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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

第15回

川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』

『煙突の見える場所』の話から…荒川放水路を舞台にした映画…成瀬巳喜男の『浮雲』につながりました。

隔週連載

19/1/8(火)

 『煙突の見える場所』(53年)や『東京物語』(53年)に登場した荒川放水路(昭和四十年の河川法の改正によって呼称は荒川となった)は、昔の日本映画には実によく登場する。東京の川のなかでは大きく、草土手や河川敷があって自然の川のように見えるためだろう。
 永井荷風原作、久松静児監督の『「春情鳩の街」より 渡り鳥いつ帰る』(55年)では昭和二十年三月十日、下町を襲った東京大空襲の日、下町の人々が荒川放水路の土手や河川敷で難を免れた様子が描かれている。
 荒川で荒物屋をしている織田政雄と、江戸川区の平井で夫と洗濯屋をしている水戸光子が、それぞれ荒川放水路の葛西橋のところへ逃れて、なんとか助かる。河川敷が広い荒川放水路は下町の人々の避難所になった。
 この映画は、荒川放水路の西、向島にあった私娼の町、鳩の街を舞台にしているので、しばしば荒川放水路がとらえられる。
 薄幸の私娼、桂木洋子は放水路に架かる堀切橋のたもとの草土手で自殺する。私娼屋の主人、森繁久彌は酔って堀切橋から放水路に落ちて死んでしまう。
 いい場面もある。東京大空襲でかろうじて生き延びた織田政雄と水戸光子は、その後、それぞれ行商に歩いていた時に、葛西橋の袂で再会する。幸い、天気がいい。暖かい日ざしのなかで二人は草土手に座って持参の弁当を開く。空襲でそれぞれ連れ合いを亡くした二人はそのあと結ばれる。
 この場面の荒川放水路の眺めは、まだ周囲に高い建物はなく広々として素晴らしい。