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いま、最高の一本に出会える

椿組の花園神社野外劇、今年は中上健次を上演

ぴあ

19/7/5(金) 12:00

新宿・花園神社の境内にそびえる特設テントで、椿組が仕掛ける野外劇が7月10日(水)~22日(月)に上演される。タイトルは『「芙蓉咲く路地のサーガ」 ~熊野にありし男の物語~』。中上健次の小説『岬』『枯木灘』『地の果て至上の時』を、青木豪の脚本・演出で、演劇作品へと編み上げる。仕掛け人の俳優・プロデューサー、外波山文明に話を聞いた。

彼が野外劇と出会ったのは50年以上前。唐十郎が花園神社に紅(あか)テントを建てた、1967年の公演を観たという。転じて、外波山が野外劇を「やる側」になったのはちょうど50年前。井の頭公園での公演や、東北での「路上劇」に参加して、その魅力に惹き込まれた。

「血を求めて歩く吸血鬼じゃなくて、血を流して歩く“出血鬼”という設定があってね。道路のあちこちに血のりを撒いて、ご近所の人に清めの塩をもらって、清めるまでの一連を10分間ぐらいで演じるんです」

そして彼らが去ったあとには、道ばたに、血のりの跡だけが残る。

「今は管理が厳しくなったけど、当時は僕たちが行くところは、どこでも、劇場だったんですよ。風景の中に、事件を起こす演劇がしたかった。今だってこうして、テントを設営しているけど、4日前には何もなかったわけです」

外波山が座っているのは、花園神社境内に建設中の、巨大なテントの中である。夏が来るたびにここで野外劇を上演するようになって、早くも34年が経った。

「なんにもないところに突然テントが建って、公演が終わると、2日後には跡形もなく更地になっている。僕たちがしたことは、お客さんの記憶の中にだけ残っていくんです」

今回、椿組が仕掛けるのは、小説家・中上健次の3作品をもとにした新作演劇だ。紀州・熊野を舞台に、“路地”と呼ばれる貧しい地域で地を這うように生きた男、秋幸の生き様を描く。中上は若き日に外波山と意気投合し、唯一の戯曲となる『かなかぬち』(1979年初演)を書き下ろしたという間柄。

「人が生きる場所には必ず影があり、行き止まりがあり、迷路がある。川と海と山に囲まれた場所で、逃れられない血縁の人たちと、犬のように生きる男たちの物語です。中上自身の、実話に近い家族の話ですね」

脚本・演出の青木豪は、外波山が「野外劇やらない?」と持ちかけたら、「中上健次作品をやらせてくれるなら、ぜひ」と言ったのだそうだ。青木いわく「中上の作品世界が、自分の生まれ育った土地とそっくりで、他人事とは思えなかったんですよ。血縁のある人間関係って、みんな、いろんな気持ちを押し込めながら過ごしてるじゃないですか。その押し込めた気持ちが、この芝居を観て、うわっ!とあふれてくれたらいいなと思います。あふれる瞬間があってもいいんだな、と思っていただけたら」。

そして、中上作品のとあるモチーフをもとにした持ち歌のある山崎ハコに主題歌を依頼したら、稽古を観に来た2日後に、2曲、書き上げてきたという。「しかも彼女が言うんです。“公演期間中、スケジュール空いてますよ”って(笑)。だから全日、彼女が生で歌ってくれます」と外波山。

花園神社での野外劇の、何がそんなに、様々な人を惹きつけるのだろう。

「まず、スケールの大きさですよね。八間(はちけん)なんていう間口(※舞台上手から下手までの幅)、歌舞伎座と一緒ですからね。花道も作りますから、役者が縦横無尽に出入りするんですよ。しかも、土の上で芝居できるってのがいい」

72歳のベテランが少年の顔になる。

「そういう空間の中で、しっかりとした物語をやりたいんです。そして、幕切れまでの10秒間、客席から“おお……!”っていうどよめきが聞こえた瞬間の、してやったりがたまりませんね。こっそり、ほくそ笑むのが好きなんです(笑)」

特筆すべきは、会場で缶ビールをはじめとする飲み物を売っている点である。飲みながら観劇することもできるし、終演後、芝居の余韻に満ちた劇空間で、出演陣と混じって黄金色の炭酸をあおることもできる。

「お客さんをもてなしたい、というのが根底にあるんです。開演前の“おせんにキャラメル~”もそう。とにかく何も考えずに楽しんでいただいて、翌朝ぐらいに“そういえばあのシーンは何だったんだろう……”って何かが心に残ってくれたらうれしい」

夏祭りのにぎわいと、演劇の醍醐味と。あふれる感情の大波に溺れに、花園神社へ出かけよう。

取材・文:小川志津子

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