよならモラトリアム」であろう。歌詞に沿って、女神、子供、少女、大人にイケメンと、わかりやすくキャラ付けた声色を、歌という形として収めている。

 おそらくパンチイン(すでに録音された音を部分的に差し替える録音の方法)を駆使しつつ、うまく調整を加えながら収録したのだろうとは思うが、破天荒に展開し続けるハイテンションな楽曲に合わせつつ、何人もの登場人物を演じきってしまうのは、多くのキャラソンをこなし、声優として豊富な経験をもった、いまの東山奈央だからこそできた到達点だといえよう。

 それぞれ最新作で、夏川椎菜は多彩な声色を使い分け、東山奈央は持ち前の演技力(歌唱力)を発揮した。ソロシンガーとしてまだスタートを切ったばかりの2人ではあるのだが、今後より素晴らしい楽曲を生み出してくれそうな予感も感じられる2作品であり、声優が生み出せるポップスとして、一つの解答例を見せてくれたといえる作品となったのだ。(草野虹)

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